「お客様は、我々です。」
ユーザーとベンダー/プロバイダーの境界線があいまいになってきました。コンテンツの世界では、ユーザーが自作の作品を公開できる Flickr や YouTube などが人気です。商品開発の世界でも、先進的なユーザーが生み出すアイデアを元に新商品を創り出そうという「ユーザーイノベーション」の概念が普及しつつあります。分野は違えど、これまで消費する一方だったユーザー達を、生産/提供の側に参加させようという動きが活発になってきたと言えるでしょう。
とここまではニュース的解説ということで、ITmedia 読者の方々には普通の内容だと思います。しかし、消費者と提供者を隔てるカベが低くなってきているのだとしたら、「消費者→提供者」という方向性だけに注目していれば十分なのでしょうか?ユーザーが生産/提供に参加しつつある今だからこそ、「提供者→消費者」という方向性にも注目する必要があるのではないでしょうか。
ここにソフトウェアを開発している会社があるとします。調査により、先進的なユーザーが自社製品を独自にカスタマイズして使っていることが判明しました。仮にそのカスタマイズを標準装備として最新版に取り込むことが可能だとして、以下のような意識があったらどうなるでしょうか?
- お客が望むものは分かった。後は開発させるだけだ。
- 言われたものは完璧に開発してやった。後は販促が頑張るだけだ。
- これがお客が望むものらしい。販促してダメなら企画が読み違えたんだろう。
ここに共通しているのは、当事者意識の欠如です。お客様と自分の会社を別の存在として見ているだけでなく、「開発のしごと」「販促のしごと」など部分最適が優先されています。これでは仮にユーザーの声が聞こえたとしても、なぜそれが必要か、それを必要としているのは誰か、どう売り込めばいいのか、いくらで売ればいいのか、アフターサービスは必要かなどといった点は見えてこないでしょう。
消費者の提供者化に対抗して、自らヘビーユーザーになること。単に自社の製品/サービスを使ってみるだけでなく、他社の競合品/競合サービスを幅広く使ってみること。サンプルをもらったり、社販で買うのではなく、実際にお店に行って買ってみること。商品知識ゼロのフリをして、説明書を読んでみること。買ってすぐ壊れたフリをして、ヘルプデスクに電話してみること -- などなど、「お客という他人のためではなく、自分に与えられた仕事をこなしている」という意識を捨て去るには、様々な行動を試してみる必要があると思います。
かつて「お客様は神様です」と言った歌手がいました。いまでもお客様は大切に接しなければならない存在ですが、現在では「お客様は我々です」という意識が必要なのではないでしょうか。「神」という別格の存在としてへつらうのではなく、同じ視点から考えることを心がけること。それが消費者と提供者の境界線があいまいになる時代に大切なことではないかと思います。