『言葉』は『感情』『行動』を突き動かす
アンチユートピア・ディストピア(=非理想郷)というSF小説ジャンルがあります。このジャンルでは、一つの政党が国を支配したら、というテーマで話が進みます。
この物語でとても興味深いのは、物語に登場する支配政党はどれも、言論統制することです。例えば、「嫌い」という言葉の使用の禁止や辞書からの削除、書物検閲など、徹底的に『言葉』を規制していきます。
ではなぜ『言葉』の規制が必要なのでしょうか。恐らく、『言葉』は『感情』と密接に結び付き、同様に『感情』は『行動』と密接に結びついているからではないかと考えます。
『言葉』が『感情』を呼び起こし、その『感情』が『行動』を喚起するという流れを断ち切るために、本ジャンルに登場する独裁国家は言論統制を敷いたと考えられます。特定の『言葉』を削除・統制することで『感情』を抑制し、国民が『行動』を起こせなくする、という流れから『言葉』『感情』『行動』の密接な結びつきがみえてくるのではないでしょうか。
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『言葉』が人の『感情』を掻き立て『行動』を起こさせた例として去年のアメリカ大統領選をみましょう。
アメリカ大統領選において、ヒラリー氏は高校生レベルの英語で演説をし、トランプ氏は小学校高学年レベルの英語で演説をされたそうです。結果はご存じの通り、トランプ氏が勝ち、大統領になりました。アメリカは多民族国家で全国民が英語を流暢に話すことができるわけではありません。トランプ氏は誰にでも自分の考え・思いが伝わるような『言葉』を選択したと考えられます。その『言葉』は率直で荒々しい部分もありますが、国民が現在感じている『感情』(=不安や不満)』を代弁するようなものでした。この代弁された『感情』に呼応するように国民は『行動(=投票)』を起こし、トランプ氏を大統領にした、という流れがあるように見えます。
トランプ氏は、聴衆が直面している現実を誰もが理解できるシンプルな『言葉』で伝えることで、それが聴衆の『感情』に伝わり、彼が期待する『行動(=投票)』を起こさせた、という『言葉』『感情』『行動』の連鎖がみてとれる例と言えるでしょう。
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『言葉』は『感情』に伝わることで、自分が求めている『行動』を相手に促すことを可能にします。しかし一歩間違えると『言葉』は相手の『感情』を逆なでするため、こちらが予期せぬ『行動』を相手に取らせてしまうことがあります。この様な事は、情報発信を行うメディアと視聴者との間で起こりがちです。最近も、誤解を与えそうな「行き過ぎた表現や短絡的な表記」ということで批判されたテレビ番組がありました。その番組では、シンプルで分かり易い表現をすることが目的で、『言葉』を省略し過ぎたために、情報を受け取る側が誤解する危険性があるという事で、番組で使用した『言葉(=表現)』を訂正していました。
この様に、『言葉』は必ずしも自分が伝えたい意味で聞き手が捉えてくれるわけではありません。その言葉の意味が正しく伝わらなければ、聞き手の中に自分が期待している『感情』や『行動』とは違うものを喚起してしまう危険性をはらんでいます。それもまた『言葉』というものだと考えられます。
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4月から部下や後輩を持ち、教える・伝える機会が増える方もいるのではないでしょうか。皆さんが伝える『言葉』によっては、相手のやる気を引き出し、積極的な『行動』を引き出すことができます。逆に、その『言葉』によって、相手のやる気を削ぎ、積極さを奪ってしまうこともあります。それ程、『言葉』とは影響力のあるものだからこそ、伝える『言葉』を慎重に選択する必要があるのではないでしょうか。
新年度が始まる前に改めて『言葉』の重みを考えてみてはいかがですか。
人材開発コンサルティング事業部
松本 英人