死滅回遊
夏の終わりにホラーネタ?ではありません。なんだかオドロオドロしい言葉ですが、魚が潮の流れにのって本来の生息域を超えた海域にまでやってくることを「死滅回遊」(専門用語では「無効分散」)と呼ぶのだそうです。本来の「回遊」と異なり、自力でやってきたわけではないため、たどり着いた海域が生息に適さなくなると死んでしまう(ex. 熱帯魚が北方の海にやってきたが、冬を越せなくて死んでしまう)ことから、「死滅」という言葉が使われるとのこと。
実はこの話、朝日新聞の8月26日の日曜版「be」で解説されていました。記事では「死滅回遊」をする熱帯魚の愛好者が増えていることが紹介されていたのですが、僕が興味を引かれたのは、この無駄のように見える行動を魚たちが取る理由についてでした。以下、記事からの引用です:
水温が14度以下になると、死滅回遊魚のほどんどが死んでしまう。ただ何千年、何万年後か分からないが、気候が大きく変わっている可能性はある。房総半島どころかもっと北でも死滅回遊魚が越冬し、繁殖できるくらい暖かくなる時が来るかもしれない。
(中略)
ということは、一見すると無駄のような死滅回遊も、長い目で見ると、したたかな生存戦略と考えることができる。種の全体としては壮大な先行投資なのである。
(中略)
「しかも、死滅回遊魚は進化する必要がない。条件さえ整えば今の姿のままで生き残ることができる。もう、環境の変化への準備ができているのです」(瀬能主任研究員)
引用中で「瀬能主任研究員」とあるのは、神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能宏主任研究員のことです。瀬能さんが仰っているように、この「死滅回遊」は環境変化への準備なのですね。環境への適応、というと生物には進化しかないのかと思っていたのですが、「自らに適する環境を探す」という選択肢もあるようです。
環境に適応できなかった生物が絶滅していくように、企業も自らを取り巻くビジネス環境に適応できなければ、やがて倒産して(あるいは買収されて)しまいます。しかも環境は常に変化していますから、現時点で最適な姿を模索すると同時に、将来の変化に対応できる仕組みを持っていなければなりません。ところが企業内では、こうした「死滅回遊」的な一見ムダに見える行動は、評価されにくい傾向にあります。「将来のことを考えるより、まず目の前のチャンスに集中しろ!」という感じですね。
しかし、現状に目を奪われるあまり自らの姿を変えようとしない企業・新天地を探そうとしない企業は、けっきょく長期的に生き残ることはできません。ちょっとネーミングは悪いのですが、企業も魚たちに倣って「死滅回遊」を意図的に行う姿勢が必要ではないでしょうか。