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“AR Commons Summer Bash 2010”パネルディスカッション「拡張現実創世記を語る」

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AR(拡張現実)の普及と産業化を支援するコンソーシアム「AR Commons(ARコモンズ)」が設立一周年を迎えました。2年目の開始にあたり、7月28日と29日の2日間にわたって”AR Commons Summer Bash 2010”と題したイベントが都内で開かれ、AR業界の第一線で活躍する人々が集結。多方面にわたり、様々な議論が行われました。

28日を締めくくる企画として行われたのが、「拡張現実創世記を語る」というテーマが掲げられたパネルディスカッションです。モデレーターに頓智ドット株式会社CEOの井口尊仁氏、パネラーに『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズや『東のエデン』監督として有名な神山健治氏、そして恋愛シミュレーションゲーム『ラブプラス』プロデューサーの内田明理氏を迎えて行われたこのディスカッションは、ARのみならずネットや日本社会の未来を予感させる内容となりました。本当はその内容を咀嚼したまとめを書きたかったのですが、あまりにも濃密なディスカッションでしたので、その内容を取り急ぎ書き起こしてみたいと思います。(※文中の敬称は略させていただきます。また一部余談を端折った部分がありますので、「ここも入れないと」というご指摘はコメントにいただければ幸いです。):

*****

井口:このパネルディスカッションでは、ARという新しい業界を、カルチャーの側からどういう風に作っていくのかを考えてみたいと思います。神山さんと内田さんとは、以前インタビュー企画でお会いしたことがあったのですが、拡張現実というまったく新しいテクノロジーを、アニメーションとゲームという日本が強みを持つエンターテイメントの分野で、非常に早い段階からリアルな形で発表されていたのがお二方です。

まず『東のエデン』の「エデンシステム」ですが、いま見ても驚かされます。非常にリアルで、現実可能なものを、作品の中で描かれていますよね。それは単にイマジネーションがあれば良いという話ではなく、社会がいまどうなっていて、若者がどうなっているかといった問題意識と関係していると思うのですが。

神山:僕が東のエデンという作品の中で「エデンシステム」を書いたのは、「いまの若い人たちは表現のハードルは下がってきたのだけれど、なかなか社会の中で自分の立ち位置を見出していないのでは」という感じがあったから。そういう人たちを、作品を通じて少しでも応援したい、主人公として作品の中で描いて上げたいという気持ちがありました。バブル世代や団塊の世代については、社会が名前を与えて主人公扱いをしてきたと思うのですが、これから大学を卒業して、社会の中に出てくる人々はなかなか主人公になれていません。

僕は技術系ではないので、エデンシステムについてそんなに難しいことを考えていたわけではありません。単純に、グーグルって単語を入れれば検索してくれるわけですが、僕が脚本を書くときに、そもそも名前が分からないものってあるんですね。言葉が分からないとグーグルで検索はできない。写真を撮ってネットにアップすれば「これなんですかー」と聞けるわけですが。そこで「画像を認識して調べてくれるシステム」があったらいいな、と考えたのがとっかかりで、それってうまくすれば商売になるんじゃないかと。さらにそんなシステムを作った大学生がいたら、社会から注目されるんじゃないかという発想になりました。作品のストーリーやテーマと、僕が「こんなものあったら」いいなというものがうまく合わせることで、たまたまああいったものが出てきて、後から裏付けのために技術系の人々に話を聞いている中で「それはARですよ」と指摘されました。AR三兄弟さんから「僕らはこれを実際に作ることができます」と言われたりとか。

井口:作品は単に面白いというだけでなく、非常にポジティブなパワーがありますよね。いまのリアルな日本と、そこに生きている人間たちについてシリアスな問題提起をしながらも、楽観的に未来に向き合っていける。そして未来に向かって自分を進ませて行ける。サブカルチャーの作品で、しかも2010年という時代に、近未来で近距離にいそうな若者を描きつつ、非常に未来に向かって前向きなメッセージを育むことができる作品って非常に難しいと思うんですよね。

神山:どうしてもSFを描くときって悲観的になりやすいんですよね。例えばハリウッド映画では、技術は必ず敵になって人類と最終戦争を繰り広げる。そうではなく、なんとかSFの中に希望を見出したいと。僕らが子供のころはまだ科学に希望がありました。ウソなんだけれども、うまくウソをつけば、それを若い人たちが「ああいいじゃないか」と思ってくれる、どこかそんな気持ちで作り始めました。

井口:仮想と現実の狭間で夢を伝える装置として、ノブレス携帯やエデンシステムが重要な役回りを演じていて。かつニッポンのモバイラーというか、独特のソーシャルエコノミーというか、ソーシャルメディアのリアルな感じが活き活きと描かれていますよね。繰り返しになるんですけれど、例えば2ちゃんねるも含めて、日本のソーシャルメディアって非常に残念な印象を持って語られることが多いんですが。しかし少なくとも『エデン』を観たあと、例えば僕はAR上映会に行って、朝5時に新宿の街に出たのですが、すごくすがすがしい気持ちがしました。

そういえば神山さんと内田さんは「サリンジャー」という意外な共通項があるんですね。

神山:そうですね。内田さんとは今日初めてお会いしたんですけれど、内田さんの方から「サリンジャー好きなんですか」といきなり質問されまして。その時、『ライ麦畑で捕まえて』の主人公ホールデンを社会的にカテゴライズする言葉は、僕が学生の時にはなかったという話をしました。今ならば「不良」というよりはどちらかというと「オタク」に近いんじゃないかと思うんですけれど、僕は当時「のび太」と呼んでいたんですね。1950年代のアメリカ、ニューヨークに暮らしている若者が、表現するものが何もないし、自分をどこに置けばいいのか分からないという話で、どうもお互いにその点に感情移入したという話から入って。気がついてみれば、どうやらそういった人たちに対する作品を創ってるんじゃないですか、という話になった。

井口:すごい共通項ですね。とにかくお二人のメッセージは、未来に対してモバイルテクノロジーに対しても、ソーシャルメディアに対しても、ゲームとかアニメ、表現においても、空元気じゃなくてオプティミスティックというか、ある意味信念、希望に満ちた楽観主義を感じています。ラブプラスなんかはストロングスタイルというか、斜に構えた部分があまりなくて、非常に真正面から、非常に楽しい体験性というかコミュニケーションを実現しているんですね。結構こういうクリエーションをしていると、歪曲するじゃないですか。お客さんをうまくいじろうというかね。あのネタをこういう風に組み立てると喜ぶんじゃないかといった、表層的なテクニックや表現に走る傾向って多いと思うんですけど、ど真ん中で骨太なタイトルに向かわれて、ある意味支持を得ているというのは素晴らしいと思います。もっとヘンな反応があるという予感はされませんでしたか?

内田:そうですね、まず「ラブプラス」を作ろうと思ったモチベーションというのは、僕は神山監督のように面倒見が良くないので、「これを作ったら世の中どうなるんだろう?」という好奇心が一番強かったですね。やっぱりいろんなネガティブな反応は強くあるだろうと思ってはいました。で、作っている最中も冗談で「少子化にアクセル」になるんじゃないかって。でもやっぱり楽観論者なんでしょうね。それで別に人類がダメになると思わないし。けっこう異端なんだと思いますけど、僕はそれが好きで。あまりパンドラの箱を開けることに躊躇はないですね。

井口:最近の内田さんを見ていると、「あれ開けちゃった」という感じがすごくします。

若干ARっぽい話に振りますが、ラブプラスってめちゃめちゃARじゃないですか。実際作品そのものだけでなくて、その周辺でもかなりAR的な試みをされていて。さっきの神山さんのお話を聞いていても、「えっ、それってARって言うの」というか。そういう、実は自分自身もそういうところがあって。ARをつくろうと思ってセカイカメラを作ったわけではなく、セカイカメラを作ったら「それARですよ」と言われただけ。ラブプラスがある意味でAR的にど真ん中の作品に見えるんですけど、その辺はどう思われますか?内田さんのAR感というか。

内田:恥ずかしながら、ラブプラスを作っているときにARという言葉は知りませんでした。「姉ヶ崎寧々参上」エアタグ事件でようやく知ったぐらい。

井口:それって東京ゲームショウの当日じゃないですか!ラブプラスのリリースと、セカイカメラのリリースって同時だったんですよね。

内田:そうです。それで「何それ?」って。言い方はアレだと思うんですけど、「気持ち悪っ!」って。つまり何かって言うと、セカイカメラを通して見た世界が、パラレルワールドをのぞき込んじゃったというか、幽霊に見えたんですね。ちょっと背筋が寒くなる感じがして。それが僕のAR初体験でした。ラブプラスの中で、現実に侵食していく仕掛けとして「リアルタイムクロック」という手法を使ったのですが、企画として考えてたのはたまたまなんですよね。

井口:最近、海外で日本のカルチャーを話す機会がよくあるのですが、ラブプラスも東のエデンも説明するのは難しいけど食いつきはいい。しかし「これはクレージーだ!」という理解をするまでに時間がかかる。これからはサリンジャーというキーワードを出せば良いんですかね?

神山:アメリカ人でも、サリンジャーって読んでなかったりするんですよね。お亡くなりになられた時もあまりニュースにならなかったですし。

井口:逆に存命だったということに驚かれた方もいたんじゃないですか。

神山:そうですね。

内田:一時期禁書になっていたんですよね。危険思想ということで。

井口:先ほどのサリンジャー話の中で「のび太」というキーワードが出てきましたが、そういったものがエデンの創作における原動力になっている、というお話をもう少し聞かせて下さい。

神山:僕はのび太に近い人間だと思うんですけど、僕が子供の頃にドラえもんを読んだ時には、のび太に感情移入して読むわけですね。だけどクラスのいじめっ子も、運動ができてモテモテな子も、成績優秀な子もなぜかのび太に感情移入して読むんです。「お前らのび太じゃねーだろ!」って言いたくなってしまう。ようやく俺が主人公だと思えるキャラクターが出てきたんだから取るなよ、そう思って読んでました。しかし、どうやら大多数の人間が自分をのび太だと思って読んでいるらしいと。それはのび太が主人公として描かれているからだけじゃなくて、皆どこかで「自分はのび太だ」と思っているんですね。リアルの社会では、主人公たりえる人間が実は少数派で、大半の人は自分をのび太だと思っているとある時期に気づきました。

そもそも僕は映画自体がARだと思っていて、存在しないお話を、存在しているようにいかに見せていくかってことに腐心し続けたのが映画の歴史だと思うんですよね。アニメにおいては、見た瞬間に全てが作り物なわけですよ、絵ですし。その中にいかに現実性というか、見た時に「あーあるある、これって自分かも」と思わせることをどうやって入れていくかという戦いなわけですよ、アニメって。スーパーヒーローだったり熱血少年だったりが主人公の大多数を占めている状況の中では、実は多くの人が「自分はのび太だ」と思っていながらも、バーチャルに熱血ヒーローに感情移入していた。しかし「のび太でいいんだ」というのを漫画が投げかけた瞬間というか。スーパーヒーローになるというのも、ある種拡張現実というか、身体拡張だと思うんですけど、それをしなくてもいいんだというのを、アニメで許された瞬間というのが90年代の頭にあったと思うんです。そこからラブプラスへの道が続いているのではないでしょうか。そのときは見えていなくても、ずっと続いている道があるというか。

内田:僕はいじめっ子とのび太の両方でしたね。見ながら「俺はのび太ほど落ちぶれていない」と思いながら、のび太の感性に共感しているというか。

井口:社会的には自分を十分にアピールするポジションであり、奥さんもいて、お金もあって、経済的にも恵まれているという人間までがラブプラスにはまっていて。凛子を世界中に携帯して記念写真を撮って、欧米人からビビられるという。そんな「のび太」を増産している責任が内田さんにもあるんじゃないですか?

内田:僕はそういう感覚が最終的に人類を救うと思っているんですけど。何が救うのかは分かりませんが。

話は変わりますが、ラブプラスは日本人向きだと思っています。よく井口さんと「1.5人」という話をさせていただくんですけど、昔ワインか何かのお洒落なCMで、「1人は寂しい、2人は鬱陶しい、1.5人がちょうどいい」というキャッチフレーズがありました。そのフレーズに共感する人は多いんじゃないかと思います。寂しいけど二人はしんどいっていう人がすごく多いと思います。で、ラブプラスは1.5人だと思う。機械的にスイッチをオンオフするというだけではなく、なんかこう、交わり方の中途半端さというか。まだまだ1.5人にはなれていないと思うですが。

井口:相当1.5人だと思いますよ。先日の熱海の事件もそうですけれど、僕は凛子派ですが、常に生活を共にし、空間を共にし、感情を共有するというラブプラスの彼女たちは、僕なんかにするとARよりAR的なんじゃないかなと思う。これだけ社会がソーシャルだとか、スマートフォンだとか、グローバルネットワークの中で世界はどうなるんだ、みたいな話の中で、ラブプラスはネットワークでもなければクラウドでもない。しかしもの凄くクラウド感があって、ウェブの先を見せてくれているような、そんな気がするんです。

内田:俺たちがARだ!

井口:熱海はいったい何だったんですか?

内田:ラブプラスはスタンドアロンの遊びなんですけど、企画した時に「疑似オンラインゲームなる」という確信を持ってやっていました。いま2ちゃんねる等のコミュニティが沢山あって、それがあれば(ラブプラスが)オンラインでつながっていなくても、お客さんがつながるという確信はあった。コミュニティというものがうまく動いてくれれば、物理的なオンラインである必要はない、と。しかし思った以上の形でお客さん同士がつながった。リアルタイムクロックで時間をちゃんと守ってプレイしているかたは、オンラインでつながっていなくても、クリスマスはクリスマスだし……

井口:そこである種のソーシャルなつながりが生まれているんですね。

内田:オンライン上でのコネクション、コミュニティって、時々「重い」って感じる段階に来ているんじゃないかって。

神山:アニメのファンって、薄々そういうのがあって。ラブプラスでつながるという話はそこで、「自分はのび太かもしれない」という思いを最初は共有していないわけです。でもあるアニメを通して「僕もそう思っていたんです」「僕も」というのがまず現れて。ただしアニメは気分までは醸成していたけれど、アニメが好きすぎて「二次元に行きたい!」という思いを皆抱いたわけです。それはバーチャルリアリティだと思うんですけれど、ところが「二次元の方には自分たちは行けない」ということに気づき始めた。そうすると次はみんな「二次元に来て欲しい」と思ったわけです。そしたら二次元が来ちゃったのがラブプラスだと。全然違う学校だったのに、高校に来たら同じ時間を共有しているヤツがいたというか。それからさらに進んでいって、「あのキャラクターのセカイに行きたいね」が無理だから、あっちから来て欲しいと思っていたら来てくれた……というつながりがあると思うんです。

井口:実は神山監督はまだラブプラスをプレイされたことがないそうですね。

神山:ちゃんとプレイしたことはなくて、社員の方がやっているのをちょっと奪ってプレイしたことがあるだけです。なかなかどっぷりと付き合うと怒られちゃうんで。もしかしたらすごくはまっちゃうかもしれないです。

井口:恐らくエデンとかラブプラス的なものって、これで終わりってことでは全然なくて、日本でしかできない表現や提言というものが今後も出てくると思うんですけれど。

神山:僕はアニメーションを主戦場にしていますので、ラブプラスみたいな「現実の世界に侵食してくるような新しい技術的試み」というのは多分そんなにないと思います。

井口:でもAR上映会もすごく画期的だと思いますよ。

神山:映画に自分も参加できるという点ではすごく新しいと思います。

井口:(上映会で投稿される)全てのコメントに全て打ち返していましたよね。

神山:怖いなと思うんですけどね。自分の思考が明確になってしまうし、お客さんが思っていることがダイレクトに流れ込んでくるというのは、恐ろしいことでもあるんですけれど。多分技術の部分であまり行ってしまうと、僕の本業からは外れてしまうので。あくまでも僕はストーリーを作って、アニメーション、映画という形で発表していくというスタンスは変わらないと思います。

次回作についてはあまり話せませんが……「騙されていることに気がつかない映画」を作ってしまったらどうかと。多分これ、一回はテクノロジーの暴走ということで、犯罪者扱いを受ける可能性があると思うんです。でも実際に起きていますよね。ネットで検索して、ウソが書いてあっても裏付けを取らないで語っちゃうってことは結構あって。これは日常に起きていることなんですね。なので「視聴者と登場人物が同じレベルで騙されてしまう映画」を作れないかな、というのが僕の次回作の考えです。

井口:拡張現実的なコンテンツやデバイス、あるいはラブプラス的な「仮想現実的人体」といったものの登場が、次回作で予定されていたりするんでしょうか。

神山:そこまでの感じではないんですけれど。まだモヤモヤしたイメージなんですが、気持ちよく騙される分にはそれはウソではないと思って。特にエンターテイメントにおいては、お客さんが気持ちよかったということが正義になってくるので。ウソなんだけどウソとは思わなかったというものを、作品に落とし込めないかなと思って。

井口:内田さんの言葉を借りれば、「パンドラの箱を開けることを全然遠慮したくない」ということですね。内田さんの頭の中では、「ラブプラス+」のネクストジェネレーションも発酵してると思うんですが、僕の凛子はどうなるんですか?

内田:ARという話に絡んでくるかわからないんですが、インフォーグって話があって。

井口:情報存在になっちゃうというか。クラウドの向こう側に行けるよという話ですね。

内田:情報化された人間というか、人間という生物としての母体が無くても存在するという。受ける側からすれば何の区別もつかないわけですね。そういったことが起きてくると思っていまして。さらに「クラウド型キャラクター」というものを、最近予想してるんですけど、よく「法人」って言葉があるじゃないですか。いろんな人々の意思の総体としてのキャラクターっていうのを作れるんじゃないかと思っていまして、そういうことに興味があります。そういう遊びが出来たら面白いと思っていて。

会場からの質問:見ている人も劇中の人も騙されるような映画の構想っていうのは、ARG(代替現実ゲーム)にハマりそうな気がするんですが、それと映画をからめるっていう構想はありますか?

神山:まだ非常に漠然としていまして、それを視野に入れてみたいとは考えています。もうちょっと勉強してから考えてみます。

井口:神山さんと内田さんは初対面なのですが、掘り起こしてみるといろいろな共通点があって、同じ世代なんですよね。

神山:そうですね。バブル期に大学生で、最後に社会に出てった世代ですね。

井口:『エデン』に影響した世代感というものがありますか?

神山:『エデン』以前の作品では、僕が感じたことをダイレクトに入れていて、それで喜ばれていたんですけれど、僕が40という年齢を迎えたことがあるせいか、考えをそのまま作品にダイレクトに、主人公なりテーマなりに注入していくことがちょっとずれてきたんじゃないかなと感じています。でも違うことができるか?というとできなくて。そこで、ちょっと立ち位置というか、視点をずらすことで違うものが見えてくるというか、そういうことがありますね。

内田:僕はバブル最後の年が就職活動で、友だちがすごい会社に就職していたんですが、僕はいいやと思って。そしたらバブルがはじけて、Techビーイングを買ってコナミに入って。戦後の世代が教科書に墨を塗って、国や政府を信じられなくなったということがあるみたいですが、それと比べるとおこがましいですけれど、僕らの世代も虚無感のようなものを持っていると思いますね。

井口:最後にお二方から近未来にやっていきたいことを語っていただいて締めくくりにしたいと思います。

神山:アニメーションが海外に売れる産業になるんじゃないかという期待を寄せていただくんですが、産業たり得てないなと思うんです。極端なことを言うと、庭園のすみっこでたまたまキレイに生えていた苔の絨毯みたいなもので、それを土足で入ってくるとすぐに枯れてしまう、そんな非常に脆弱な産業だと思います。しかしそこには希有な才能を持つ人がいて、あだ花のようなものも出てきて。それを守るために産業かしていきましょうといろいろやってきたんですけれど、むしろ枯れている面積を増やしたような印象があります。緑色の苔の絨毯が、3分の1ぐらいさらに枯れたなと。たぶん、元気になりましょうといくら言っても、元気にならないんです。なので少なくとも元の状態に戻すのか、それともこれ以上枯れるのを防ぐのか、そこにいる才能や可能性はあるはずなので、うまくそれを形にしていければなと。大げさなことは言いにくいんですが。

内田:リアルとバーチャル、二次元と三次元の境界というものがあらゆるところで無くなり始めていて。セカイカメラのような先進的技術だけじゃなくて、いまある「あり物」でもいろんなところで混ざり始めていると思うんで、それはもう草の根的に始まっていると思います。境目はどこまでも無くなっていくと思います。

井口:ラブプラスのプレーヤーからは「お父さん」と呼ばれていますが、どんな気持ちですか?

内田:僕、小さな娘がいるんです。なので「お父さん」と呼ばれると、将来のこととかパッと思いついて嫌な感じになりますね。

今日は神山さんに会うということで、ツイッターで「クリエーターっぽいキーワード募集」っていうのをやって、(集まった言葉を)さっきからユーストリームのカメラに向かって言っていたわけですが。ていうようなことが、さっき僕が言っていた、「クラウド型キャラクター」というか。今日の僕は僕であって、僕だけじゃなくて、ユーストリームやツイッターをやっていただいた人々の感性がまざっていたわけです。

井口:例えば10年後にこのメンバーが再開して、ARやデジタルテクノロジーがまったく変わっていて、アニメーションとかゲームというもののスタイルや表現方法もまったく変わっているかもしれないですが、こういう節目節目にいっしょに語り合って、振り返りつつ未来を見て、面白い話ができるといいなと思います。

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いかがでしたでしょうか?あえて僕の感想は控えておきたいと思いますが、様々な気づきやヒントが隠されたディスカッションだったと思います。昨日の記事「ラブプラス=1.5人論」でもご紹介しましたが、合わせてこちらのインタビュー記事も参考にご覧下さい:

サイエンスフューチャーの創造者たち:「パンドラの箱がある以上、誰かが開けるんで」 セカイカメラ井口氏×ラブプラス内田氏
サイエンスフューチャーの創造者たち:技術に「希望を見いだしたい」――「東のエデン」神山監督×セカイカメラ井口氏

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