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企業における同一労働同一賃金の在り方

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人事を取り巻く課題として昨今、注目が集まるテーマの一つに「同一労働同一賃金」があります。

平成28年12月20日の「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下、ガイドライン案)の公表を境目に、弊社においても各企業の経営者・人事担当者の方々から本件に関するお問い合わせを頂戴する機会が増えています。

各企業が同一労働同一賃金の在り方の検討を進めている一方で、ガイドライン案があくまで法的拘束力を持たない性質上、また我が国の賃金決定システムの性格上から、明確な対応策に打って出ることが出来ない実態が多く見受けられます。

そこで本コラムでは、我が国における同一労働同一賃金の成り立ちを俯瞰するとともに、その原点となるEU諸国における同一労働同一賃金の成り立ちをご紹介することで、各企業において同一労働同一賃金の在り方の検討を進めるうえでの一助になればと思います。

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☆そもそも同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは、性別、年齢、人種等の違いに関わりなく、同種・同量の労働に対して、同一額の賃金の支払いを求めるものです(注1)。成り立ちとしては、性別等における差別・格差の是正運動の中で見出された概念であり、人権保障に拠って立つ観点、また、差別を禁止する面と労働者の処遇改善の観点から格差を是正する面の2つの側面を有しています。そのため厳密には、差別禁止と格差是正のどちらに注目するかにより、主な政策対象が異なります。差別禁止に注目するならば基幹的な業務を行う主婦パートタイム労働者、格差是正に注目するならば若年・中年の男性非正規労働者が主な政策対象となります(注2)。

一方で、類似した言葉として、同一価値労働同一賃金という言葉があります。同一価値労働同一賃金とは、仕事の種類・内容が異なる場合でも、その価値を評価して同一と判断されれば、同一の賃金が保障されるべきとの考え方を指します。同一価値労働同一賃金は、例えば、看護士とトラック運転手のように、異なる職種・職務において比較します(注3)。我が国における同一労働同一賃金は、上記2つの意味合いを含有したものと考えられます。

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☆国内における同一労働同一賃金の成り立ち

ここで、我が国における同一労働同一賃金の施策に関して、概観を整理します。

労働者派遣制度の改正について審議した第189回国会にて、派遣労働者をはじめとした非正規雇用の労働者と正規雇用の労働者の待遇格差の是正が課題として掲げられ、平成27年5月6日、民主党、維新の党及び生活の党と山本太郎となかまたちの3党の議員により、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」が提出されました。

この法律案は、派遣労働者について均等待遇のための措置を施行後1年以内に実施する旨が記載されています。その後、各党における協議が行われ、平成28年1月の施政方針演説で同一労働同一賃金が取り上げられたことを受け、一億総活躍国民会議で同一労働同一賃金が議論されました。同会議が平成28年5月に取りまとめた「ニッポン一億総活躍プラン」には、同一労働同一賃金に関する施策が盛り込まれる旨が記載されています。

同プランの策定に先立ち、平成28年3月、政府に有識者検討会が立ち上げられ、検討会においてガイドライン案を策定する方針が定められました。我が国においては、同一労働同一賃金制度は採用されておらず、その法的基盤がある状態ではないことから、政府は平成28年12月20日、ガイドライン案を公表しました。

本コラムをお読みの皆様もご存知のとおり、ガイドライン案には法的効力はなく、当然、事業主に対する法的拘束力がない性質のものです。しかし、ガイドライン案は、策定の過程で労使の主要団体(経団連や連合など)の意見が考慮されており、政府が同一労働同一賃金に関して立法方針を掲げている以上、企業に対して事実上の影響が生じ得るものであり、今後の立法方針を示唆するものと考えられます。

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☆EU諸国における同一労働同一賃金の成り立ち

同一労働同一賃金を理解するうえでは、EU諸国における歴史に立ち返る必要があります。EUの法の源泉には「EU 運営条約」(Treaty on the Functioning of the European Union)などの基本条約があります。労働関係の法令は主にEUレベルの労使交渉を基に制定される指令で定められており、加盟国は定められた内容について国内法制定等の義務を負います。そのため、同一労働同一賃金に関しては、性や人種等の属性による雇用差別の禁止と雇用形態による不利益取扱いの禁止という2 つの面から明確に法令が整備されています。

この法令を源泉として、EUでは、職務(=仕事)の価値によって賃金が決まっており、この賃金決定システムは職務給と呼ばれています。これに対して、我が国の正規雇用の労働者は、勤続年数や職務遂行能力など労働者の属性によって賃金が決定されており、この賃金決定システムは職能給または役割給と呼ばれています。

本コラムをお読みの皆様の多くは、職能・役割に応じた職能給・役割給に馴染みが深く、職務に応じた職務給にはあまり馴染みがないかと推察します。この違いこそが、我が国において、同一労働同一賃金を導入するのは難しい見解となっている点の一つです。つまり、その性格上、職務の種類・レベルを明確に定める職務給に対して、相対的に職務の種類・レベルがあいまいな職能給・役割給のギャップ(どの範囲が当該賃金のベースとなる範囲の仕事であるかという点)が、我が国において同一労働同一賃金を導入する上での課題となっているということになります。

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☆各企業において同一労働同一賃金を検討するうえでの留意点

EU諸国では、同一労働同一賃金を実現するため、均等待遇規定を整備しているほか、近年では男女の賃金格差についての検討を進めているなど我が国ではまだまだ着手しきれていない領域において、様々な取組みを行っています。EU諸国と我が国を比較すると、職務給、職能給・役割給という賃金決定システムだけでなく、雇用機会の均等性や性別による直接差別禁止の在り方などにも差異が見られます。各企業において、同一労働同一賃金の在り方を検討するにあたっては、 これらの違いに留意しつつ、EU諸国の取組を参考にすることが有益であると考えられます。

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注1)塩田庄兵衛編『労働用語辞典』東洋経済新報社, 1972, pp.176-177; 金森久雄ほか編『有斐閣経済辞典 第 5版』有斐閣, 2013, p.912.
注2)濱口桂一郎「格差是正と差別是正の矛盾」『労基旬報』1595 号, 2015.2.25, p.5. 9 森ます美・浅倉むつ子編『同一価値労働同一賃金原則の実施システム―公平な賃金
注3)森ます美・浅倉むつ子編『同一価値労働同一賃金原則の実施システム―公平な賃金の実現に向けて―』有斐閣, 2010, p.ⅰ.



組織開発コンサルティング事業部
吉田侑矢

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