【書評】姫乃たま『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』
「姫乃たま」に初めて会ったのは2011年12月30日、「コスホリック」というイベントだった。混雑した成人エリアではなく、全年齢エリアで「魔法の天使クリィミーマミ」のコスプレをしてCD-R写真集などを販売していた。
販売物のひとつが、援助交際をテーマにしたもので、お金のやりとりをしているカットなどが含まれていた。売買春の現場をイメージしたものを写真集にするという発想が斬新で(参考:姫乃たまのブログ「撮影にゃううううう!」)、それ以来、気になって動向を追っている。本ブログにも、名前だけは2回ほど登場している。
当時、大学生だった彼女は「地下アイドル」でもあった(「地下アイドル」については「セルフサービスと分業」を参照して欲しい)。地下アイドルだから、音楽ライブが活動の主体なのだが、私は彼女の発想や、文章の方に魅力を感じた。彼女の文章は形容詞をほとんど使わない。「うれしい」とか「悲しい」という形容詞は、実はそれほど感情が伝わらない。行動や出来事を書く方が感情がはっきり伝わる。編集者の指導があったのかと尋ねたら「何もない」そうだ。独学だとしたら大したものである。
大学を卒業した現在は、ライブと執筆が半々くらいらしい。コラムを書くアイドルはときどきいるが、毎月何本もの連載を抱える人は少ない。しかも、アダルトビデオのレビュー記事まで書いているとなれば皆無に違いない。何でも、もともと「エロ本」に興味があったそうである。
今回取り上げる書籍「潜行~地下アイドルの人に言えない生活」は、地下アイドル兼コラムニストとしての本領を発揮した1冊である。
潜行~地下アイドルの人に言えない生活
本書は、3部構成になっている。1部「地下アイドルの耳の痛い話」はサブカルチャー系のニュースサイト「おたぽる」に連載された「姫乃たまの耳の痛い話」をベースに加筆・修正したものである。2部「さとり世代の地下アイドルステップアップ論」は、姫乃たまの卒業論文をベースにしている。3部「わたしのアイドル観察記」は音楽サイト「リアルサウンド」に連載された「地下からのアイドル観察記」を加筆・修正したものである。
スキャンダラスな内容が多い1部や3部がしばしば取り上げられるが、アイドル論として本当に面白いのは2部である。卒論をベースにしているだけあって、構成も考察もしっかりしている。「地下アイドルってなんだろう」と思う方は、ぜひ2部から読んでいただきたい。というか、2部だけ読んで欲しい。
さて、肝心の内容だが、どうしてもうまくまとめられなかった。気になるところに付箋を貼ったら写真のようになったのだが、どうも断片的でまとまらない。だらだら書いても面白くないだろうからあきらめた。1つだけエピソードを紹介すると「何よりもファンの悪口が許せない」という下りだった。地下でも地上でもそれは変わらない。ファンの方も、推しているアイドルの悪口だけは許せないという(たとえば「最近の出来レース、不正疑惑、解散商法」)。
地下アイドルの中には、仕事をなめてるとしか思えない人が混じっているのは確かだが、人を思う気持ちは地上も地下も、アイドルもファンも変わらない。そこは見落とさないで欲しい。
▲付箋は全部で12枚あったが、最も構成がしっかりしている2部は2枚だけだった。
(「たま」という名前が猫っぽいので、猫に読ませようとしたが猫に小判だった)
装丁の話
内容の紹介はあきらめて、装丁の話をしよう。
本書は装丁が非常に凝っている。表紙カバーが特殊な折り方になっており、はずして広げるとポスターになるのだ。何でも、1箇所折り返すのは自動でできるらしいが、上下2箇所は機械で対応できず、手作業らしい。一介の地下アイドルの処女作としては破格の対応である。それほど高価な本でもないので、利益が出ているかどうか心配になる。
1月11日(祝)に、書泉ブックタワーで開催された出版記念イベントでは、アイドルらしく「1冊買うとサインと握手」「2冊買うと、さらに私物サイン+写真撮影」という特典が設定されていた。CD同様、出版業界も大変なようである。次回は3冊以上の特典が設定されるかもしれない。
現在の姫乃たまは、無事大学を卒業し、地下アイドル兼ライターである。自称「地下アイドルの隙間産業」というだけあって、メジャーな人とはなかなか共演しない。機会があればライブに行こうと思っているのだが、いつになることやら。