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「見える化」から「触れる化」へ

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Polar Bear の方でも書いていますが、"Made to Stick"という本を買って読んでいます。"Why Some Ideas Survive and Others Die"(なぜ一部のアイデアは広まり、残りは死んでいくのか?)という副題からも分かる通り、ニュースや広告、噂話などの中で"stick"するもの(心に残るもの)はどんな特徴をもっているか、を分析した本。理論を説明するだけでなく、興味深い事例を数多く収めてくれているので、非常に参考になります。

そうした事例の中に、こんな話がありました。長いので、ごく簡単に要約してみます:

1980年代、Geoff Ainscow という人物が核兵器反対運動を行っていた。彼は核拡散がいかに深刻な問題化を示すために、BB弾を持ち歩いていた。

彼はまず、広島に落とされた原爆の威力を詳しく語った上で、BB弾を空のバケツの中に1粒落とす -- BB弾は音を立ててバケツの中に収まる。次に10粒のBB弾をバケツの中に落とし、「今のは現在のアメリカ/ソ連が配備している核兵器1発の威力」と説明する。最後に彼は、観客に目を閉じてもらった上で、5,000粒のBB弾を落とす -- 静寂が訪れると、彼は「これが現在配備されている全核兵器の威力です」と説明する。

たとえ1980年代であっても、核兵器が世界中に拡散しているということは知られていたでしょう。しかし単に「現在配備されている核兵器は、広島に落とされた原爆の5,000発分に相当する」と言われても、切迫感は感じられなかったのではないでしょうか。そのデータを「BB弾がバケツにぶつかる音」という実際に体感できる姿に置き換えることで、問題の深刻さを理解してもらうことができるわけです。

最近流行ったキーワードに「見える化」があります。様々な問題をデータとして「見える」ようにすることで、人々の行動を促すという手法であり、効果的で応用範囲の広い発想だと思います。しかし単にデータを「見える」ようにするだけでなく、それを「触れる」「感じられる」ようにすることで、データ化の効果をさらに大きくすることができるのではないでしょうか。上記の例で言えば、「核拡散」という問題に対し、「現在配備されている核兵器は広島型原爆の5,000発分」という情報を提示するまでが「見える化」で、「5,000発のBB弾がバケツにぶつかる音」が「触れる化/感じられる化」です。

別に新しいバズワードを生み出したいわけではないので、言葉遊びはこれくらいにして。終わりにもう1つ、面白い事例をご紹介したいと思います:

Masterpieces of Disaster (Metrophile)

上記エントリの中央にある、ペットボトルの写真をご覧下さい。これはアメリカの赤十字が「災害に備えよう」というキャンペーンのために街頭で配っていたものだそうですが、ラベルにはこう書かれています:「これで3日間生き延びてみて下さい」。

これがどこまで過去の統計と合致しているのかは分かりませんが、仮に「都市部で自然災害が起きてライフラインが破壊された場合、ひと一人が1日に得られる飲料水は、平均して200ml前後だ(=3日で500mlペットボトル1本分)」などというデータに基づいているのであれば、非常に効果的な「触れる化」ではないでしょうか。東京のオフィス街でも「これが3日分の食料です」などと書かれた乾パンを配布したら、人々の防災意識を高めることができるかもしれませんね。

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