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アマゾンの電子ブックは「グーテンベルク以来の大発明」か

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先日も触れましたが、Amazon.com の発表した電子ブックリーダー「Kindle」が注目を集めています(参考記事)。僕が期待した「ブログを『売る』プラットフォームとしてのサービス」というものはどうやら期待外れだったようですが、それでも通信費無料でネットに接続・いつでも書籍が買えるというのは大きなインパクトがあると思います。「グーテンベルク以来の大発明」と称されるのもなるほど、といったところ。

オルタナティブ・ブロガーの今泉さんも、関連エントリを書かれていますね:

書籍の世界に革命が起こった-Kindleの紹介ビデオを見て (シリアルイノベーション)

しかし。僕はあえて、「革命と言えるほどのものだろうか?」という立場を取ってみたいと思います。といっても「今泉さんは間違っている」という趣旨ではありませんので、その点はどうか誤解なさらないで下さい。

いくつか論点はあると思うのですが、例えば

  • 「何百冊もの本を持ち歩ける、書籍版の iPod だ」
    <- それにどれだけの価値があるのか?音楽の場合、1つの曲は数分で終わり、「ながら聴き」もできる。従って大量の曲を持ち歩くことに意味があるが、書籍は読むのに長い時間がかかり、「ながら読み」はできない。辞書は別にして、いまでも携帯に適した本は存在しているし、辞書には「電子辞書」がある。
  • 「保管スペースがいらないことや、検索可能なことなど、紙にはない利点がある」
    <- 確かに。ただし「何冊もの本を同時に広げられる」「気になった部分に線を引いたり、付箋を貼ったり、書き込みしたりできる」など、デジタルにはない利点があることにも注目しなければならない(これは閲覧ソフトの機能にもよりますが。事実 Kindle ではメモを取る機能が用意されているそうですし)。
  • 「無料でネットに接続でき、いつでも・どこでも本が買える」
    <- ネット接続機能については素晴らしい。しかし「いますぐあの本が欲しい!」という状況がどれだけ発生するだろうか?また、ある疑問に答えてくれる情報が欲しいときには、「ネットで検索」の方が早いのではないだろうか。
  • 「森林資源を守ることができる」
    <- これは反論できませんね。ただし Kindle が流行ってくれなければ、端末を作るのに要した資源が無駄になってしまいますが。

などが頭に浮かびます。そして個人的に感じている最大のポイントは

フィジカルな紙がデジタルな端末に置き換わっただけで、「提供された文章を読む」という行為そのものに変化はないのではないか

という点です。確かに Kindle は「自宅の本棚+書店 in iPod」のような、これまでにない存在ですが、よく考えたら「本を読む」という行為の部分は一緒ではないでしょうか。

せっかく無料でネットに常時接続できる端末なのですから、「いま同じページを読んでいるユーザーとコンタクトが取れる」「疑問に思う箇所について、すぐに著者に質問できる」「誤植に気付いたらすぐに出版社に報告ができ、修正はリアルタイムで全読者の Kindle にアップデートされる」などといった機能が提供されても良いのではないでしょうか。また読んでいる本に関連する文章を Kindle 上で作成し、すぐに Amazon.com に出品できる機能とか。そう、例えて言うなら Read Only だった WEB1.0 から、Read/Write Web である WEB2.0 への変化のようなイメージです。そういった「書かれた文字を読む」とは根本的に異なる行為が可能になって初めて、「グーテンベルク以来の革命」という名誉が与えられるのではないかと思います。

ジェフ・ベゾスは Kindle について、「デバイスではなくサービス」と称しているそうです。であれば、これからますます革命的なサービスの登場を期待して良いのではないでしょうか。Kindle に対する賛辞は、その時まで取っておきたいと思います。

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