【書評】ゲームシナリオの書き方
※ITmedia さんより『ゲームシナリオの書き方 - 基礎から学ぶキャラクター・構成・テキストの秘訣』という本をいただきましたので、以下に書評を記します。本は無償でしたが、書評の内容については一切指示を受けておりません。
文章を大別すると「説明」と「物語」の2つの種類になり、それぞれに決まったスタイルというものがあります。大まかにいえば、簡潔で論理的なのが「説明」、修飾にあふれ感情的なのが「物語」と言えるでしょう。「情報を伝える」という目的は同じでも、伝え方は全く異なっているわけです。
通常、仕事で求められるのは「説明」です。会議で決まったことを伝えるのに「部長と課長が同席しました。議題1について、部長と課長の意見は全く異なりました。激しい議論のやりとりがあり、結局部長が折れることとなりました。ところが……」などと話していたら日が暮れてしまうでしょう。
しかし時には物語の形式が望ましいこともあります。最近は「ストーリーテリング」という呼び方で物語を語る能力が注目されていますので、ご存知の方も多いでしょう。例えば過去の成功体験を皆で共有するとしたら、以下のA・Bの2つの文章のうち、どちらが効果的でしょうか?
(A)
成功に必要なのは、部署の壁を越えたコミュニケーションである。我社最大のヒット商品「最強豆腐」は、営業とマーケティング、製造の各部門が密に連携した結果生まれた。(B)
営業担当の林さんは、日頃から現場で感じた疑問をマーケティングの森さんにぶつけてみた。森さんは市場のデータから、林さんの直感が正しいことを理解したが、問題は製造コストだ。二人は悩んだが、製造現場を仕切る平さんの協力により、新製法の開発に成功した。こうして、これまでの常識を破る「最強豆腐」が完成し、過去最高の利益をもたらすこととなった。
長さが違うのでズルイと言われるかもしれませんが、通常ビジネス書などで選ばれる文体は(A)だと思います。「知識を学びたい」という能動的な意思を持っている人々にとっては、(A)の方が良いかもしれません。しかし「忙しいのに資料なんて読んでられっか」という態度の人々にとっては、読み手を惹きつけつつ結論を強く印象付ける(B)のスタイルの方が適切でしょう。つまり状況と読み手によっては、「物語」の能力を駆使することも必要なわけです。
『ゲームシナリオの書き方』はビデオゲームを作るという目的に特化していますが、「シナリオを書く=人々を惹きつける物語を作る」という面で普遍的に使えるノウハウが多く載せられています。筆者の佐々木智広さんは演劇ユニット『Afro13』で脚本と演出を担当されているということで、「ビデオゲーム」という枠組みを超えた視点からの解説があり、なるほどと思わせられる部分が多くありました。本当にゲームのシナリオを書こうとしている人々だけでなく、「ゲームシナリオがプレイヤーの心をつかむテクニックを知りたい」という人々にも参考になる良書だと思います。
ビジネスで「ストーリーテリング」というと、マーケティングやナレッジ・マネジメントの分野から語った書籍/記事が多いと思いますが、ゲームに学ぼうという視点もありなのではないでしょうか。優れたゲームシナリオが押さえている定石は何か、それを上手く「外す」にはどうすれば良いかを知るだけでも、損はないと思いますよ。
< 蛇足 >
ちょっと残念だったのは、様々な事例として実在のゲーム・漫画・映画 etc. が引用されている点。筆者の方と僕の年代がちょうどかぶるので、僕自身は「例えばドラゴンボールでピッコロ大魔王が……」と言われても「ああなるほど」と納得できたのですが、一部の方々にはチンプンカンな箇所もあると思います。また入門編と位置づけているためか、「もっと説明して欲しい!」と思わせる部分が多々ありました。こちらは後書きで「次回はキャラクターに特化したものはどうでしょう?」なんて一言もありましたので、続編に期待というところでしょうか。