【書評】'Social TV'
なんだか書評ブログっぽいエントリが続きますが、今回も'Social TV: How Marketers Can Reach and Engage Audiences by Connecting Television to the Web, Social Media, and Mobile'という本について簡単に紹介と感想を。
「ネットがテレビを殺す」などと言われて久しいですが、最近は予想とは異なる状況が現れつつあります。言うまでもなく、テレビとソーシャルメディアとのコラボレーションですね。テレビ番組をリアルタイムで視聴し、感想やツッコミをソーシャルメディアで共有するという「バーチャルお茶の間」体験はごく一般的なものになりましたし、それ専用のサービス(tuneTVやコレミタなど)も登場しています。テレビ局の側でも、ハッシュタグを用意して感想をツイートしてもらう、関連ツイートを番組で流してしまう、番組公式アプリを提供するなどといった対応を行うようになりました。ネットはテレビを殺すどころか、むしろこうした動きによって、テレビに新たな価値を付与するようになったと言えるのではないでしょうか。
「ソーシャルTV」はその名の通り、テレビという存在がいかにソーシャルメディアと深く関わるようになっているのかを描いた一冊です(米国で書かれた本ですので米国の解説が中心)。しかし前述のように、単に「テレビとソーシャルメディアが結びついた」と言ってもそれが意味するものは多岐にわたり、さらに米国内でユニークな状況、例えば「テレビ番組にチェックインする」アプリ(GetGlue、Miso、IntoNowなど)の流行なども存在します。米国のテレビ業界に詳しい方にとっては当然の話ばかりかもしれませんが、僕は正直なところ「番組内容をツイートしてもらえば盛り上がるよね!」的な使い道しか想像していなかったので、本書を読んでテレビ×ソーシャルメディアという世界が大きな可能性を見せていることに驚かされました。
例えば先程のチェックインアプリ。ちょうど今日、AdAgeで以下の記事(GetGlueのチェックイン数が多いテレビ番組のランキング)が出ていたのですが、全米という規模を割り引いてもチェックイン数の多さに目を引かれるのではないでしょうか:
■ TV Check-In Cha-Cha: 'Mad Men' Outshines 1,000th Season of 'Dancing With the Stars' (AdAge)
本書で紹介されていた調査によれば、「番組にチェックイン」という行為は(当然の話ですが)番組開始時間の前後に急増するとのこと。つまり「この番組を観るよ!」というのを示す行動になっているわけですね。多チャンネルが当たり前の米国では、こうした行動は友人が何を観ているのか、あるいは今どの番組に人気があるのかを知る上で大きな助けとなります。またテレビ局や番組制作側にとっても、視聴率的なデータとして、もしくはより詳しいフィードバック(チェックインしたユーザーの属性情報を絡めることで)として利用することができます。このようにチェックインアプリひとつ取っても、それが「テレビを観る」という体験をより面白くする上で、またテレビ番組自体を面白くする上で大きな可能性を秘めていることが分かるでしょう。
本書ではほかにも、番組内には収まらなかった追加情報を提供する「セカンドスクリーン」としてのソーシャルメディアの可能性や、さらに「セカンドスクリーン」により関連性の高い広告を表示する可能性、人気番組の新シーズンが始まるまでの「つなぎコンテンツ」を提供する場としてのソーシャルメディアの可能性、そして忘れてはならないモバイル展開などなど、様々な取り組みが紹介されています。恐らくテレビ業界以外の人々にとっても、テレビという存在をケーススタディにして、これからソーシャルメディアをどう活用してゆくのかのヒントを与えてくれる一冊になるのではないでしょうか。
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ちなみに本書の各章にはQRコードが掲載されていて、ネット上のコンテンツと合わせて読むようになっています。ネット限定の第11章も公開されていますので、ご興味のある方は以下をどうぞ:
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