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プリンに醤油でウニになる、味だけは。

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またまた ITmedia さんから、書評用の本をいただきました。今回は『プリンに醤油でウニになる - 味覚センサーが解明した仰天の食の謎』という、インパクトたっぷりのタイトルが付けられた本。一瞬「深夜ラジオのリスナー投稿でもまとめた本かな?」と思ったのですが、副題に「味覚センサーが解明した~」とあるように、内容はいたって真面目です。著者の都甲さんは九州大学大学院で教授を務められていて、味覚センサーを開発した功績で文部科学大臣表彰・科学技術賞を受賞された方。味覚・嗅覚とは何か、センサーでどうやって測っているのかという話から、表題にあるような「ある食品の味を、別の食品で再現したらどうなるか」という話まで、テーマは多岐に渡っています。

恐らく皆さんが最も興味を持たれるのは、「ある食品の味を、別の食品で再現したらどうなるか」という点でしょう。同書で紹介されている驚きの組み合わせを一部紹介すると……

  • プリン+醤油 = ウニ (ただし醤油は強めに、見た目は悪くなるがよくかき混ぜて、とのこと)
  • 麦茶+牛乳+砂糖 = コーヒー牛乳
  • 牛乳+たくあん = コーンスープ
  • ヨーグルト+豆腐 = レアチーズケーキ
  • 梅干し+牛乳 = チーズ
  • 醤油ラーメン+アイスクリーム = とんこつラーメン

最後の例に至っては、もう何が何やらという感じですが、センサー上で(客観的に)示されている事実なのですから仕方ありません。なぜこの味が再現できるのか、については、ぜひ同書の解説でご確認下さい。

『プリンに醤油でウニになる』を読んでいると、「味を客観化する」ということが既に実用レベルまで達していることが分かります。上記のような「味の再現」もその一例ですが、もう1つの例として、付録として付いている「テイストマップ」が挙げられるでしょう。これは様々な食品をグラフ上にプロットして、ある商品が他の商品と比べてどのような位置にあるかを示したもの。例えば「カレールー」のテイストマップでは、X軸に「塩味」、Y軸に「うま味コク」が置かれ、「S&Bのゴールデンカレー中辛はコク・塩味ともに薄い味付けだな」「グリコの極カレー中辛は塩味はゴールデンカレー中辛と一緒だけど、うま味コクが非常に強くなっているな」などということが一目で理解できるようになっています。実際、食品メーカーは味覚センサーで他社ブランドを計測することで、商品開発戦略に役立てているとのこと。

センサーは既にポータブルタイプのものも実用化されているそうですから、そのうちミシュランでもザガットでもなく、「センサーがはじき出した客観的な数字」が重要なガイドとなる日も来るのかもしれません。ただ「何をおいしいと感じるか」は、「味」以外の要素も大きく関わっていますよね。プリンに醤油がウニだからといって、高級寿司屋でそんなものを出されたら、到底納得できないでしょう。味が計測できるようになればなるほど、逆に「味以外に『味覚』に影響を与える部分」も注目されるようになるのではと感じます。

さて、おいしさにはこれら五感に加え、そのときの体調や心理状態もきいてくる。空腹時は何でもおいしい。元気でうれしいことがあったときには、楽しく食べることができる。好きな人といっしょに食事をすると、何を食べてもおいしい。逆に嫌いな人といっしょだと疲れるだけで、おいしくないし、後でおなかをこわしたりする。

食事をする場の雰囲気も大事だ。夕食を恋人といっしょにとるときだと、照明は暗めのほうがいいではないか。日本料理には静かな雰囲気がよく似合う。湿度も高すぎず、低すぎず、つまりあつすぎず、寒すぎずがベター。

といった感じで、おいしさには五感のほかに健康、心理状態、その場の雰囲気もきいてくるのだ。なんという世界だろうか。

同書でも、「おいしい」と感じるメカニズムの複雑さがこう指摘されています。しかし「味」の方が客観化されれば、「『商品Aの方がおいしい』という回答が多いが、センサーは商品Aと商品Bがまったく同じ味だと示している。ならば商品AのCMやパッケージが『この商品はおいしい』というイメージを作り上げているのではいか」という分析がしやすくなるでしょう。そのうち、「まず軽くジョギングし、シャワーを浴びた後、観葉植物をテーブルの上に、あなたの好きな方を横の席にご用意してからお召し上がり下さい」などというインストラクションが書かれた食品が登場する……かもしれません。

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