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リアルタイム時代に対応するディズニーランド

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何でもリアルタイムに手にすることができる時代。エンターテイメントも例外ではありません。それこそスマートフォンを通じて最新のビデオクリップを見ることもできれば、専用端末に匹敵するゲームをダウンロードして楽しむこともできます。そんな時代に「待つ」という行為にどう対応すれば良いのか――待ち時間の聖地(?)とも言うべきディズニーランドでは、こんな取り組みを行っているそうです:

Disney Tackles Major Theme Park Problem: Lines (New York Times)

夢の王国ディズニーランド。その裏側にはハイテクが駆使され、来場者を楽しませるためのマネジメントが徹底されていることは様々なメディアで紹介されていますが、この記事ではディズニーワールド内のパークの1つマジック・キングダムにおいてどのような「行列対策」が行われているかが解説されています。

少し長くなりますが、実際の例が解説されている部分を引用しておきましょう:

If Pirates of the Caribbean, the ride that sends people on a spirited voyage through the Spanish Main, suddenly blinks from green to yellow, the center might respond by alerting managers to launch more boats.

Another option involves dispatching Captain Jack Sparrow or Goofy or one of their pals to the queue to entertain people as they wait. “It’s about being nimble and quickly noticing that, ‘Hey, let’s make sure there is some relief out there for those people,’ ” said Phil Holmes, vice president of the Magic Kingdom, the flagship Disney World park.

What if Fantasyland is swamped with people but adjacent Tomorrowland has plenty of elbow room? The operations center can route a miniparade called “Move it! Shake it! Celebrate It!” into the less-populated pocket to siphon guests in that direction. Other technicians in the command center monitor restaurants, perhaps spotting that additional registers need to be opened or dispatching greeters to hand out menus to people waiting to order.

“These moments add up until they collectively help the entire park,” Mr. Holmes said.

例えば「カリブの海賊」(カリブ海の荒々しい航海が体験できるライド)を示すランプが緑から黄色に変わったとすると、センターは担当者に連絡し、ボートの数を増やすように指示する。

あるいはジャック・スパロウ船長やグーフィー、もしくはその仲間たちを待ち行列に派遣して、待ち時間のあいだ人々を楽しませるという選択肢もある。ディズニーワールドで最も重要なパークである、マジック・キングダムのバイスプレジデント・Phil Holmes氏は次のように語っている。「『おい、こっちのお客様に何かしてあげないといけないぞ』ということにいかに素早く気付くことができるか、という話なのです。」

ファンタジーランドに人々が溢れている一方で、隣接するトゥモローランドが空いているとしたらどうだろう?オペレーションセンターは"Move it! Shake it! Celebrate it!"というミニパレードを混雑していないエリアに派遣して、来場者を招き寄せることができる。またレストランの状況をモニターし、必要に応じてレジを増設したり、待っている人々にあらかじめメニューを配布したりといった対応も行う。

「こうした努力の積み重ねによって、パーク全体を支援しているのです」とHolmes氏は言う。

リアルタイムにパーク内の状況を把握しつつ、負荷分散をしたり、「待つ」という行為を苦に感じさせない対策を講じていると。「魔法の王国」といえども、当然ながら行列をあっという間に解消するような特効薬などはなく、地道な施策の積み重ねによって対応を行っていると。ただ「あっちが空いているから先に体験してきて下さーい!」などと身も蓋もないことを言うのではなく、あくまでも「楽しませる」というコアな価値を通じて負荷分散を行っているのがディズニーらしいと言えるでしょうか。

そしてこうした対策によって、具体的な効果が現れていることも紹介されています:

In recent years, according to Disney research, the average Magic Kingdom visitor has had time for only nine rides — out of more than 40 — because of lengthy waits and crowded walkways and restaurants. In the last few months, however, the operations center has managed to make enough nips and tucks to lift that average to 10.

ディズニーの調査によると、かつてマジック・キングダムの来場者が楽しむことのできるライドの平均数は、全ライド40件中9件にしか達していなかった。待ち時間が長かったり、通路やレストランが混雑していたためである。しかし直近の数ヶ月に関しては、オペレーションセンターが様々な工夫を駆使した結果、平均を10件に引き上げることに成功している。

9件が10件になっただけではごく僅かな変化のようにも感じますが、これだけ大きなテーマパークとあっては、累積で大きな結果を生んでいるのでしょう。記事ではこの他にも、パーク内の案内をするスマートフォン用アプリを提供したり、待ち行列のエリアにゲームを設置したりするなど、様々な対策が行われていることが解説されています。

「待つ」という行為を嫌うようになった人々に対して、どのような対策を講じるか。決してディズニーランドのようなリアルな拠点を持つ業界に限った課題ではないでしょう。ちょっとしたレスポンスの差によって、競合他社だけでなく、他種のメディアやコンテンツに顧客を奪われるということが生じかねません。また例えば昨日の個人ブログでも紹介したのですが、プログレスバーの表示方法を変えるだけで、ダウンロードなどの進行状況の体感速度が変化するという研究が行われているそうです。むしろバーチャルに人々と対面するビジネスの方が、様々な工夫ができるのではないでしょうか。

New York Timesの記事は、次のような言葉で締められています。

“In the theme park business these days,” he said, “patience is not always a virtue.”

「『忍耐は美徳である』という諺は、今日のテーマパーク業界には必ずしも通用しないのです」と彼(※上記のPhil Holmes氏)は語った。

いや、この言葉はテーマパーク業界だけでなく、あらゆる業界で言えることになりつつあるのではないかと思います。

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