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ついに「カスタマイズ新聞」が登場

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ここ数日、紙媒体での新聞に関する話題を続けていますが、今日ご紹介する話は「こんな新聞があれば」と誰もが想像したことのあるアイデアではないでしょうか。読者一人ひとりの好みに応じて内容をカスタマイズする新聞が、ついに米国で登場するそうです:

Could Customized Newspapers Bring Readers Back? (New York Times)

米国で第4位の新聞グループ、MediaNews Group が「カスタマイズ新聞」を発行するというニュース。同グループは傘下に54紙を収めているのですが、そのうちの1つ"The Los Angeles Daily News"でテストを始めるとのこと。サービスは"individuated news"(個別化されたニュース)を縮めて"I-News"と名付けられており、読者が興味のあるテーマだけを編集、読者宅の専用プリンタから出力するという方式を取るそうです(ちなみに他のニュース記事によれば、カスタマイズされた紙面は印刷するだけでなく、PCや携帯電話にも送信可能とのこと)。

“I-News is really about choice,” said Peter R. Vandevanter, vice president for targeted products at MediaNews. “We’ll let the reader decide what they want to read and on what platform.”

MediaNews has been working with a technology company — Mr. Vandevanter would not say which one — to develop a proprietary printer for a reader’s home. It would receive and print a subscriber’s customized newspaper — with targeted advertising.

It is unclear if subscribers will pay extra for the printer, or if it will be part of the subscription fee. “The business model doesn’t have the finishing touches on it,” Mr. Vandevanter said.

「I-News サービスとはまさしく選択です」と、MediaNews の製品担当副社長 Peter R. Vandevanter 氏は述べた。「私達は、読者が読みたいものを、読みたいプラットフォーム上で読むことを可能にするのです。」

MediaNews は読者宅に設置する専用プリンタを、あるメーカー(Vandevanter 氏は具体的な名前を明かさなかった)と共同で開発している。このプリンタはカスタマイズされた新聞紙面と同時に、ターゲット別に選択された広告のデータも受信して印刷を行う。

購読者がプリンタ用に追加費用を払う必要があるのか、あるいはその費用が購読料に含まれるのかは明らかにされていない。「ビジネスモデルがまだそこまで詳細化されていないのです」と Vandevanter 氏は述べた。

とのことで、記事のカスタマイズだけでなくターゲティング広告も実施されるようですね。カスタマイズの部分はいくらでも方法があるとして、問題はプリンタ。仮に無料で提供されるにせよ、インクや紙などのメンテナンスコストも発生するはず。それらをどちらが持つのか、またセッティングやトラブルが発生した場合の修理などはどうするのかなど、いろいろと不安な点が頭に浮かびます。

さらに根本的な問題として、このサービスを必要とする人がどれだけいるのだろう?という疑問もあります。例えば専用プリンタをネットに接続して、毎朝カスタマイズ新聞が出力されるようにキチンとセットアップできるような人なら、ウェブから自分の好みに合わせたニュースだけをピックアップすることなど既に行っている可能性が高いでしょう。逆に従来型の新聞に慣れている人々は、自分の興味外の話が載っていたとしても「新聞とはそんなものだ」とあまり問題視していないかもしれません。そういった人々はカスタマイズサービスに興味を示さないでしょうし、さらにはカスタマイズされた紙面に違和感を感じる恐れもあると思います。

Vandevanter 氏は「読者のため」を強調していますが、むしろこのサービスは、新聞社の側に対するメリットが大きいのではないでしょうか。紙の新聞にとって、印刷・配達という部分はコストでしかありません(紙のフィジカルな触感に価値を感じる、という方も当然いらっしゃるでしょうが)。それを読者宅のプリンタという形で切り出し、一部分だけでも読者に費用負担させることができれば、当然コスト削減につながります。さらにターゲティング広告の実施によって、広告単価を引き上げることも可能でしょう。もちろん正確に計算してみなければ何とも言えませんが、仮にカスタマイズという価値が読者拡大につながらなかったとしても、コスト減・収入増によるプラス効果が得られるのではないかと考えます。

そう考えると、むしろカスタマイズを実現する部分にかかるお金もセーブしてしまい、最初からごく狭い読者層をターゲットにした新聞を発行してしまうという道も考えられるかもしれません。例えば読者を70代以上の高齢者に絞り、彼らに確実にリーチできることを約束して高い単価で広告を募る。当然紙面はターゲットが興味を持つようなテーマでまとめ、文字を大きくするなどデザイン上の工夫も行う。購読料金も高めに設定する代わりに、毎月の集金が読者の楽しみになるよう、訓練された営業担当者が読者宅を訪問する――などなど、要は「マス」メディアであることを捨ててニッチで生き残るという戦略です。後ろ向きな話に感じられるかもしれませんが、どんな媒体であろうと「マス」なメディアとして成立することが難しい時代なのですから、こんな道を探る新聞があってもおかしくないのではないでしょうか。

もしかしたらこの「カスタマイズ新聞」、どの読者層がニッチ新聞の候補として有力なのか、あるいはどの読者層にリーチしたいと考えている広告主が多いのかを探るというのが裏の目的だったりして……などと邪推したりもしています。ともあれ、この実験がどこまで上手くいき、どんな結果をもたらすのか。一見の価値あり、といったところかもしれません。

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