イメージ先行の怖さ
最近、タミフルをめぐる議論が再発しています。タミフルはご存知の通り、インフルエンザウィルスの増殖を抑える薬。インフルエンザの「特効薬」的な扱いをされていましたが、幻覚症状などの副作用により、自殺を誘発するのではないかという懸念が持たれています。僕も単純に「タミフルって幻覚を引き起こすんだ」「やっぱり薬って怖いよな」的なイメージを抱いていたのですが、最近いくつかの新聞・雑誌記事を読んで、考えを改めました。
冷静に考えると、「タミフルで自殺者が出た」と結論付けるには、以下のような点を確認する必要があります:
- タミフル登場前と登場後で、インフルエンザ患者中の自殺者数に変化はあるのか(そもそもインフルエンザ患者に自殺が多いのではないか?)
- タミフル服用前から幻覚症状は出ていなかったのか(同じく、自殺を引き起こしたのはインフルエンザの症状ではないか?)
- タミフルはどのような患者に処方されるのか、どうやって処方されるのか(タミフルを処方されるレベルの患者に自殺が多いのではないか?タミフルの成分ではなく摂取の仕方に問題があるのではないか?同時に摂取される物質はないのか?)
etc.
要は「タミフル以外の要素が自殺を引き起こしている可能性」をつぶさなければならないわけです。実際、インフルエンザそのものが幻覚症状を引き起こす例もあるとのことで、タミフルと自殺の因果関係については(厚生労働省の見解では)立証されていないというのが現状です(因果関係があるかどうかを論じるのがこのエントリの目的ではないので、この点についての考察は避けます)。
「別の因果関係がないか」と考えるのは、ごく普通のことです。例えば体型が気になりだしたとしたら、「運動不足だろうか」「食べすぎだろうか」「量ではなく、高カロリーな食事をしているせいだろうか」と様々な要因を考えるでしょう。なぜタミフルの例では、その判断が働かないのでしょうか。僕自身の体験では、「子供が自殺した」というセンセーショナルな報道に最初に接したために、「タミフル=怖い」というイメージがすり込まれる結果となりました。それにより、「タミフルで自殺」という情報ばかりに目がとられ、「タミフルが怪しい」という偏見を強化していたのだと思います。恐らく同様の体験をされている方は多いのではないでしょうか。
重ねて言いますが、タミフルが自殺を引き起こしているかどうかは分かりません。本当に因果関係がある可能性も残されていると思います。しかしイメージ先行でタミフル悪玉論が浸透していることも事実でしょう。大きなインパクトのある事例が少しでもあると、そこから導かれるイメージが冷静な判断を妨げてしまうという点には、十分注意する必要があると思います。
< 追記 >
タミフルを服用しないのに飛び降りた、という事例が報じられています。
■ インフルエンザ14歳男子、タミフル服用せず飛び降り (読売新聞)
タミフル服用後の「飛び降り」事例が相次ぎ、薬との因果関係が疑われているが、服用していない患者の飛び降り例はこれまであまり報告がないという。
という一文がありますが、それが「本当に発生していなかったから事例が少ない」のか、「発生していたけど『インフルエンザにはつきものだ』という理由で報告されていなかったのか」を検証する必要がありますね。
重ねて言っておきますが、僕自身はタミフルが有害かどうか、判断できませんし判断しようともしていません。ただ魔女狩りのように、非合理的な空気の中で犯人探しが行われることのないよう願うばかりです。