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「来年の8月に入社してもらう人の業務が今年の9月にわかっているとしたら、それはよほどつまらない仕事ではないでしょうか?」

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長~いタイトルになってしまいましたが、もう1つ『マーベリック・カンパニー』からの引用をさせて下さい。「仕事を新たにデザインする」と題されたセクション(第3部)に、こんな求人広告が紹介されています:

応募する皆さんに、入社後に就くポストについての情報は提供できません。入社後の上司に会ってもらうこともできません。今後の“昇進ルート”の概略を説明することもできません。企業が提示する型通りの業務内容と“プログラム”の中身を比較検討しようというみなさんには奇妙に感じられるでしょう。しかしわが社はこう考えているのです。来年の8月に入社してもらう人の業務が今年の9月にわかっているとしたら、それはよほどつまらない仕事ではないでしょうか?

これはSEIインベストメント(SEI Investments Developments, Inc.)という金融サービス業者が、新卒向けの求人広告として考えた文章とのこと。ここで書かれていることを「大学生相手にカッコつけてるだけ」と切り捨てるのは簡単です(彼らが本気でこう考えているであろうことは、『マーベリック・カンパニー』の解説から明らかなのですが)。しかしこんなスピードを感じさせてくれるような会社、ちょっと惹かれると思いませんか?同時に「いまの業務にフィットする人材」を探している会社ではなく、「新しい業務にチャレンジできる人材」を探している会社であることを予感させます。

また同書には、日本でも話題になったシルク・ドゥ・ソレイユの事例が紹介されています。なぜビジネス書にサーカスが?と疑問に思われるかもしれませんが、次の文章を読めば、彼らがユニークな人材戦略を採用していることが分かります:

キャスティング部があるパフォーマーを推し、その人物に合わせて監督が新しく役をつくることもよくある。ジアソンが「インスピレーションを引き出すプレゼンテーション」と呼ぶプロセスだ。

たとえば全米ツアー中の最新のショー『コルテオ』の場合、2005年4月の初演の2年前にジアソンは創作チームの話し合いに加わり、新しいパフォーマーを熱心に推した。そのなかの一人がショーン・ローマックスという若い男性だった。「(中略)すぐに監督は反応しました。“パーフェクトだ。彼を使いたい。どんな役になるかはまだ未定だが、なんとしてもショーに出演させよう”」こうしてローマックスは『コルテオ』で風変わりな役をみごとに演じた。彼のためだけにつくられた役を。

シナリオありきではなく、パフォーマーの個性を活かすためにシナリオの方を変えてしまう。始めから「君を○○役として採用する」という形で組織に加わるのではなく、「自分のためだけにつくられた役」などというものが与えられたら、どんなに嬉しいでしょうか!

SEIとシルク・ドゥ・ソレイユ、両者に共通しているのは「何をするか、どうするか」をフレキシブルに考え、「人」を最優先にする発想です。もちろん組織として目指す方向性はありますが、それをどう達成するかは在籍するメンバーに任されている。そんな組織であれば、社員の力は最大限発揮されることでしょう。

確かにSEIやシルク・ドゥ・ソレイユは例外的な存在(まさしくマーベリック・カンパニー)かもしれません。「そんなの理想論だよー」と一笑に付されてしまうことも分かっていますが、それでもこんな組織を目指したいものだと思います。ところで皆さんは1年後 -- いや、業界によっては半年後でもいいかもしれません -- 何をしているか、いまから想像「できてしまって」いませんか?

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