メイカーズ-産業革命の8つの兆候 3Dプリンターでできること
クリス・アンダーソンも自分の目で確かめるために「メイカー」を始めた?
「長年Wired誌の編集長を務めていたクリス・アンダーソンがテクノロジー・ジャーナリズムの世界を離れる。このニュースはアンダーソンは自身が共同ファウンダーである3D Robotics社のCEOをフルタイムで務めることになる。数年前に設立されたこの会社は誰でも簡単に組立てることができるマイクロ無人機の大量生産を目指している。」
「3DプリンターでiPhoneケースができた!」
「TechCrunchでは数週間前にアンダーソンにビデオインタビューを行ない、最新の著書、『メイカーズー21世紀の産業革命が始まる』について話を聞いた。潮流の中でこの会社が重要な役割を果たし得ることを説明した。この中で彼は3D Robotics社について大いに語り、メイカーというハードウェア製造の新しいアンダーソンがメイカーという動きと彼の会社に情熱を燃やしていることは疑いない。」(TechCrunch記事より)
このニュースをみた時点で、毛利クンと3Dプリンター 3DTouchをすでに発注していた。そのきっかけは「安物の3Dプリンターってどんなものだろう?」という単純な理由だった。私は、なぜクリス・アンダーソンはWiredを辞めたのだろうかと考えた。10月末に発売された日本語「メイカーズ」は読んだ。彼は「産業革命が起きる」とは書いていたが、どんなことが起きるかは書いていない。
「きっと、彼自身もわからないんだ。だから、自分でメイカーに飛び込み『産業革命』のまっただ中で、何が起きるかを肌で感じ確かめたいのだ」と思った。
「メイカーズ」を読んでも、「それで産業革命が起きるの?」と思っていたが、クリス・アンダーソンが辞めたと聞いて、本気で何かが起きるのだろうと考え始めた。 ― 関連記事 クリス・アンダーソン Wired誌編集長辞任 ―
では産業革命のどんな兆候が起きているのか?
【兆候1】2012年10月06日 Teenage Engineering
昨年9月28日に毛利クンと3Dプリンターを買うことを決めた。
そのときからメイカーズで起きているニュースは関心を持ってみている。最初に驚いたのは、スウェーデンのTeenage Engineering社のニュースだった。
シンセサイザーの交換パーツは「3Dプリンターでご自由にどうぞ」
「スウェーデンのメーカーTeenageEngineeringは、自社の人気シンセサイザー「OP-1」の交換パーツを、ユーザーが自ら3Dプリントして手に入れられるようにした。3Dプリンターを保有するユーザーが、データファイルをダウンロードして、自分で部品を製造できるようになる。メーカーが通常なら販売する製品のデータファイルを公開した、最先端の試みとして注目を集めている。」(wired 2012-10-06)
Teenage Engineering Wired 記事
この記事を読んだとき、社名からして、オモチャのシンセサイザーのパーツの話だと思った。しかし、調べてみるとTeenage
Engineeringはれっきとした大人向けのシンセサイザーを作っており、パーツが壊れたら、会社のサイトから3Dデータをダウンロードして、部品を自宅の3Dプリンターで作れと推奨しているのである。
私は、大学を卒業して三井金属に就職した。
それから17年間、自動車用ドアロックの設計をしていた。80年代後半から90年代にかけて、ホンダとクライスラーの100%の車は私が設計したドアロックを搭載していた。ドアロックは、プレス品、プラスチック、スプリング、歯車、モーターなど約80部品で構成されている。これらを組み立てて100万個に1個の不良もださないような部品にはどれほどの精度を求められるか知っている。
シンセサイザーといえども、人間が気持ちよく操作できるようにするためには、それなりの精度が要るはずだ。5000万円もするプロが使う3Dプリンターでも、その精度を出すのは難しいかも知れない。
なぜ、TeenageEngineeringは、家庭用の安価な3Dプリンターでできるといっているのか?
「そんなものできるわけがない」と思った。
そこで売っているサービスパーツの形を見てみると、子供が描いたようなシンプルな形をしている。
少なくとも5000万円の3Dプリンターなら問題なく使えるものができそうな形状である。
それでも、安価な3Dプリンターではネジや歯車できないだろうと思った。
サンプルの写真の下に$3.14と値段が書いてある。
パーツとしても売っている。しかし、3Dデータはタダでダウンロードできる。
それを家庭用の3Dプリンターで作れば、補修用パーツは物理的に輸送することなく、スウェーデンから電送で、タダの部品が自宅の机の上に届くのといっているのだ。
これは、Teeage Engineeringが世界で初めて表明したサービスだろう。
私は、今、それができる人が世界にいなくても、その思想は正しいと思った。
まだ「メイカーズ」が出版される前である。
【兆候2】12年12月20日 食器洗い機を買いなおすよりプリンターを
「私は、購入する理由がみつかる前から、何年間もプリンターが欲しかった。
3Dプリンターを買う前から、ホビー向けプリンターの性能的な傾向を調べつくし、Thingiversからプリンターの元が取れる面白い使い方を集めてリストを作ったりしていた。
最初、リストは悲しいぐらいに短かった。栓抜きなどの道具が両手で数えられる程度あったほかは、ほとんどの人が、3Dプリンターの新しい部品を作るために使っていた。
栓抜きや自分自身のスペアパーツを作るためだけに、800から1200ドルもするマシンを買うというのでは、なかなか決心が付かなかったのだが、私には切り札があった。
ウチの食洗機はプラスティック部品が損傷していて、ずっと半分壊れた状態だったのだ。
3Dプリンターがあれば、その部品をプリントできると私は考えていた」(Makezine 2012-12-20)
左の写真で、手に持っているのがオリジナルパーツである。
後ろの歯車の下あたりに組み込んであるのが3Dプリンターでプリントアウトしたパーツであろう。
記事の中では1000ドルほどの機械だと書いてある。
毛利クンのマシンは11月30日に届いていた。だから、この記事を見た時点で、僕たちはは40万円の3Dプリンターで何ができるかが、少しはわかっていた。
わずか20日間の経験だが、10万円の3Dプリンターでこの部品ができるかどうかは疑問だと感じた。
注目すべき点は、Teenage Engineeringは、供給者として「補修パーツは自分で作れ」と言ったことが、ここでは、製品ユーザー側が「補修パーツは自分で作る」といい始めたことである。
【兆候3】2012年12月27日 FORDすべての設計者に3Dプリンターを
「GIGAOMが伝えるところによれば、米フォード・モーターが社内のエンジニア全員にデスクトップ3Dプリンターを配布することを決定したという。
配布されるプリンターはMakerBotのReplicator2という機種。全エンジニアが3Dプリンターを手軽に利用できる環境を用意することにより、いつもPC上で設計しているパーツを実際に手に取れる形で確認できるようにし、さらにデザインのクオリティを上げるのが目的とのこと。」
左から、3DプリンターMakerBotと3DCADプリントアウトされたサンプルを持つ設計者
フォードは3DCAD設計も世界で最初に始めた
フォードが自動車メーカーとして、世界で初めて3D設計を始めたのは、1985年のトーラスからだ。日本自動車メーカーがいっせいに3DCAD設計を始めたのは1995年からである。10年も遅れていた。今回もフォードが真っ先に、3Dプリンター開発を発表した。
前回と同じように、フォードの設計者の3Dプリンター化は、何年か後に、世界の動きとなろう。
設計者2万人に2万台の3Dプリンター
フォードにはおそらく2万人ほどの設計者がいる。フォードが製作したビデオの中では、3Dプリンター MakersBotは1000ドルだそうだ。全員に渡すと言っているが、2万台で20億円である。フォードにしたら、たいした投資ではない。
設計者には2種類ある。まったく無から有を考え出す設計者。前に誰かがやった設計をちょっと変更して新し物を作り出す設計者だ。私は、無から有を考え出す設計者だった。無いモノを想像し、頭の中で想像した物体をクルクル回転させることができる。 ただ、3次元で形状が重なって動くところは、なかなか想像だけでは難しかった。そんなときは粘土で形状を作って、その形状を見て、頭の中の想像を助けた。
ビデオの中でも、設計者が何種類か構想を考えて、数時間でプリントアウトし、確かめるといっている。
そうしたことに使用するのであれば精度や、表面のきれいさは必要ない。形が見えればよいのである。私の経験からしても、それは設計者の構想設計を助け、大いに創造力を発揮でできるだろう。
【兆候4】2013年1月14日 オバマ大統領3Dプリンターを1000の高校に配備
「アメリカのオバマ大統領は、この3Dプリンターを1000の高校に配備する計画を打ち出しました。
最新の技術を身に着けてもらい、新しい時代のものづくりの担い手を増そうというのです。日本でも思い切った支援を検討してはどうでしょう。すでに全国に先駆けて導入した学校では、これまでとは違う新たなものづくりの魅力が若い人たちを捉え始めているようです。」( 時論公論NHK )
時論公論より
日本に高校は5000校ほどある。おおそらくアメリカは1万5000校ほどだろう。15校に1校の割合で配備される。アメリカの高校は義務教育だ。高校で3DCADと3Dプリンターを習い、卒業すればフォードのように、一人1台3Dプリンターを持つ社会が待っている。
何がそこまでさせるのか?ワープロとプリンターが生活に不可欠なように、3DCADと3Dプリンターは、技術者だけの話ではないようだ。
【兆候5】2013年1月23日3Dプリントで自作の携帯ケース:ノキアがデータ提供
「ノキアが同社の携帯電話用ケースをデザインするためのCADデータや、技術仕様に関する情報を提供し始めた。将来的には、更に大胆にモジュラー型でカスタマイズ可能な携帯電話を構想しているという」wired記事
Nokia Lumia 820の専用ケース
CADソフトと3Dプリンタが使える人なら誰でも、独自のケースを作成できる。これで大企業も3Dデータ支給でパーツを自分で作ることを認めている。さらに、モジュラー型でカスタマイズできるようになると、携帯電話の完成製品は生産しなくてもよくなるのか?
今の携帯は、法的にも技術的にもバラせない。しかし、中のモジュールを売ってくれるのなら、筐体(ボディー)も自分で好きなようにデザインできる。最初は外側の上下ケースなどであろう。部品の取り付けや筐体のはめ合わせの基本データがあれば、ユーザーはどんなデザインでもできようになる。
iPhoneはアルミの削り出し加工をしているが、CNCに詳しい人なら、アルミ削りだしでも、自由なデザインを作るだろう。私も、日本の法とAPPLEが許すならiPhoneの外側は自分でデザインしたい。
チタン削りだし プラチナメッキ(コンセプター田中龍氏 FaceBookより)
自分でNCデータ(機械加工用のデータ)を作り、チタンを機械加工で削り出し、プラチナメッキをしている。 これには、日本でもトップレベルの技術が必要だが、もしメーカーがモジュールで部品を売るのであれば、私の友人にとってiPhone本体をアルミ削り出しから、自分の好きなデザインをしたチタン削り出しのボディーに変えることは簡単だろう。
【兆候6】2012年12月8日 毛利クンが作ったiPhone5ケース
12月8日に毛利クンが3DTouchで作ったiPhone5用のケースである。材料はABS。
YouTube: 3Dsystems Bits from Bytes 3D Touch .mov
毛利クンの家に3DTouchが届いて8日目には基本的なセットやテスト造形も終わっていた。
このiPhoneケースのデータはフリーでネットの中にころがっていたものだ。
毛利クンは、まず、最初に3DTouchでどれほどのものができるのか、小手調べに造形してみることにした。毛利クンはその1号ケースを私に送ってくれた。自分のiPhoneにはめてみて驚いた。
ケースはピタリとはまり、ガタがまったくない。
上の写真の説明を読んで、下の写真の隙間とを比べてみて欲しい。
筐体を両サイドのツメではさんで止めるのだが、両サイドのツメと筐体の隙間にA4のコピー用紙が入らないほど寸法が出ている。
さらに手前のケースとツメの隙間はこの一定の距離を開かないと筐体がはいらないのであるが、この隙間も全周一定でできている。
まったくガタがない。私は、昨年12月にiPhpne5に交換したときに買った2000円のケースを捨てて、今でもこの黄色いケースを持って歩いている。
とにかく、買ったものより格段に嬉しいし、各段に愛着がある。
会う人皆に、「これ、3Dプリンターで作ったんですよ」と言う。
「わーあ、すごいですね」って関心を示す人と、「へー」と関心を示さない人と2つの反応がある。
その反応は見ていると、「3Dプリンターでここまできるのか!」タイプと、「別にフツーのケースと何が違うの?」タイプだと感じる。
しかし、どちらも、「デキが悪い」と言う人はいない。
40万円の3Dプリンターで、これほどの精度ができることに、私は大いに驚いた。
安物の3Dプリンターとナメていたが、これは何かが起きると真剣に感じた。
そのうち詳しく述べるが、誰でもがこんなに精度よくフラットな平面やツメがが作れるわけではない。
これなら生産メーカーが、部品データを配信しても家庭用の3Dプリンターでできるものは増えるだろう。
フィンランドのノキアも、スウェーデンのTeenage Engineeringも、北欧は文化が高いのか?
「先天性多発性関節拘縮症(Arthrogryposis)の生まれながらに幾つかの関節の運動が制限される病気の、2才の女の子の腕の活動を補佐して、「したい」を叶えた、3Dプリントされた外骨格(Exoskeleton)。
ブロック遊びがしたかったんです。主な素材となるABSは比較的低価格に出力可能なため、成長に合わせてその時最適な部材を出力できるのも魅力。
この『成長に合わせて』という点、いま気が付きましたが、素晴しい3Dプリントの利点ですね。
筋肉の代わりにゴム輪を使っています。 現在15名の子供たちがトライ中とのこと」
まず、ビデオを見ていただきたい。見ないと未来はわからない。
この子の笑顔を見ると、未来が見える。この笑顔のためなら何でもしたくなる。
この筋肉補助具を設計したのは、デュポン・ホスピタルのホイットニー・サンプルという工学博士だ。彼は自分自身で3Dデータを作り、自分の研究室と思しき部屋の3Dプリンターで部品をプリントアウトしている。いくつも部品を組み合わせて、輪ゴムの力で補助され、女の子の腕は動く。
こんなことは、安価な3Dプリンターが出現するまで起き得なかっただろう。
この形状を見ると1億円するSLS(粉末造形)であれば簡単にできる。
SLSが実用化されたのは、10年ほど前である。
では、なぜいままで、誰もこんないい物を作らなかったのだろう。
昼間はプロとして1億円ほどする3Dプリンターを使って精度の高いプラスチック品の試作を作っている毛利クンと話し合った。
「僕たちも含めて、なぜ誰もこんなに良いモノを作らなかったんだろろうね? これって作ろうと思えば10年前から作れたよね」
「作れましたねぇ」
「じゃあ、なんで作らなかったのだろう?考えつかないような難しい機構でもないしねぇ、なんだろう?」
「”プロは、マニアに敵わない”って言葉知っていますか?」
「知らない」
「プロはどんなにがんばってもマニアには敵わないんですよ。なぜなら、プロは仕事の対価としてお金をもらってこそプロなんです。だから、対価に見合うお金をもらえない仕事はできない。ところが、マニアは違う。
どんなに損しても、どんなに時間がかかっても、やりたきゃ徹底的にできる。
一生かけてもできるんです。
対価をもらうことを生業としているプロにはできることに限界があるんです。
この筋肉補助具もSLSをつかってプロが作れば10年前にできていたでしょう。
でも、1回で300万円くらいしたでしょうね。
30年前だって、機械加工で作ればできました。そのころには500万円くらいしたでしょう」
「350万円の3Dプリンターなら個人で買えます」
「この動画に出ている3Dプリンターは米国ストラタシス社製のディメンションと言う機械です。350万円から500万円位します。この機械であれば、この補助具ができるんですね。
もし、僕がこの機械を持っていたら、ぼくだって、あの子のために、ただで作ってあげますよ。
ぼくが会社で使っている機械は1億円もする会社の機械です。
だから、ぼくの自由には使えないんです。
40万円3Dプリンターなら個人で買えるが・・・。
でも、350万円の機械だって、個人でアウディを買えるひとなら買えますよね。
その機器を買って、儲けようと思わないのであれば、残るのは電気代と樹脂代だけですよね。
なら、この子の補助具を作ってあげるのに・・・、プラスチック代だけで5万円くらいでしょうか?
この子は2才です。どんどん大きくなります、毎年のように新しい補助具を作らなくけらばいけないですね。でも、5万でできるのなら、5万円であの笑顔が戻ってくるのなら、僕が5万円だして毎年作ってあげたいって思います」
「結局、”産業革命”とはそこかもね。対価を求める生産から、感謝や笑顔が報酬となる生産になるのかも知れないね。
じゃあ、350万円の3Dプリンターを、アウディを2人で買う気持ちで、個人で買おう。
毛利クン、今度も半分こにするにしても、バイクじゃなくて、プリウスくらい買う資金を貯めないといけないね。ガンバロー!」
目的は、機械を見せて、「これがビジネスなるか?」という質問だった。
当時は、私は3Dシステムズの代理店をやっていたが、「これはいけるよ」と言ったのを覚えている。
そこで、彼らはワトソン研究所を辞めて本格的に始めたと記憶している。
それから、気にしたこともなかったが、今はもっとも気になる機械だ。
ランチア・デルタ・インテグラーレはWRC(世界ラリー選手権)で、87年から92年までの6年間、連続シリーズチャンピオンになっている。
デルタは普通の4ドアファミリー・カーを4WDにしてターボでパワーを上げて戦闘力を増したクルマだ。日本で有名なスバル・インプレッサやランサー・エボルーションが活躍するのはこのあとである。
ランチア・デルタ・インテグラーレは日本でも人気があった。
当時は1万台が日本に輸入された。今でも3500台ほどが現役で走っている。
その半分の約1500台の面倒を見ているが川崎市にあるストリートライフだ。
ストリートライフの吉野政浩社長とは20年来の友人だ。
吉野さんは、自分自身がプロドライブ社製のスバル・インプレッサでWRCに出場してたWRCドライバーだ。
12月末にクルマのことで吉野さんを訪ねた。
何気なく、「そういえば、僕のiPhoneケースは3Dプリンターで作ったんだよ」と例の黄色のケースを見せた。
「安い3Dプリンターだから、クルマの部品みたいにきれいじゃないけど、なんか作って欲しいものない?何でも作ってあげるよ(毛利クンが)」
吉野さんは僕のケースを見ながら。
「きれいじゃないってどこがですか?」と聞いてきた。
「ほら。積層しているから、縦壁のところが、少しデコボコしてるだろう?」
彼はケースを目の位置まで持ち上げて、光を反射させながら見ていた。
「これ、十分きれいですよ」
「エッ?」思わぬ反応に驚いた。
「これで、きれい?」
「はい」
「じゃあ、何か作るものない?」
吉野さんはピットの奥に入っていき、手に黒いキャップをもって戻ってきた。
もともと設計も悪くて、無理してパッチンと押し込む設計になっているんですが、整備するときに、外そうとすると、逆に無理して外す力がかかるし、いつも太陽にさらせれているから、プラスチックがボロボロになっていて、しょっちゅう割れるんですよね」
「確かにね。20年以上経っているんじゃあ、経年変化で割れるよね。ランチアに頼んだら、サービスパーツがあるんじゃないの?」
「それがね、フィアットの傘下だし、もうラリーやってないから、2年ほど前から頼んでいるけど、返事も来ないですよ」
「なるほどねぇ。こんな小さいプラスチックを10個ほど、日本に送る方も大変だよね。
金型だってもうないかも知れないね。じゃあ、作ってみようか。1個貸して」
といって、毛利クンと「インテ」と呼んでいるプロジェクトが始まった。インテグラーレのインテである。
まず、寸法を測定して3DCADで3Dデータを作らないと3Dプリンターはできない。
でも、私は、導入時に、3D設計は自分ではしないことに決めていた。
中村クンは、3DCADのSOLIDWORKSを使って、2時間ほどで3Dデータを作ってくれた。
その3Dデータを送ると、仕事から帰ってきた毛利クンが、夜中に3Dプリンターでプリントアウトしてくれた。サンプルは、わずか1日でできあがった。
週末にそれを持ってストリートライフに。
吉野さんは、サンプルを見るなり、「オッ、これはイイですねぇ」とニコニコ顔。
で、早速取り付けた。
みんな、ドコドキした。うまく付くかなぁ?
それから1ヶ月かかった。毎週土曜日に、その週に改善したサンプルをストリートライフに持ち込み、集まって、ドコドキ、「また割れた」である。
純正部品よりもパッチン感がよく、まったくガタもない。ピッタリはまった。
このキャップを金型で作ると500万円くらいだろう。
「メイカーズによる産業革命」と書いたもののクリス・アンダーソンも、明確に何が起きているかは現時点ではわからないのだと思う。
彼だけでなく、何が起きるか言い切れる人はいないと思う。
だからこそ、僕たちも自分の目で確かめるためにやっている。
ピーター・ドラッガーは「すでに起こった未来」と書いているが、彼は断片的に起き始めてる現象をつなぎ合わせて、これから起こるはずの未来をそう呼んだのであろう。
私にとって重要なのは、以上のことが、すべて昨年の9月28日以降に起きていることである。
ひとつひとつの兆候を見逃せば、たいしたことではない。
しかし、これだけの短期間で世の中が大きく変わろうとしている兆候が次々と起きていることこそ、すでに未来は起こり始めていることを感じていただきたい。
それにしても、クリス・アンダーソンの小型無人機の会社の名前が「3D Robotics」とはなんだろう?
名前がアヤシイ。