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若者は旅行の何から離れているのか?

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今週の『週刊 東洋経済』の特集は「日本人の旅」。そして『週刊 ダイヤモンド』の特集は「ホテル&旅館大淘汰」と、ちょうど近いテーマが扱われていました。オルタナブログで岩永さんも言及されていますが、品川のホテルパシフィック東京が休館を発表するなど、不況の波をもろに被っている旅行・ホテル業界。その状況を打開するため、大胆な発想転換が生まれつつあることが紹介されており、どちらも面白い特集でした。

中でも興味を惹かれたのが、『東洋経済』の特集にあった「若者の『旅行離れ』は本当か」というパート。確かにこのところ「若者の○○離れ」という言葉があちこちで囁かれ、その中に「旅行(特に海外旅行)」も含まれていますよね。しかしその実情(本当に旅行離れしているの?)や原因(ネットが普及したから?)をめぐって様々な意見が出ていることはご存知の通り。東洋経済でも、アンケートで旅行を「好き」と回答する若者が少なくないことや、「90年代後半が海外旅行ブームだっただけで、そちらの方が一時的な現象」という指摘を紹介するなど、安易に旅行離れと叫ぶことに異議を唱えています。

では若者は、どんな旅行を求めているのか。彼らへの売り込みに成功している旅行社として、エイチ・アイ・エスの考え方が紹介されています:

エイチ・アイ・エスの日帰りバスツアーは今、20代の若者に人気だ。デートに使うカップルや、母親を伴って参加する女性が多く、コースによってはバスの客席の8割以上を20代が占めることもあるという。確かに、日曜日の映画と食事でおよそ5000円。対して日帰りツアーは、丸一日楽しめて3000~5000円。24時間、前日18時まで予約可能とあれば、選択肢として十分に張り合える。

エイチ・アイ・エスの日帰りツアーの広告は、「イチゴ狩り食べ放題と温泉」「アルパカ牧場とアウトレット」「ビール工場エコツアーとジンギスカン食べ放題」など、内容こそ盛りだくさんに書かれているが、行き先の表示は目立たない。「うちの顧客にとって『どこに行くのか』はさほど重要ではない。最も関心を引くのは、『何をするのか』という内容だ」(鮫島氏)。

引用中「鮫島氏」とあるのは、エイチ・アイ・エス関東国内旅行営業グループの担当者さんのお名前です。そう言われてみると、エイチ・アイ・エスの国内旅行ページでは、ツアー名に単に行き先だけでなく「何をするか」が付けられているものが多いですね(「地元案内人とまち歩き!南九州 3日間」なんて、ちょっと面白そう)。こうした工夫は別にエイチ・アイ・エスだけのものではないと思いますが、それが若者に奏功しているのであれば、若者は「どこへ行くか」よりも「誰と行くか・何をするか」に興味が移ってきていると言えるかもしれません。

確かに非日常的な絶景を味わうのも、非日常的な体験を味わう・親しい人々と共有するのも、どちらも旅の醍醐味ですよね。そう考えると、いまは経済状況の悪化や海外旅行ブームの終息によって「遠くに行きたい」というニーズが低下しているだけで、「何かを楽しみたい・誰かと楽しみたい」というニーズはそのままなのかもしれません。実際、前述の鮫島氏は「今の若者を旅行に誘うには、『日曜日に行くなら映画か旅行か』という視点で企画を考えなければ勝てない」とも語っています。これを「旅行が他のエンターテイメントと同列になってしまった」とネガティブに捉えるか、「楽しみたいという欲求に応えられれば旅行にもチャンスはある」とポジティブに捉えるかは人それぞれだと思いますが、少なくとも若者は旅行から離れたというよりも、その位置付けを変えたと考えられるのではないでしょうか。

先日「テレビ離れ」という言葉についても考えたことがありましたが、その際も「個人的にはテレビ『放送』から離れているだけで、『番組』からは離れていない」と感じました。時代や環境は常に変化するのですから、これからも様々な「○○離れ」が生まれることでしょう。その際、離れた側を一方的に非難して判断を曇らせてしまうのではなく、どこに利用者とのズレが生じているのかを冷静に見極めなければ、彼らを再び振り向かせるような姿にリフォームすることはできないと思います。

……ちょっと余談。冒頭のホテルパシフィック東京ですが、ダイヤモンドの「客室稼働率ランキング(2008年)」では77.4%で12位(2007年は19位)にランクしており、決して人気が無かったわけではないようです。会社が近いこともあって、個人的によく訪れていた場所だけに残念。

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ちょうどこんな調査結果も出ているので、紹介しておきましょう:

若者の旅行離れ、「恋人の有無」が影響 (MarkeZine)

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