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「本を売る現場」の難しさ

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書店で平積みされているのを見て、『本を売る現場でなにが起こっているのか!?』という本を衝動買い。文字通り、書店や取次など「本を売る現場」の現状について解説した本です。189ページと比較的短いのですが、様々な企業・団体が取り上げられており、内容は豊富。ただ独立した事例の集合という形式なので、一貫した流れや主張というものはなく、雑誌的な感覚になってしまっているのが残念なところです。例えば「はじめに」で「ここに書店復活のひとつのヒントがある。それは図書館だ」という解説がありながら、本文で“図書館的書店”の姿が描かれることはありませんでした。あくまでも事例集、と捉えて読むのが正しいのでしょう。

その意味では、先月朝日新聞に載った以下の記事を読んでおくと、この本に入りやすいかもしれません:

出版、断てるか負の連鎖 書店や取次会社の試み始まる (asahi.com)

ご存じの通り、書籍は「一定期間内なら返品が自由な委託販売制」で販売されています。しかし出版社側はだまって返品を受け入れるわけにもいかないので、販売力のある大手書店に配本を集中する ― その結果、いわゆる「町の本屋さん」である小型店に欲しい本が回ってこない、というのが非常に簡略化した現在の姿と言えるでしょうか(出版流通の専門家ではないので、誤りがあればご指摘下さい)。この流通における問題については、『本を売る現場で~』でも「流通の現場」という章で大きく扱われており、取次業者がどのようなSCMシステムを構築しようとしているかが解説されています(朝日の記事でもちょっと触れられていますね)。

肝心要の商品である「本」の品揃えが出版・取次側に左右されてしまうのであれば、多くの書店で経営が苦しくなるのも当然です。従って流通改革は必要不可欠な対策だと思いますが、『本を売る現場で~』を読んでいると、問題はそれだけではないように感じました。同書ではジュンク堂やTSUTAYAなど、大手書店へのインタビューも掲載されているのですが、そこで感じられるのは「お客様のことを考えて行動する」という姿勢です。

特にジュンク堂書店が奇抜な事をやっている、という訳ではありません。読者の要望を聞いていたら今の形になったのです。今後もし読者が「こんな本屋があったらいいのになぁ」というのとジュンク堂書店が目指す書店増が一致するのであれば、新しい意見はどんどん取り入れていきます。

例えば上記は、ジュンク堂のコメント。またTSUTAYAは以下のように述べています:

現在、消費スタイルはどんどん変化しています。ネットを含め選択肢が増え、それを経験されるお客様の求めるものも高くなっています。その中でTSUTAYAを選んでいただくため、常にこういったマルチな取り組みを通してお客様の変化に柔軟に対応し、お店に来ていただくニーズをしっかり高めていくことが、我々のテーマだと考えています。

「そりゃ大手だから、望んだ本を仕入れてお客様の希望に添うことができるんだよ」「大手のように体力がないと、新しい取り組みはできないよ」 ― と言われてしまうかもしれません。しかし『本を売る現場で~』の中には、新しい消費者行動に合わせて、書店自身をどう変えていくのかという議論はあまり登場しませんでした。それだけに、大手のこうした姿勢が目についたわけです。

奇しくも昨日(9月17日)の日経流通新聞では、1面で書店経営が特集されていました。しかしそこでも焦点が当てられていたのは、流通やPOSデータの活用といった側面。流通が改善されれば、もしくは「売れる本」が手に入れば、書店の苦境は無くなるのでしょうか。ジュンク堂やTSUTAYAのように、利用者の要望や動向に対応するという姿勢がなければ、結局は大手に流れてしまうのではないでしょうか?流通の問題が大きすぎるあまり、利用者のことを考えて行動するという基本的な姿勢が忘れられていなければ良いのですが……。

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