クラウドが仕事を奪う
最近「人工知能が仕事を奪う」という話をよく聞くので、「人工知能が人の仕事を奪う」という記事を書いてみた。この時に書き忘れたのだが、もともと人工知能の研究者は物事を大げさに言う傾向があることだ。割り引いて聞いて欲しい。ただ、実際に人間の仕事に影響が出るのはまだまだ先の話だろう。
現在進行中であるにもかかわらず、そしてITベンダーやエンジニアの多くが注目しているにもかかわらず、マスコミにほとんど登場しないのが「クラウドがIT技術者の仕事を奪う」ということだ。少々専門的な話も登場するがお付き合い願いたい。
●仮想化とサーバーの置き換え
始まりは仮想化だった。サーバーを仮想化すると、物理サーバーの置き換えが非常に簡単になる。仮想化製品の管理ソフトが必要な場合もあるが、概ね以下のような手順で物理サーバーの置き換えが1時間ほどで完了するはずだ。
- 新しい物理マシンを構成し、ネットワークに接続
- 新しい物理マシンをネットワーク起動
- 必要なソフトウェアが自動的にインストールされ、物理マシンが仮想マシンホストとして自動構成される
- 仮想マシン管理ソフトを使って、古い物理マシン(仮想マシンホスト)の仮想マシンを、新しい物理マシンに移動
- 古い物理マシンを停止
サーバーのリプレース作業というのは、難しくはないが手間のかかる作業で、綿密な実行計画を立て、操作マニュアルを作り、万全の体制で臨んだものである。これがマウスの数クリックになった。仮想化が進めば(実際、急速に進んでいる)サーバー移行の仕事は激減するだろう。
クラウドによるサーバーの本質は仮想マシンなので、こうした手軽さはクラウドでも同じである。現時点でも、クラウドベンダーは日々サーバーを増設・交換しており、仮想マシンが稼動している物理マシンは毎日変わっているかもしれない。しかし、そんなことは全く意識する必要はない。
●クラウドとサーバーの新規作成
さらに、Amazon Web Services(AWS)や、Microsoft Azureの仮想サーバー提供サービス(IaaS: Infrastructure as a Service)は、新規のサーバー構成も大幅に簡略化する。
サービス提供ベンダーごとに多少手順は違うが、最小限必要な作業は概ね以下の通りである。
- サーバーOSの種類とバージョンを指定したテンプレート選択
- サーバーのサイズを選択(主にCPUとメモリ)
- 管理者アカウントの構成
- サーバーの設置場所を選択(データセンターの場所など)
複数のサーバーを組み合わせて性能を上げたり障害対策を強化したりする場合はもう少し時間がかかるが、それでも慣れれば5分くらいで終わるだろう。負荷に応じて自動的にサーバー台数を増減させることも簡単にできる。負荷に応じてサーバー台数の増減を行うようなシステムは、昔なら数百万円の案件である。それが、ウィザード風の質問にいくつか答えるだけで5分でできる。
IT業界にとっては残念ながら、ユーザー企業に取っては幸いなことに、ウィザードで5分の作業だけに数百万も払うわけにはいかない。だから、OSのインストールに限定すれば、もはやお金が取れる仕事ではなくなっているのである。
OSの研修は、インストールから始まるのが定番の構成だった。しかし、物理サーバーには工場出荷時にOSがあらかじめ組み込まれているか、あるいはベンダー固有のセットアップツールを使うことが多いため、標準的なインストール手順を学ぶ必要がなくなった。勤務先のが提供する教育サービス(「Windows Server 2012システム管理基礎(前編)」でインストールからはじめているが、こういう教育カリキュラムは少数派になりつつある。
クラウドの場合、テンプレートを選ぶだけで自動的にOSが構成されるので、インストール手順を知る必要はない。ベンダーによっては、データベース等のミドルウェアがあらかじめ組み込まれたテンプレートを提供しているため、アプリケーションのインストールも必要ない。
性能監視や、負荷に応じたサーバー分散も自動化されているため、人間が行う作業はほとんどない。緊急時に電話をするくらいである(それも音声合成により自動化されそうだ)。
あまりにインパクトが大きいので、スクー(Schoo)というWebベースの学習システム(Webキャンパスと呼んでいる)で授業をすることになった。
Microsoft Azure IaaS講座: 5分で作れるサーバーシステム(1限目) ~とにかく仮想マシンを作ってみよう~
7月23日(水)18:30-19:30(予定)、インターネット放送なので世界中のどこからでも参加できる(時差はある)。質問を受付ながら対話的な授業を考えているので、この機会に勉強してみたいと思う方はぜひ参加して欲しい。無料である。