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データをオープンにする政府――悪夢かパラダイスか?

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海外速報部ログでも記事が出ていますが、オバマ大統領が米国の連邦政府初となるCIO(Chief Information Officer)を任命しました:

オバマ大統領の新CIOはiPhoneユーザー (海外速報部ログ)

CIO に任命されたのは Vivek Kundra (ヴィヴェック・クンドラ)氏、ダイバーシティを重視するオバマ政権らしくインド系の人物で、なんと若干34歳。速報部ログの記事にもある通り、最新のICT技術に精通している人物で、さっそく「クラウドコンピューティングのような技術を活用して、巨額のIT投資を削減しよう」などと発言しています。

しかしクンドラ氏が目指しているのは、コスト削減という受け身の政策ばかりではないようです:

New federal CIO Vivek Kundra wants a Web 2.0 government (Computerworld)

Kundra, in conference call today with reporters shortly after President Barack Obama named him as federal CIO said one of his first projects is to create a data.gov Web site to "democratize" the federal government's vast information treasures by making them accessible in open formats and in feeds that can be used by application developers.

クンドラ氏は今日、オバマ大統領に連邦政府CIOに任命された後で行われた記者達との電話会議の中で、彼の最初のプロジェクトは"data.gov"というウェブサイトを設置することだと語った。このサイトは、連邦政府が抱える膨大な情報資産をオープンなフォーマットでアクセス可能にし、アプリケーション開発者達が活用できるようにすることで、この情報資産を「民主化」しようというものである。

つづけて2ページ目からの引用:

By making federal data accessible, Kundra wants to enable developers to build applications "in a context-rich model" that can help the government and private sector as well develop new products -- and even new kinds of applications that might be used on smartphones. To illustrate the potential, he cited the work of the National Institutes of Health Human Genome Project, which identified genes in human DNA. Its research, available online, helped spur the creation of new drugs, he said. However, Kundra also noted that achieving this vision will take considerable work.

連邦政府が所有するデータをアクセス可能にすることで、クンドラ氏は開発者達が政府・企業による新製品開発、ならびにスマートフォン向けアプリケーション開発等を手助けできるようになると期待している。これがどんな可能性を持っているかの一例として、彼は米国立衛生研究所のヒトゲノムプロジェクトを挙げた。これは人間のDNAを解析するプロジェクトだが、オンラインで公開されている研究結果によって、新薬の開発が促進されている。しかしクンドラ氏は、このビジョンを実現するためには膨大な作業が必要になるだろうと語った。

とのこと。どんな国でも政府が持つ情報は膨大で、かつ貴重なものだと思いますが、それを積極的に公開して利用してもらえるようにしようというわけですね(ちなみにクンドラ氏はワシントンD.C.のCTO時代に、公共データをマッシュアップするアプリケーションのコンテスト"Apps for Democracy"を実施した実績があります。このコンテストに応募しているアプリケーションにもユニークなものが揃っているので、一見の価値あり)。先日も連邦政府でRSS導入が命じられたことをお伝えしましたが、それと今回の data.gov の話を合わせると、どうやらオバマ政権は本気で「連邦政府のデータを民間に活用してもらおう」と考えているようです。

これを読んで思い出したのが、以前読んだ『その数学が戦略を決める』という本。ご存知の方も多いと思いますが、この本はタイトルの通り、データ分析が様々な意志決定に応用されていることをレポートしたもの。その中で公共組織も例外ではなく、様々な政府が彼らの所有する貴重なデータを活用している現状が描かれています。例えば、米国ではこんな事例が:

そして無作為抽出テストは勢いを増している。いまや何百もの政策実験が行われているのだ。ラリーは住宅都市整備局出資の試みとして、貧困家庭に対して低貧困率(つまり中流)地区でしか使えない家賃補助券を与えたらどうなるかという調査を主導している一人だ。

この「チャンスのあるところへ引っ越す」(MTO)試験は、5都市8ボルチモア、ボストン、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク)の極貧世帯に対して無作為に家賃補助券を与え、それが雇用や学業、健康や犯罪などにどんな影響を与えるか調べるというものだ。結果はまだそろっていないが、最初の結果を見ると、貧困児童を(裕福な学校のある)裕福な地域に移したところで、学業面でも犯罪削減の面でも、あまり効果はないようだ。女の子は引っ越すと少しは成績や健康が改善するが、少年は成績がかえって下がるし犯罪率も上がってしまう。だが最終的にどんな結果が出るにしても、MTOデータは初めて、暮らす地域を変えると人生が変るかについての最も基本的な情報を政策立案者にもたらすことになる。

data.gov でどのようなデータが公開されるかは分かりませんが、仮に上記のようなデータも公開されるのであれば、「政府は○○実験の結果から××という意志決定を行ったが、我々の解析によれば、△△という戦略を採用した方が効果的だと分かった」などといった貢献を行う組織・個人が現れるかもしれません。それは例えば、「ゴールドコープ・チャレンジ」(鉱山を持つ会社がその詳細なデータを公開し、一般の人々に未発見の鉱脈を探させたイベント)の政府版、といったイメージになるのではないでしょうか。

しかし容易に想像できるのは、こうした政府データの公開がプライバシー侵害に結びつくことです。『その数字が戦略を決める』の中でも、それぞれ単体では無害なデータが、組み合わせて関連させることで個人情報を簡単に引き出せることが紹介されています(これはIT関係の仕事をされている方であれば言うまでもないことですね)。さらに、例えば現状でも「住民基本台帳」のような形で入手可能なデータが電子媒体で、さらにオンラインで手軽に入手できるようになると、人力によるマッチングでは不可能だったことまで実現可能になります。「現状閲覧できるデータ以外はオンラインにしない」というルールでもプライバシー保護には不十分となる危険性があるでしょう。

データ公開によるメリットとリスクをどうバランスさせるか。恐らくはそれも、クンドラ氏の職務となってくるでしょう。様々な困難が待ちかまえているだろうけど、とりあえず第一歩を踏み出した米国の連邦政府。私達も彼らから教訓を得られるように、注目すべきだと思います。

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