コミュニケーション戦略を考える
外では夏の薫りがする、この頃ですが皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は、『企業のコミュニケーション戦略』についてお話をさせて頂きます。
・あなたの会社ではコミュニケーションがうまく取れていると思いますか?
という質問に対して、皆さまのご回答はいかがでしょうか?
コミュニケーションは、日常生活に溢れ、『コミュニケーションができている』と言えていても、本当にできているかどうか本質まで深く考え、重要視する機会は実はほとんどなく問題が発生してから気付かされるのではないでしょうか。
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人と人とのコミュニケーション(チームワーク・意思決定・リーダーシップ)の不足により発生し得る事態はどんなことがあるでしょうか?
ここでは、航空界における事例を交えてお話していきます。
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1977年3月27日 航空史上最悪のテネリフェ空港ジャンボ機衝突事故により583名が亡くなりました。
当時、上記の悲劇のような一連の大事故に非常に危機感を募らせて、航空会社や行政関係者、研究者らの参加の下、様々な研究発表が行われました。
研究発表によると、航空輸送に関する事故の主な原因は機械の故障によるものではないことが明らかにされました。更にほとんどの墜落事故は乗員が適切な技術的能力を欠いていたことで起きたものでもない事が分かりました。
本質となる原因は、主として人的要因における人と人とのコミュニケーション、協力関係、チームとしての意思決定プロセス、リーダーシップのスキル不足にあったのです。
研究によって明らかになった問題点に対して、こうした認識を持つことや人間関係に関する能力を開発する為のトレーニングプログラムの必要性が痛感されました。
最近では、航空会社で始まったトレーニングプログラムはヒューマンエラーが安全に大きく関りを持つ軍隊・運送業・原子力産業・消防署・医療機関をはじめとする他の分野でもこのような取り組みを取り入れています。
その結果としてデータによると安全性が大幅に改善したと報告している組織が多いとされています。
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ここでひとつ質問ですが、
皆さまは初期のパイロットのイメージをどのようにお持ちでしょうか?
恐らくほとんどの方が、映画やドラマで見るように、独身のイメージで、意志が強く固い、そして白のスカーフをなびかせて、覆いのないコックピットで悪天候の状況下、必死に闘う姿が想像されるのではないでしょうか。
この既成概念として、独立心が強く勇敢で、どんな逆境の中でも冷静でチームワークというより一匹狼でいることを好む人に共通する多くの特性が含まれている事にお気づきかと思います。
実際、ある大手航空会社の能力基準ガイドラインには、「副操縦士は機長の過ちを正してはならない」とはっきりと書かれていました。
これは、機長が大きな権力・身分を持ち、クルーは機長の判断に疑問を示すべきではないと教え込まれていた状況です。
他にも、ある民間航空会社の掲示板の張り紙に、"クルーと機長の関係に関する基本姿勢(2つの規則)"として下記のように記されていました。
第一の規則:機長は常に正しい
第二の規則:第一の規則を見よ
少し、大げさな例を挙げていますが、世代の方はより納得感のある既成概念であるかと思います。
この概念をひっくり返し、認識を変え、人間関係に関する能力を開発する為のトレーニングプログラムによって、その後、飛行機の乗務員の文化と姿勢が変わり始めました。
プログラムの内容については、"個人主義を排除し、チームワークを強調するとともに人と人とのコミュニケーション能力を重視する"として、副操縦士と機長(機関士)は、安全でないと状況判断をした場合、敬意を払いつつも自分の意見を積極的に主張すべきことを教えられます。また機長は他のクルーから意見を求める事、そして飛行前のミーティングでもその旨を述べる事を学んでいました。
非常に優秀と評価されていた機長が飛行前のミーティングで、クルーへ話した内容を紹介します。
「この会社では、能力ではなく、年功で機内の序列を決めていることを理解してください。
ですから、皆さんが役に立つと思ったことはなんでも聞かせてもらえば有難いです。」
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導入による効果はあったのか、探ってみると
1977年3月27日、航空史上最悪のテネリフェ空港ジャンボ機衝突事故で583名が亡くなった事故から2年後の、1980年に人間関係に関する能力開発のトレーニングプログラムを導入しています。
その後1989年07月19日に、ユナイテッド航空232便の不時着事故が発生して際、この事故機の状況からすると、更に多くの犠牲者がでてもおかしくないといった状況下に184人が生存できたことで、航空界を驚かせました。
『人と人とのコミュニケーション』『チームワーク』『意思決定及びリーダーシップ』の不足という問題を解決すべく、導入した人間関係に関する能力を開発する為のトレーニングプログラムによる、成功の事例として立証された出来事とされました。
同時に、このトレーニングプログラムには上下関係に関わらず、機長に対して自由に意見できる文化を育み、認識付けをしています。
この分野における従業員のコミュニケーションスキルを開発すること、そして上下関係に関わらず意見を吸い上げる文化醸成は、どんな組織であってもできないはずはありません。
自社組織における「コミュケーション」の重要性を洗い出し(ワークショップを開催する等)、"コミュニケーション戦略"として、まずは起こりやすいコミュニケーションエラーを従業員へ周知することから始めてみませんか。
皆さまの企業が今後も、永続的に更なる発展を遂げられる事を祈って。
人材開発コンサルティング事業部
齋藤 有早