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【書評】"Little Bets: How breakthrough ideas emerge from small discoveries"

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とある場所で紹介されていた本"Little Bets"を読了。なかなか面白い本でしたので、ちょっと紹介と感想を。

Little Bets Little Bets
Peter Sims

Random House Business Books 2011-05-05
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今までにない新しいことを始めようと思ったとき、あるいは今まで誰も解決できなかった問題を解決しようと思ったとき、私たちはいったい何をすべきでしょうか。徹底した市場調査と分析。綿密に考えられた事前計画。緻密な状況把握と組織統制――大組織に所属している人であればあるほど、こうした作業が頭に浮かぶことでしょう。もちろんこうしたアプローチでも目的を達成することは出来ますが、問題は大きな労力と高度なスキル、そして恐らく、運までが必要になること。それこそ優秀なコンサルタントでも雇わなければ(※宣伝です)、失敗するリスクも大きい道です。

一方、本書の著者であるPeter Sims氏は「別の方法」があると説きます。それが本書のタイトルにもなっている"Little Bets"。文字通り「小さな賭け」のことですが、いきなり大がかりな投資と労力をかけて「大ばくち」を打つのではなく、小さな行動の積み重ねによってもイノベーションは達成される(あるいはその方が達成しやすい)ことがこの本の中で解説されています。事例として取り上げられているのは、アマゾンやHPのような有名企業ばかりではなく、コメディアンのクリス・ロックやイラクに駐留した米国軍人などの多種多様な人々です:

There is another way. As we have seen, General McMaster, Chris Rock, Frank Gehry, agile software developers, Pixar animators, and seasoned entrepreneurs like Amazon’s Jeff Bezos, Muhammad Yunus, and Belkin’s Chet Pipkin all do things to discover what to do. At the core of this experimental approach, they use little bets to discover, test, and develop ideas that are achievable and affordable. Little bets are their vehicle for discovery, whereby action produces insights that can be analyzed, as Frank Gehry might when he builds a new prototype model, in order to identify, frame, and reframe problems and ideas, so that he can then adapt and act using little bets again.

別の方法がある。本書を通じて見てきたように、マクマスター大将やクリス・ロック、フランク・ゲーリー、アジャイルソフトウェア開発を行う開発者、ピクサー社のアニメーター、経験豊富な起業家(アマゾンのジェフ・ベゾス、ムハンマド・ユヌス、ベルキンのチェット・ピプキンなど)は、みな「何をすべきか」を見出すために行動を起こしている。彼らの実験的アプローチの中核にあるのは、無理なく達成することが可能なアイデアを発見し、テストし、さらにそれを発展させるために「小さな賭け」を行うという態度だ。「小さな賭け」が発見を促し、その発見によって、行動から本質が見出されるのである。例えばフランク・ゲーリーはプロトタイプを作成するが、それは問題と解決策を把握し、それらを何らかの枠組みに当てはめ、また別の枠組みに当てはめてみるという行動を取るのが目的だ。これによって彼は行動を修整し、再び「小さな賭け」を使って行動することができる。

こうして「小さな賭け」を積み重ねることで何が上手く行くか・問題の本質は何なのかを把握しつつ、最終的な目標に向けて一歩一歩実績を積み重ねて行くこと。それこそが過去の経験を活かすことができない環境において、新しい道を切り開くより着実なアプローチであるとSims氏は主張します。実際、小規模な組織で新しい製品/サービスの開発に取り組んでいるという方々にとっては、このアプローチは馴染み深いものではないでしょうか。

引用文の中にも出てきた通り、「小さな賭け」を活用している組織は企業に留まりません。上意下達・ピラミッド型組織の最たるものである軍隊においても、このアプローチが有効であることが本書では解説されています。例えば個人的に印象に残ったのが、イラク駐留軍のケースを紹介した次の箇所:

So, for example, when soldiers arrive in a new city, they must first learn about the nature of the insurgent enemies by meeting with local tribal elders. Soldiers will actually live inside the city and immerse themselves in the civilian population in order to understand the local power structure and identify the government officials and people from the population at large who will be reliable advisors and informants. They will then experiment with ways to gain more knowledge and control over the situation, such as how the insurgents in that paticular area will fight, how strong their will is, whay weapons they have, and what tactics they will use. Instead of fighting with information, the army must fight to get information.

兵士達が新しい都市に到着したとしよう。彼らは最初に地元の長老に会い、反政府側に立つ人々の性質について学ばなければならない。兵士達は地元の権力構造を理解し、政府関係者や一般の人々の中で誰が信頼できるのかを把握するために、実際に都市の中で生活して市民の立場に身を置く。そして「特定の場所にいる反乱軍がどのように戦うか」「彼らの意志はどの程度強固か」「どのような武器を持っているか」「どのような戦術を使うか」といったより深い知識を得て、状況を統制するための様々な実験を行う。米陸軍は「情報と共に戦う」のではなく、「情報を得るために戦う」のである。

兵士といえば、徹底的に情報をたたき込まれて計画通りに行動することを求められているというイメージがあります。もちろんそのイメージ通りの行動が求められる場面も残っているのでしょうが、イラクという全く新しい環境においては、兵士一人ひとりが「小さな賭け」を通じて情報を得る・次の行動を決めるという姿勢も求められるようになっているわけですね。

実際の話、こうした実験的アプローチは大企業における計画立案型のアプローチとは対極にある存在であり、導入しようとしても反対にあうという可能性が高いでしょう。しかし文字通り、過去の経験を活かすことのできないという状況に直面している日本企業にとって、"Little Bets"が提唱する手法は大いに役立つはず。その意味で「ウチの会社じゃどーせムリだろうなぁ」と思わず、本書を読む大企業の社員が一人でも多く現れてくれると良いなぁなどと感じた次第です。少なくとも、自分自身の意識や行動だけでも大きく変えてくれる一冊になると思いますよ。

It all begins with one little bet. What will yours be?

全てはたった1つの「小さな賭け」から始まる。あなたは何に賭けるか?

千里の道も一歩から。さて、いろいろ悩んでないで、第一歩を踏み出してみるとしますか。

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