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アート対データは Google でも問題だった、という話

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アート対データ。簡単に二分できるものではありませんが、話を簡略にするためにこのような軸を置かせて下さい。意思決定を行う際に、直感と数字のどちらを最終的に頼るかという問題は、多くの企業・部署の中で悩みの種だと思います。ただIT系の企業では、比較的データを重視する傾向が強いようなイメージがありますが、あの Google ですらこの問題で辞めていく人を出してしまったという話:

グーグルのビジュアルデザイン責任者が退職--データ中心主義に嫌気 (CNET Japan)

Google でビジュアルデザインの責任者を務めていた、Douglas Bowman 氏が退職するというニュース。記事の中でも取り上げられていますが、自身のブログで"Goodbye Google"と題されたエントリを書いており、そこで

And that data eventually becomes a crutch for every decision, paralyzing the company and preventing it from making any daring design decisions.

やがて、データがあらゆる問題解決を支えるようになり、企業を麻痺させ、斬新なデザインの決定を妨げる。

と述べ、Google のデータ重視主義が退職の一因であることを明かしています。

Google といえば、以前もご紹介した本『分析力を武器とする企業』の中で、「ステージ5」(最高レベル)と位置付けられているほどデータ分析を活用している企業です。Bowman 氏のブログでも「2種類の青色のいずれかで決めかねたら41の中間色をテストして最もパフォーマンスのよいものを選ぶ」と揶揄されていますが、やり方の是非はともかくとして、それだけデータが重視されている証でしょう。Bowman 氏は2006年に Google に加わっていますが、『分析力を武器とする企業』の原書が出版されたのが2007年ですから、彼が入社した時から既に Google はデータを重視する企業だったはず。入社前にそういったやり方を十分理解していなかったのかどうか分かりませんが、いずれにしてもお互いにとって不幸な結果になってしまったと思います。

Bowman 氏の言いたいことも、感情的には理解できます。自分にはデザインのスキルも経験もある。ちまちまとデータを集め、それに基づいて判断を下すのではなく、責任者である自分を信じて欲しい――非常に人間的であり、「天才デザイナーが最高のサイトを創造する」というのはワクワクする話です。しかし、そんなデザイナーが常に成功するという保証はあるでしょうか。さらに言えば、絶対失敗しない天才デザイナーを常に社内に確保しておけるという保証はあるでしょうか。Google にしてみれば、誰がデザインの責任者になったとしても一定のレベルを担保できる仕組みを構築しておきたかったはずです(それならそれに適した人材を任命すべきで、Bowman 氏の志向を見極められなかったのは Google のミスだ、という非難はあるでしょうが)。

「いや、デザインは直感が支配する世界であり、データ分析から優れた結果は生まれない」という意見もあると思います。それが例えば、ゴッホやピカソの名画に並ぶ作品を創るという話や、これまでに存在しなかったような(従ってデータ分析しようにも必要なデータがそもそも存在しない)概念を導入するという話であれば仰る通りでしょう。しかし、

Googleで検索製品および利便性向上担当バイスプレジデントを務めるMarissa Mayer氏は、非常に高い地位にあり、デザインをとても重視している。しかし、同氏の哲学がいかにして遺恨になりえるかは想像に難くない。Mayer氏は2008年の講演でデザインについて次のように述べている。「一般にウェブでは、(サイトの制作は)芸術よりも設計の要素がはるかに大きい。(中略)差が小さい場合でも正しいものを数学的に選択できる」

という意見に僕は賛成です。かつてスポーツが「データなど無縁、優れた選手が結果を残す世界だ」と考えられていたにも関わらず、セイバーメトリクスなどという概念が出て来たように、ウェブデザインやプロダクトデザインの世界にもデータ分析が活用され得ると思いますし、既に実践している企業は Google 以外にも数多く存在しています。アートの重要性は残りつつも、責任者と呼ばれる人々にはデータを駆使することが要求される比重はこれからますます大きくなっていくのではないでしょうか。

『分析力を武器とする企業』の中にも、「直感」派と「分析」派の対立によって問題が起きてしまう例がいくつも登場するのですが、あの Google ですらこういった退職者を出してしまうのですから、アートとデータの舵取りは非常に難しいと言えるでしょう。恐らくそれは、データ収集・分析のためにどんなソフトやシステムを導入するかを考える以前に解決しておかなければならない問題なのだと思います。その意味でデータを活用するとは、組織や人事の問題と切り離して考えてはいけないことなのでしょうね。

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