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会計本ブームの落とし穴

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山田真哉さんの『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』を読了。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『食い逃げされてもバイトは雇うな』と続いてきた「さおだけ屋3部作(?)」もこれが最後ということで、個人的には一番面白く感じました。しかも前作のタイトルを完全否定してくるとは!

この本、というよりこのシリーズを最近流行りの会計本だと思って読むと面食らうでしょう。ありがちな「話を簡単にするために、状況や数字を単純化したケース」を持ち出して現実離れした説明をされ、「これを実践すれば大丈夫」で終わり、ということがありません。逆に、時に会計や数字の限界を語るようなところもあり、特に『~大間違い』は経営学の範疇に入れてしまっても良いのではと感じたほど。山田さんがそんな一風変わった会計の本を書いた理由は、終章「会計は世界の1/2しか語れない」に示されています:

会計についてはここ数年、ビジネス書・ビジネス誌を中心に頻繁にとりあげられていますが、私は「会計が信頼されすぎている」と感じています。「会計がわかればビジネスがわかる」的な過大評価が目につくのです。

(中略)

会計・非会計の話にかぎらず、ビジネスにおいても、生活においても、大事なのは複数の視点を常に持つことです。
そして、それをベースに考え抜くことなのです。

もちろん、山田さんは「会計は役に立たない」と主張しているのではありません。そうではなく、終章のタイトルにあるように「会計は世界の1/2を語っているに過ぎない」、つまり会計だけを考えていては正しい決断は下せないというわけですね。その例として本書では、ある企業で赤字店とベテラン社員を切るという再建策(つまり会計的・数字的にはロジカルな判断)を実施した結果、翌年は黒字になったもののその後は逆に状況が悪化してしまったという話を紹介しています。これは分かりやすい例ですが、「禁じられた数字」、すなわち一見正しそうに感じられる数字のワナは様々なところに隠れているのでしょう。

この本を読んで、僕は以前このブログでも紹介した本『したたかな生命』を思い出しました。会計と生物学、分野は全く異なるのですが、『したたかな生命』も「複数の視点を持つこと」の大切さを説いています。例えば以前のエントリでも引用した吉野家のケースでは、当初「米国産の牛肉だけで作られた牛丼だけを提供する」という徹底的な効率化(会計的な思考)によって競争力を得ていたわけです。しかし米国でBSEが発生したことで事態は一変、吉野家が危機に直面したことはご存知の通り。ロバストな組織、つまりどんな事態に直面しても生き残れる組織を作るためには、複眼思考をしなければならないことが示されます。

そう考えると、「会計本ブーム」は日本のビジネスマンの知識レベルを上げるというアドバンテージがある一方で、物事を数字という一面からしか見ない人間を量産してしまうというリスクも招いているのかもしれません。最近会計本を読み、さぁ学んだ知識を仕事で活かすぞ!と意気込まれている方は、『~大間違い』も一読されることをオススメします。

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