目で見るメッセージ
1つのアートが、数千の言葉に等しいメッセージを持つことがあります。以下のサイトで公開されている写真も、そんな作品の1つでしょう:
■ Running the Numbers - An American Self-Portrait
統計データを実物で示したらどうなるか?というコンセプトのアート。例えば"Plastic Bags"という作品では、全米で5分毎に消費されるポリ袋(約60,000枚とのこと)を集めた画像を作り(もちろん実物ではなくてデジタル加工したもの)、いかに膨大な量であるかを示しています。また「5分毎にオフィスで消費される紙の量」「30秒毎に消費されるアルミ缶の量」など、そのボリュームには驚かされるばかり。
これが仮に、「全米のオフィスで5分毎に消費される紙の枚数は1,500万枚である」「全米で30秒毎に消費されるアルミ缶の個数は10万6千個である」と言われても、さほどインパクトは感じないでしょう。数字で言われた方が正確に事実をつかめますが、それがどんな意味を持っているかは、実物を目にした方が早いというわけです。従って何かメッセージを伝えたければ、正確性よりも視覚性を重視した方が良いということになります。
谷川耕一さんが『むささびの視線』で書かれていましたが、このところ地球温暖化に関するTV番組や新聞・雑誌記事をよく目にします。そのきっかけとなったのは、やはり映画『不都合な真実』の公開でしょう。参考に Technorati のチャート機能で「地球温暖化」をキーワードに検索したのが下の図なのですが、ちょうど1月後半から件数が急上昇していますね。これは同作品の公開日(2007年1月20日)とほぼ一致しており、その影響力がうかがえます:
谷川さんも指摘されていますが、『不都合な真実』は演出過剰であるとして批判する向きもあるようです。しかしゴア氏の目的が人々にデータを覚えてもらうことではなく、危機意識を持ってもらうことであるならば、「映画」という視覚的な手法を使ったのは正解だったと思います。データとして事実を正確に伝えることも重要ですが、それがどんな意味を持っているかを理解してもらうためには、目で見せることに力を入れるのも必要でしょう。
とは言え、「目で見えるようにすること」に恣意的な操作が入りやすいのも事実。メッセージを送る側は、「それは演出に過ぎない」と言われてしまわないためにも、客観的なデータを伴わせるなどのバランス感覚が求められるのではないでしょうか。