クチコミ抑制装置としてのマスメディア
アメリカで、また痛ましい銃乱射事件が起きてしまいました。昨日から大きく報道されていますので、ご存知の方も多いでしょう。念のため、ニュースへのリンクを掲載しておきます:
■ バージニア工科大で乱射、32人死亡 米最悪の銃撃事件 (asahi.com)
最近起きた大事件と同様に、この銃撃事件でもネットが大きな役割を果たしました。例えば ITmedia の記事によれば、事件の起きたバージニア州立工科大学で関連情報を集めたウェブサイトが設立されたこと、学長がポッドキャストで声明を出したこと、大学新聞のサイトでブログエントリが掲載されたことなどが報じられています:
■ 米大学の銃乱射事件、学長がポッドキャストでコメント (ITmedia News)
また今回も、個人のブログに数多くの書き込みがなされ、それがマスメディアの重要な情報源となるというケースが見られたようです。ネットを通じて事件の情報発信・情報収集を行うという行為は、ごく一般的なものとして定着したのでしょう。
しかし今回の事件では、残念ながらネットの負の側面もクローズアップされてしまいました。最終的に「容疑者は韓国人留学生」という公式発表がなされたものの、それまでネット上では「中国人ではないのか」などの憶測(※注:一時的に、一部の公的機関やマスメディアでもこの説を支持)が流れ、さらには実在の人物を「犯人」として書き込むという例までありました:
■ Internet Names the Wrong Killer (Threat Level)
犯人として疑われた人物のブログには、11万7千ページビューというアクセスが集まったそうです。もし日本でも同様の事件があり、何かのはずみで自分の名前が「大量虐殺の犯人」として取りざたされたら、と思うとゾッとします。ネットがない時代にも、根拠のないウワサで無関係な第三者が疑われる、というケースはありました。ネットはそれを増幅しているに過ぎませんが、何らかの対策が講じられるべきではないでしょうか。
そこで取り上げたいのが、従来型のマスメディアの存在です。ブログなど個人による情報発信が存在感を増しているとはいえ、まだまだマスメディアの持つ「権威」というものは健在です。例えば「2ちゃんねる」の中でも、「犯人は中国人らしいよ」という書き込みに対し、「ニュースでそう言ってたのか?」的な反応が見られました。また Threat Level の記事が指摘しているように、デマが広まった一因は「犯人に関する情報が一切伝えられない」という「情報の真空状態」があったからとも考えられます。仮にマスメディアが早い段階で、「ネットで根拠のないウワサ話が流れている」などの報道を出せば、デマの流れるスピードを抑えることができたでしょう。誤解を恐れずに言えば、マスコミはネットを注視し、危険なクチコミを抑制する役割を演じるべきではないかと思います。
「デマが流れるのは人間の性質によるものだ」として何の対策も打たないのは、「銃が人を撃つのではなく、人が撃つのだ」として銃規制に反対するのと同じでしょう。虫のいい話ですが、ネットの持つ自由と速報性を守りつつ、悪質なデマが流れないような仕組みが考え出されることを期待しています。