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導火線としてのソーシャルメディア

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市民への発砲事件に端を発した、英国の暴動騒ぎ。発生地のトットナムからロンドンへと波及した暴動は、さらにバーミンガムやリバプールといった都市にも拡大を見せています。そして予想通りというべきか、「ソーシャルメディアが暴動の一因」的な報道が目に付くようになってきました:

英暴動がリバプールなど地方に拡大、若者の高失業率も要因に (ロイター)

暴動はロンドン南部のほか、北西部のリバプールや西部のブリストルにも騒動は拡大。暴動に加わる若者たちの中には、襲撃の際に携帯電話やツイッターを使って連携を取る者もいる。

ちょうど今年1月に起きたチュニジア革命と比較して、「ソーシャルメディア革命」のネガティブ版として捉える向きもあるようです。しかしロイターの記事でも指摘されている通り、あくまでも原因となったのは、若年層が長年にわたって抱いてきた社会に対する不満であると捉えるべきでしょう。細かい話をすれば、トットナムの暴動については参加者間のコミュニケーションにブラックベリーのメール/チャット機能が使われたという報道もあり(ex. Guardian紙の記事)、であれば「ソーシャルメディアの普及が引き起こした暴動」という評価は正しくありません。

しかし北アフリカ・中東で起きた一連の抗議活動と、今回の暴動の推移には類似点もあります。例えば社会への不満という点では、チュニジア革命の際にも、独裁政権の腐敗や失業率の悪化といった要因から若者の間に不満が蓄積されていました。そして自分と同じ若者が、警察の横暴がきっかけで命を落とすという事件(チュニジアではモハメド・ブアジジの焼身自殺事件、英国ではマーク・デュガンへの発砲事件)が生まれ、それが原因で暴動が発生するという点も同じです。さらに元となった事件と、暴動の様子が即座にネットを通じて共有される、という流れも両方のケースで見ることができます。

例えば英国の暴動については、こんな事例が発生しているとのこと:

How technology fuelled Britain's first 21st century riot (Telegraph)

On Saturday night, rioters and spectators filmed the mayhem using mobile phones and camcorders and quickly posted the footage on Youtube.

Some looters photographed each other in front of wrecked and burning shops as “trophy” snaps.

A terrified woman who had become trapped in a shop on Tottenham High Road posted footage of dozens of riot officers charging from their line of vans towards flaming barricades.

土曜日の夜、暴徒と野次馬は携帯電話やビデオカメラを使って暴動の様子を撮影し、即座にYouTube上にアップするという行為を行っている。

略奪を行った人々の中には、破壊され火のついた店舗の前で「記念写真」を撮る者までいた。

トットナムにある店舗から外に出ることが出来ず、恐ろしい思いをしていた一人の女性は、無数の機動隊員が炎上するバリケードに向かって突撃する様子をネットに書き込んだ。

またチュニジアのブアジジ事件に際しては、彼の追悼ページがFacebookに設置され、そこがコミュニケーションの起点となって行ったのですが、今回も同様にマーク・デュガンの追悼ページが設置されています:

R.I.P Mark Duggan

こちらのページには、現地時間で8月6日午後10時45分にこんな書き込みがなされています

Please upload any pictures or video's you may have from tonight in Tottenham. Share it with people to send the message out as to why this has blown into a riot.

今夜のトットナムの様子を撮影した写真やビデオをアップロードして欲しい。人々とシェアして、なぜこの出来事が暴動へと発展したのか、その理由を伝えるんだ。

人々の心に溜まっていた不満を爆発させる、衝撃的で象徴的な事件。そして自分と同じ年代や立場の人々が、(良い意味でも悪い意味でも)権力を恐れずに、デモや暴動に参加している姿。ソーシャルメディアはこれらの「火」を起こすマッチではありませんが、起きた火を伝える「導火線」としての役割を負うケースが出てきた、と言えるのではないでしょうか。

以前ご紹介したバンクーバーの暴動のケースでは、暴動が沈静化した後で、混乱した街を元通りにしようという動きがソーシャルメディアを通じて生まれていました。今回の英暴動でも、既にそうした取り組みを呼びかけるFacebookページが登場し始めているようです。暴力以外の行動で社会を変えようという「火」についても、同じように伝えられるのがソーシャルメディアなのだ、と証明する事例が一つでも増えてくれることを願います。

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