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分析力が武器なのではない『分析力を武器とする企業』

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分析力を武器とする企業』を読了。文字通り分析力を活用している企業をテーマにした本で、IT/コンサル系の方々には「BI(ビジネスインテリジェンス)の事例集」と言えばイメージしやすいでしょうか。ただ最近は『その数学が戦略を決める』や『数学で犯罪を解決する』など、数学やデータ分析が社会で活用されている例を解説した本が出ていますから、そうした本をお読みの方にはそれほど驚きはないと思います。

その意味で、この本の独自な点は第2部にあります。ここでは「それじゃ『分析力を武器とする企業(Analytical Competitor)』になるにはどうすれば良いのか?」が解説されているのですが、逆説的なことに、「分析力を武器」とする企業ほど実は「分析力以外の面が武器である」ことが分かります。例えば:

人間の重要性は、別の調査でも確かめられた。私たちはニューヨークのある大手銀行で、支店の収益性を分析しているアナリストを取材した。彼らはニューヨーク全域に展開されている支店一つひとつについて業務別のコスト、人員配置を調べ上げ、現在のコスト構造と近い将来の収益動向を精密に予測したという。このデータ分析に基づいて、営業を継続すべき支店との間に線引きをすることは、さして難しくないはずである。

だが彼らの努力はまったくの無駄に終わった。支店は、一つたりとも閉鎖されなかったのである。なぜか。調査を命じたCEOは、実態を知ることに興味はあったものの、実際にはしがらみや駆け引きでがんじがらめになっていて、支店閉鎖という荒療治に乗り出すことはできなかったからだ。例えば、大赤字のブルックリン支店は本来なら閉鎖すべきなのだが、社長の出身地区だからそうもいかない、という具合だった。データ分析に基づいて行動を起こすには、アナリスト・チームと経営チームの連携が欠かせない。両者の間に信頼関係がなければならないし、そもそもの調査の目的にも共通理解が必要である。そうでないと、せっかくの分析も生かされない。

と、笑うに笑えない話が紹介されています。このような話、企業にお勤めの方であればなじみ深いものでしょう。考えれば当然のことなのですが、拳銃を持っていても使い方を知らなければ撃てないように、分析力を武器にするためにはその使い方・使う意志がなければなりません。そしてその使い方・使う意志を組織内に根付かせることの方が、実は分析力を手に入れる(=システムを構築する、データ収集の流れをつくる etc.)よりもはるかに難しいことだったりするわけですね。

実際、本書を読んでいると「分析力を武器にできる企業は、他のものも武器にできる」という気にさせられます。というわけで、本書のタイトルは『新しい武器を活用できる企業』とすべきだったかも?なんて。

ただ本書によれば、あの Google ですらデータ分析の専門家を採用するのには苦労しているのだとか。だからその他の企業が分析力を手に入れられなくて当然……というわけではありませんが、この本で紹介されている成功事例のレベルまで到達するには、相当な苦労を覚悟しなければならないのだと感じさせられます。データ分析の力をアピールする本と合わせて読むと、ちょうどいいのかも。

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