【書評】『新大久保とK-POP』
毎日コミュニケーションズ様より『新大久保とK-POP』をいただきました。ありがとうございます。ということで、いつものようにご紹介と感想を。
俳優・高岡蒼甫氏のツイートに端を発した「韓流ゴリ押し批判」。フジテレビに対するデモやスポンサー製品不買運動まで発生するなど、騒動は拡大を見せており、韓流とは何かを冷静に考えることが難しい環境となってしまいました。しかしK-POPを始めとする韓国文化コンテンツが日本に流入している状況を、単なる「テレビ局のヤラセ」と捉えるのは誤りであり、私たち自身にとってもマイナスでしかないことを本書は明確に指摘してくれます。
本書の中心となるのは、タイトルにもある「新大久保」と「K-POP」。新大久保は駅名に過ぎませんが、同駅をとりまく地域が韓流コンテンツの集積地的な様相を見せており、本書ではあえて「新大久保」という言葉を使っています(大久保周辺の歴史的な経緯についても詳しく解説されていますので、ぜひ本書を確認してみて下さい)。いずれにしてもこの新大久保に様々なショップ類・飲食店が集まることで、韓流ファンの受け皿的存在となり、ブームを下支えしている構図が描かれます。
いやいや、ブームなんて捏造されたものだろ?いるのは『冬のソナタ』ファンのオバサンたちだけだろ?と思われた方は、本書の第1章だけでも、いやできれば第2章まで読んでみて下さい。テレビ局の「ゴリ押し」が始まる以前からファンが、それも若い人々が存在していたことを理解できるでしょう。そしてそんなファンの目に、最近の「ブーム」がどう映っているのか――一人のファンの言葉として、こんな箇所が登場します:
現在のメディアによる新大久保の取り上げ方についても「みんな同じような内容で浅い。好きでもない人が適当にやっているな、ってわかる」と手厳しい。
仮にフジテレビが韓国資本に半ば乗っ取られていて、日本人の洗脳教育が行われているなどという陰謀論的な事態が起きているのであれば、もっと深い掘り下げが行われるはずでしょう。しかし現実に起きているのは、水面下で起きていたブームにマスメディアが飛びつき、表面的な後追いが行われるという、これまでも様々なテーマで繰り返されてきた構図なのです。たまたま今回取り上げられたのが、「韓国」という歴史的に微妙な文脈を持つコンテンツだったために、冷静な目で見ることができなくなっているのではないでしょうか。
実際、K-POPのアーティストたちはメディアを乗っ取るなどという力業に頼ることなく、YouTubeを活用したりするなど様々な取り組みを行っていることが本書で解説されています。これが欧米諸国のコンテンツであれば、「優れたソーシャルメディア活用事例」「政府によるコンテンツ産業支援のロールモデル」的な捉え方が主流だったでしょう。さらにコスモポリタンな雰囲気を持つに至った「新大久保」は、グローバル化時代の日本を占う、1つのテストケースとして注目されていたはずです。
正直な話、中国や韓国といった国々で反日的な活動が行われているというのは、日本人として良い気分はしません。しかし個々の事件を全体に広げ、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」的な反応をするのは明らかに間違いであり、物事を正しく捉える機会を失うだけです。なぜK-POPが流行し、「新大久保」という地域が盛り上がりを見せているのか。それを正しく理解しようとする人々が増え、著者である鈴木妄想氏が主張するように、新大久保が日本の未来を拓くような存在になることを願ってやみません。
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