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【書評】Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web

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昨年6月、GoogleがFacebookに対抗するソーシャルサービスとして鳴り物入りで発表した「Google+」。そのGoogle+の設計に中心的な役割で携わりながら、Facebookに転籍して話題になったポール・アダムスという人物がいます。彼はFacebookに移籍後、Google+の目玉機能である「サークル」に通じるタイトルが掲げられた"Social Circles"という書籍を執筆していたこと、その出版がGoogleによって差し止められたことを暴露。こうした騒動の影響もあってか、アダムス氏は2011年11月に米フォーチュン誌から「シリコンバレーで最も求められている人材」の一人に選ばれています。

前置きが長くなりましたが、ポール・アダムス氏が"Social Circles"の後に執筆したのが本書"Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter)"になります。ありていに言えば、ソーシャルメディア時代のマーケティングを考えた一冊、と言えるでしょうか。

アダムス氏はネットがソーシャル化しつつある現状をふまえ、メッセージを拡散する上で「人々のつながりはどのような構造になっているのか」を理解することが重要であると指摘。従来のようなインフルエンサー、つまりネット上で影響力のある人物に頼るというアプローチに替わり、「強い絆で結ばれた少人数のグループに注目する」「グループからグループへとメッセージを連鎖させる」という新たなモデルを提唱しています。マルコム・グラッドウェル氏の著作『ティッピング・ポイント』など、インフルエンサーが存在するという考え方は広く支持されているわけですが、本書は様々な研究からインフルエンサーが極めて希な存在であることが明らかになっていると反論。また消費者はブランドの認知から購入に至るまで、ステップを経て進むという「ファネル理論」についても否定的な見解が述べられており、賛否両論を巻き起こす内容となっています。

最近日本では「ステマ(ステルスマーケティング)」が話題となっていますが、ある意味でこれはインフルエンサーの理論を基にしたものと言えるでしょう。宣伝であることを黙って芸能人にブログを書いてもらえば、そこから一気に火が付いて流行が生まれるはず、という寸法ですね。しかし仮にこの方法がうまく行ったとしても(そして倫理的に許されるどうかは問わないとしても)、本書の理論に照らし合わせれば汎用性のあるものではなく、例外的な情報流通経路を利用しているに過ぎません。従って現在行われているようなステマは論理的に問題である以前に、誤った前提に基づいた非効率なアプローチ、ということになります。このような解釈ができるかどうか、本書を読んだ方々と議論してみたいところですが、いずれにしても"Grouped"の内容は新たな視点を提示してくれるものだと感じました。

ただ前書きでも明言されていることですが、本書は入門書として位置付けられていて、あえて簡潔な解説に留められています。本文は図表を含めて150ページ程度しかなく、既にある程度の知識を持っている人には物足りないかもしれません(その代わりに参考文献が充実していて、本書を出発点にしてより深い情報を探ることが可能)。しかし長年ネットに関する研究を行ってきた人物だけあり、その文章は論理的かつ明快で、ページ数以上に密度が濃い本となっています。前述の通りアダムス氏はシリコンバレーでも注目される一人であり、その人物がこれからのネットをどう捉えているのか、またネットがマーケティングをどう変えると考えているのかを知ることができる本書は、多くの関心が寄せられる一冊になるのではないでしょうか。

Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter) Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter)
Paul Adams

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