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ヘンになろう、そしてくつがえそう

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勝手に夏休み読書週間が続きますが、『「わからない」という方法』という奇妙なタイトルの本を買ってみました。中身もタイトルに劣らず奇妙な本で、必要以上にクドクドしています。しかし著者の橋本治さんの思考法は非常にユニークで、読了していませんが「これは発想の参考になる!」という印象。例えば、こんな箇所があります:

さて、そう言っておいて、やっぱり私は「へんな人間」である。「へんな人間」からスタートせざるをえない。というのは、「セーターの本を書こう」と思った1983年当時、「炊事も洗濯も掃除も全部一人でやっている男」というのは、十分に「へんな人間」だったからである。「男のくせに編み物がうまい」は、1983年当時、十分に「へん」だった。だから話題性にもつながったのだが、この「へん」は、「炊事も洗濯も掃除も全部一人でやっている男」というさらなる「へん」のうえにのっかっている。だからどうなのかと言えば、べつにどうということもない。「それをするのが生活者だ」と言ってしまえば、それまでだからである。「男だからって、会社の仕事だけしてればいいの?」と言えばいい。「会社の仕事だけして、後はなんにもしなくて、酒飲んで騒ぐ以外になんにもできない男がまともなの?」と言ってしまえば、それまでである。編集者は簡単に騙される。この「へん」という位置づけは、「生活者」という切り札を持ち出すことによって、一転して「へんじゃない」に変わってしまうのである。

ここまでが一段落。この本のクドさが窺える文章です(笑)。しかしこの発想は、企画を立てる際に重要なのではないでしょうか。「僕はヘンだ。しかし視点を変えれば、あなたの方がヘンだ。それでいいのか?」-- こう言われたら、相手は思わず「ヘンじゃなくなるため」に行動を始めてしまうはずです。

かつて「男が編み物をする」なんてのはヘンなことでした。しかし視点を「生活者」に変えてみると、自分で着る物を自分で作ることは少しもおかしいことではありません。編み物だとちょっと極端かもしれませんが、これが「料理」ならば、「むしろ料理が作れない男の方が生活者としてはおかしい」ということになるでしょう。実際、現代では「オレは男だから料理なんてしない!」という方が「ヘン」になりました。

しかし「男は仕事に打ち込むもの」という「ヘン」も、例えば「働く尊さ」などといった視点を出せばヘンではなくなります。実際、雑誌『Goethe (ゲーテ)』は「仕事が楽しければ人生も愉しい」という視点を打ち出し、

かつてワーカホリックは軽蔑の対象だった。しかし男が本当に輝いて見えるのは、ひたむきに仕事と向き合っている姿だけ。今日からはそんな男たちを、敬意を込めて「ビジネスホリック」と呼ぼう。
公式サイトより抜粋)

とアピールしています。これはまさに「ヘンだけど、ヘンじゃない」という公式ですよね。自分の中の「ヘン」を探して、それを覆す視点を見つけてみること -- それが新しい本や雑誌、製品やサービスのタネにつながっていくかもしれません。

僕の「ヘン」は、さしずめ「サラリーマンなのに実名でブログしてる」ってとこかなぁ。しかし企業の活動が1つの会社内で完結する時代は終わり、顧客や協力会社、場合によっては競合他社ともネットワークを形成する時代となりました。その視点から見れば、社外に向けて日頃から情報発信するのはヘンなことではありません。むしろ社内に引きこもるこそヘンなのでは?さあ、最初は匿名でもOKですから、いますぐブログを始めましょう!

< 追記 >

上記の「クドイ」ですが、橋本さんご自身が解説されていました:

私の書くものは、時としてくどい。もしかしたら、「いつもくどい」かもしれない。どうしてそうなるのかと言えば、書き手である私が、いつもいつも「なんにも知らない、なんにもわかっていない」というところからスタートするからである。

失礼しました。読者のことを考えた、確信犯的行動だそうです。

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