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クレイ・シャーキー曰く「情報洪水などない。それはフィルタリングの失敗だ」

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Twitter でつぶやいてみたら意外に反応をいただいたので、ちょっと書いておきましょう。以前も著作"Here Comes Everybody"をご紹介した、作家でコンサルタントのクレイ・シャーキー氏の言葉です:

It's not information overload. It's filter failure.

情報洪水などない。それはフィルタリングの失敗だ。

実はこの言葉、昨年行われた Web 2.0 Expo NY で彼が行った講演のタイトル。残念ながら TED のようにスクリプトは公開されていないのですが、YouTube で動画を見ることができます:

彼のメッセージを簡単にまとめてみれば、こんな感じになるでしょうか:

  • みんな「情報が増えた」と騒いでるけど、それはずっと昔から続いていることだ。
  • グーテンベルクが活版印刷を発明した時も、出版が容易になって世間に本があふれる結果となった。
  • 出版の場合、本が売れないリスクを出版側が負わなければならないため、編集者に情報をフィルタリングさせる(つまり売れる本だけを選んで出版する)という仕組みが生まれた。
  • しかしネットの時代になり、ごく僅かなコストで誰もが情報発信できるようになると、フィルタリングの責任は読み手側に移ることとなった。つまり情報を取捨選択するという行為自体はずっと昔からあったことで、変わったのはフィルタリングの仕組みなのだ。
  • スパムやプライバシーといった問題も、結局のところ情報流通をどう制御するかという話であり、フィルタリングの問題である。
  • これまでの、物理的な世界をベースにしたフィルタリングの発想はもはや通用しない。ネット時代に通用する、新しいフィルタリングの発想をデザインしていかなければならない。

20分を超えるスピーチですので詳しくは実際にご覧いただきたいのですが、つまり情報があるというのは今も昔も同じことで、決定的に変わったのはフィルタリングの方であると。若干単純化しすぎかもしれませんが、「私たちは必ず何らかのフィルターを通して情報を出し入れしていることを忘れてはならない」という重要な指摘をしている言葉だと思います。

よく「ネットは玉石混淆」と言われますが、これもシャーキー氏に言わせれば、問題を取り違えている言葉ということになるでしょう。既にフィルタリングされた後の状態を見ている旧来型メディアと、フィルタリングが我々に任されているネットでは、当然後者の方が「石」の混ざっている確率は高くなるはず。それを見て「石ばかりじゃないか、こんなの使えない」と立ち去るのは間違いで、そこから石を取り除く新しい仕組みをデザインできた人が、これからの時代で価値を提供する存在になっていくはずです(おっと、既に Google という巨大な存在が登場していましたね)。

シャーキー氏はスピーチの中で、新旧のフィルタがまったく異なる存在であることを指摘しています。古いフィルタリング手法に慣れた人々が、新しいフィルタを開発できるとは限らず、場合によっては古い知識がジャマをするということにもなりかねません。旧来型メディアの世界で成功した企業でも、ネットの世界で苦戦する例が多いのはその辺りに原因があるのでしょう。であるとすれば、問題の根本はフィルタリングにあると正しく認識できた人々がチャンスをつかみ、既存の大手メディア企業を出し抜くということが今後も続いていくのかもしれません。

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