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IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

劇場版&テレビドラマ「神戸在住」

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最初にお詫びから。前回の記事「阪神淡路大震災から20年」では、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災を月曜日としていたが、正しくは火曜日だった。既に本文は訂正と注釈を入れている。当時、1月15日に固定されていた「成人の日」が日曜だったため、1月16日(月)が振替休日となり、1月17日(火)は連休明けだったため勘違いしていたようだ。コメントで指摘していただいた嶺憲一郎様、ありがとうございました。

さて、前回触れたように、コミックス原作の「神戸在住」がテレビドラマと劇場映画になった。テレビ放映はミヤギテレビ(1月22日25:29-26:59)、岩手朝日テレビ(2月7日26:45~28:15)、テレビ埼玉(1月24日19:00~20:30)を除いて終了している。映画は、東京・大阪・神戸・京都で上映されているが、東京は朝1回のみの上映で1月30日(金)まで、その他の地域もあまり長くは上映しないので、見るつもりの方はお早めにどうぞ。最近は、邦画の上映期間はよほどの大作でない限り2週間くらいしかない。困ったことである。

なお、映画とドラマの内容はほとんど変わらない。映画の方が、各エピソードが少し詳しく描かれているくらいである。「視点が違う」と聞いていたが、あまり違いは感じなかった。

「神戸在住」は、「震災を知らない女子大生たちが織りなす、神戸へのオマージュ」というコピー通り、震災を直接扱ったものではない。しかも、震災の被災者は誰も詳しいことを語らない。

主人公の辰木桂(たつきかつら)は東京から越してきたばかりである。「きれいな街ですね」と言うと、神戸の女性はただ「きれいな街ねえ...」「あの辺(高層マンション)に私の家があった」と言うだけである。きれいになったのは、震災で倒壊した家を撤去し、更地にして新しい建物を作ったから、と言いたいのだろうか。

小さな地震にもおびえる女性についても、どんな体験をしたのかは全く語られない。

倒壊した高速道路は再建され、家事で焼けた土地は再開発され、経済は復興したように見えるが、心の傷はなくならない。傷が残っているから多くは語れない。そういう世界が描かれていた。

主人公の女性の友人たちは、大学生になったばかりで震災の直接体験はないが、間接的な経験が語られる。姫路に住んでいたため、親の世代からも話をあまり聞いていないない女性(ちなみにこの女性は、別の要因でPSTDに近い症状が出るのだが、これは映画でのみ語られる)。震災が発端で父親の事業が傾き、家族で夜逃げまでした女性(しかも父親はその後失踪)。震災で知り合った両親から生まれたため「震災なんてなかったらいい」とは言い切れない女性。この3人に、東京から引っ越してきた主人公が加わる。

 

好きなことをする

「神戸在住」のもう1つのテーマは「好きなことをする」である。喫茶店のマスターはオペラ歌手をあきらめた。その理由は「才能がなかったから」と言うが、続けて「結局は根性が足りなかった。本当に好きなら才能がなくても努力で補えるし、やめろと言われても続けられるはず」と自嘲する。ストーリー上、もっとも重要な位置にあるイラストレーターの日和洋次(ひなたようじ)も「好きなことをしたらいい」と言う。実は、日和洋次は絵が下手だったのに、努力して成功した(実際のイラストはタナベサオリ氏)。

日和洋次は、「自分が売れるのは、努力の結果ではなく、不自由な身体(事故で車いす生活をしている)で絵を描くところがマスコミ受けするから」と言うが、それを利用するのは悪いことじゃないと思い始めた。

「神戸在住」の主題歌を歌う宮崎奈穂子さんは、歌手になる夢を諦めきれなかったものの、実は本当になれるとは思っておらず「『これだけやって駄目だったのだから仕方ない』と思えることをしよう」と、自分を納得させるためにオーディションを受け続け、路上ライブを始めたという。あきらめるつもりだったのに、それが好きだから続けてしまい、そのうちに成果が出てしまったということのようだ。

主人公の辰木桂は、とても内気な性格で、入学式のオリエンテーションでは座る席も決められずにうろうろする。知らない人に話しかける時は小さな声で口元を隠してしゃべったため、聾唖者の店員に「大きな声で、口(唇の動き)を見せてしゃべってください」と言われてしまう。傾倒するイラストレーターの個展の案内状を置いて回るのも、本人ではなく友人がやってくれた。歩く格好もどこか控えめで、猫背になりがちである。

ところが、物語の終盤では展示会の案内状を置いてもらうために自分から店を回り、胸を張って歩くようになった。「好きなことをすればいい」と言っても、人間に与えられた時間は有限だし、自分が動かなければ何も動かないことを、つらい経験から学んだのだろう。

劇場映画としては、演出が分かりやすすぎるところもあるが、満足できる作品だった。主人公たちが姓で呼び合うのも自然だった(ふつうの日本人が、初対面の人をファースネームで呼ぶことがあるだろうか?)。何のバイアスもなく(若者はこれを「ふつうに」と表現する)おすすめしたい映画である。


▲「神戸在住」主題歌『あのとき』を歌う宮崎奈穂子さん(4分あたりから)

この主題歌は、ドラマを見終わってから聞くとさまざまなエピソードが含まれていることが分かる。
見た人だけに本当の意味が分かる、うまい歌詞だった。

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