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光造形を日本で初めて導入した山田眞次郎が、3Dプリンターで「産業革命」が起きるか検証する。

「何故、今、3Dプリンターが中野ブロードウェイなのか?」

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サブカルが、いつしかメイン・カルチャーに



 元格闘家の須藤元気が率いるワールド・オーダーの新曲「HAVE A NICE DAY」は、AKB48とアキバのオタ芸を組み合わせた作品です。


YouTube: WORLD ORDER "HAVE A NICE DAY"

新しいカップヌードルのコマーシャルも、ワールド・オーダーとまったく同じオタ芸の動きをしています。

 

https://www.youtube.com/watch?v=jCTaMe66GmA

この2つが同時に起きたのを見て、10年前に、連れて行ってもらったモーニング娘のコンサートを思い出しました。あの時は、会場は異常な盛り上がりで、若者が、光るライトをもって、「ヒュー・ヒューゥ」と飛び上がるのを見て本当に驚きました。しかし、今回の2つのオタ芸は、キレもありカッコいいなって感じました。これを見て、なんとなくアキバを頂点とした「オタク」に対して感じていた「チョットした気持ち悪さ」が、60歳を過ぎた私のような年齢でも、もはや薄れてきているな、アキバはサブカルではないのだなと思ったことがきっかけとなって、このブログを書き始めました。
サブカルチャーは、磨かれてメインカルチャーになる。


新たなサブカルの聖地



 では、現在の新しいサブカルはどこから生まれてくるのか?

4月3日付け日経新聞に、『「迷宮」中野ブロードウェイ、アキバ超えなるか?』と言う記事が出ています。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFB01001_U4A200C1000000/ (日経より引用)


『(中野ブロードウェイは)今やマンガやアニメの関連店舗が終結する「サブカルチャーの殿堂」として知られるようになった。芸術家の村上隆氏も出展して「ポップアートの殿堂」に進化させようという動きもある。
外国人客も増加しており、「クール・ジャパン』を手軽に体験できるスポットとして秋葉原を越える日も近いかも知れない・ ・・・(中略)、一方の秋葉原では、外国人向けの観光案内所に「アニメやコスプレに興味があるのに、どこに行ったら良いのか分かりにくい」との苦情が舞い込むことがあるという。
表通りの外国人向けの免税店には、外国人がたくさん来店しているが、奥まった雑居ビルにある個性的なサブカルにたどりつくのは難しそうだ。

サブカルの街として「小さなアキバ」と見られがちな中野だが、ブロードウェイを中心にしたそのコンパクトさが、かえってアキバにはない魅力につながっているようだ』


パーソナル・3Dプリンターは人々の日常生活を変える技術
 私は、オルタナ・ブログに、3Dプリンターについて何度か書いています。
この2つのオタ芸がきっかけとなり、3Dプリンターはカルチャーとどう関係するのか、人々の生活とどう変えていくのかということを、あらためて考えてみました。

毛利くんと私は、2012年9月に、「東京メイカー」というユニットを結成して、「安価な3Dプリンターが、どのように進化していくのか?」ということを研究し始めました。

2人で“半分こ”というルールで、まずは25万円ずつ出資して、当時50万円のパーソナル3Dプリンターを購入しました。 あれから1年半経った今、東京メイカーは、メーカーがそれぞれ違う5機種の3Dプリンターを持っています。

この1年半、毛利くんは、昼間の勤めから帰ると、毎日8時間以上、3Dプリンターを動かしてモノをプリントアウトしています。すでに500日以上、毎日です。この毎日が大切なのです。使ってみると分かるのですが、まだまだ機械が未熟で、毎日のように何らかの不具合が起きます。
その不具合を、すでに500日以上、毎日体験してきました。
だから、今では、毛利くんが、パーソナル・3Dプリンターで何が起きるかを一番良く知っていると断言できます。

一般的には、パーソナル・3Dプリンターを、昔からある3Dプリンター技術の延長線上にあると考えている人が多いと思いますが、私たちは、基本構造や原理は同じでも、パーソナル・3Dプリンターは、パーソナルの名のとおり、個人が買えるようになったことで、人々の日常生活のスタイルを変える技術が発明されたのだと考えています。
ただ、人々の日常の生活スタイルを、どう変えるかは、私たちも、まだ分かりません。


パーソナル・3Dプリンターに関して、4月13日現在までに分かったこと

 1年半の間、使い続けた経験から、私たちは、パーソナル・3Dプリンターについて、次のようなことが分かりました。

1)パーソナル3Dプリンターの現在の性能について
 60万円以下のパーソナル3Dプリンター市場には、多くのメーカーが参入しています。私たちは、その中の、たった5種類を比較しましたが、たった5機種でも、100対1くらいの性能の差がありました。
もちろん、どの機種でも、簡単なモノはプリントアウトできますが、ちょっと複雑な形状になると、性能の差が顕著に現れてきます。
できる機種と、できない機種が明確に分かれてきます。
また、たとえできたとしても、モノを見ると、その外観のきれいさは、誰が見ても、「こっちの方がいい」と分かるほどの差があります。

冷蔵庫やテレビなど、すでに成熟したジャンルの製品は、どこの機種を買っても、基本性能は満足されていることに、私たちは慣れきっています。しかし、パーソナル・3Dプリンターという、最近出てきたばかりのまったく新しいジャンルでは、その基本的な性能の定義がありません。簡単なモノができれば、どれでも3Dプリンターだと言っていると思えば間違いないと思います。
だから、機種によって、性能の差は1対100ほどもあるのです。
性能は、値段の差に比例はしません。


2)価格について

 現在、Makerbotなど60万円クラスの、パーソナル・3Dプリンターが主流です。昨年の夏に発売されたCUBE(米国製)は、ヤマダ電機でも扱っており、発売当初は16万円ほどしたが、現在では12万円ほどに下がっています。
この2月に発売された、台湾製の「ダビンチ」は、ビッグカメラでも販売されていますが、6万9800円です。今、世の中で発売されているパーソナル3Dプリンターは、7万円から60万円くらいで、機種によって価格差が10倍ほどあると思っていただければ大丈夫です。
 

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 材料のABSやPLAなどの樹脂は、自動車メーカーなど買うと、1kgが600円くらいです。ところが、各3Dプリンター専用のパッケージに入れると、1万円から1万2000円となり、20倍くらい値段が跳ね上がります。

通常の2Dプリンターも1台3万円くらいです。何故、あれほど大きくて複雑な電子機器がそんなに安いのかと不思議ですが、それは、ユーザーが一度プリンターを買うと、トナーと言うインクを消耗するからです。たとえば7色セットのインクを買うと7000円くらいします。したがって、プリンターを入れてしまうと、その後のトナー・ビジネスで儲かる仕組みになっているのです。だから、機械そのもの価格は安く設定してあるのです。

パーソナル3Dプリンターも、2Dプリンターと同じトナー・ビジネスに成長していくと思います。すでに、金宝社のダビンチや3Dシステムズなど、主要なプレーヤーは、樹脂のパッケージにICタグを入れて、メーカー純正の樹脂でしかプリントアウトできないような構造になっています。


3)パーソナル・3Dプリンターの価格と性能は一致していない。

 価格と性能は一致していません。高い機種を買ったからって、よい性能だとは限りせん。逆に、安い機種だから性能が悪いかといったら、そうでもないものもあります。これが、現在のパーソナル・3Dプリンターの実情です。


4)今のパーソナル・3Dプリンターは実用できるか?

 結論は、適切な機種を選べば「実用できます」。
現在、まだ個人で買っている人は少ないと思います。
個人や、企業、学校などが、試しにどれかの機種を選んでパーソナル・3Dプリンター1台買ってみるとします。企業や学校は、工業用の3Dプリンターの性能を知っています。もし、適切な機種を選べなかったとしたら、あまりの性能の差に驚き、「パーソナル・3Dプリンターは、まだ使ええない」との結論となり、すぐに倉庫入りです。

個人にとっては、もっと深刻です。初めて買った機種が、その人にとってはパーソナル・3Dプリンターという機械の性能になります。適切ではない機種を買うと、思ったように動かない。じゃあ、別の機種を、もう一台買ってみようと言う気にはなれないでしょう。
これで、団体も個人も、間違った機種を選択すると、3週間ほどで使わなくなるのです。私たちは、1年半で、5機種も買いました。今では、機械が送られてきたその日に、箱から出して、1回目のプリントをしてみると、使える機種か、使えない機種か分かります。


では、これから3Dプリンターはどんな世界が待っているでしょう?

1)性能
 最新の機種の性能は、1年前に比べて各段に上がっています。これから、1年後には、性能の悪い機種は、その事実を知られてしまい、自然に淘汰されていると思います。ここで言う性能とは、機械としての物理的性能と、ソフトウェアの性能のことを言っています。後発メーカーや、小規模な新規メーカーは、いくら機械的な性能で追いつけても、ソフトウェアの性能で追いつくには、かなり時間がかかると思います。


2)価格
 1年後には、3万円くらいの価格で、十分に使える機種が発売されていると思います。2月に発売されたダビンチは、アメリカで499ドル、日本で6万9800円です。世界第3位のEMS(電子機器受託製造サービス)である台湾の「新金宝」が、中国で生産しています。
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO68539880Z10C14A3X15000/
社長は、新聞で「3年間で100万台売る」といっています。世界第3位の社長は軽々しくそんな発言はしないと思います。3年間同じ機種を販売できるとは思えませんから、毎年進化させるのでしょう。

現在のパーソナル3Dプリンターの構造は、英国のBath大学が提唱したRepRapのFDM方式がほとんどで、各社は基本的には同じ構造です。ほぼ同じ構造なのに、中国製のダビンチが7万円、アメリカ製のMakerbotは52万円です。個人で売っている同じ構造のマシンで、5万円程度のものもありますから、大量生産が始まれば3万円は実現できると思います。あとは、来年までに、需要がそこまでついてくるかだけです。

3)実用できる性能が3万円になると家庭に入る
 現在、米国で何台売れているかは知りませんが、昨年の今頃は、月に2000台ほどだったと聞ききました。おそらく、今の日本では、月200台もいけばいいところではないでしょうか。
先日、カーネギーメロン大学の教授と話しましたが、アメリカも、個人で買っている人はそれほどいないそうです。アメリカでも3Dプリンターを買っているのは、学校や、FabLabのように、マシンを開放しているところが多いそうです。レーザーカッターや、CNCマシン、3Dプリンターなど、いわゆる「メイカーズ」で言っているマシンを設置して、市民が、自由に使えるような場所が、小さい町にまで、どんどんと広がっているそうです。それらの施設は活況で、多くの人が使っているそうです。米国で売れ筋のマシンは、Makerbotの2500ドルクラスだそうです(同じマシンが日本では52万円です)。

 しかし、来年、3万円で実用できるマシンが発売されれば、2Dプリンターの価格に下がったときのように、3Dプリンターも一般家庭に、一気に普及すると思います。


3Dプリンターが、家庭に入るための障壁は?
 確かに、3万円になれば個人で買えるようになります。しかし、私たちは、いくら3Dプリンターが安くなっても、家庭内に入るには2つの問題が起きると予測しています。

 1) 作りたいモノの3Dデータはどうやって作るか?
 2)3Dプリンターで何を作るか?

1)3Dプリンターのデータ作成方法
 今のところ、作りたい3Dデータ作成方法は、①工業用3DCAD、②CG用3Dソフト、③特殊専用ソフト、④3Dスキャナーくらいしかありません。工業用3DCADは、十分使いこなせるようになるには、1ヶ月くらいの専門的訓練が必要です。とても普通の人に、そんな時間は取れません。CGソフトや特殊専用ソフトも同じです。
3Dスキャナーは、光が当たる表面の形状しか取れません。スキャンした形状に何か機構をつけようとすると、スキャンしたデータを、いったん、3DCADかCGソフトに取り込んでから加工するしか手はありません。これには、高度なコンピュータ知識や、3DCADの知識が必要です。

 
結局、何か、自分なりの作りたいモノが頭に浮かんでも、それをプリントアウトするための3Dデータを、家庭で作ろうとすると、現状では、極めて難しいのです。 それを補うために、ネットワークの中には、フリーで3Dデータをダウンロードできるサイトがあります。しかし、所詮、それは他人が作った形状で、自分自身のモノではありません。自分たちで3Dプリントをやってみるとわかりますが、フリーでダウンロードしたデータを作るという行為は、量産品を手にいれるようなもので、すぐに飽きてしまいます。結局、どうしても自分で考えた出した形状を作りたくなるのです。それが、オリジナルだと思います。  
いかにオリジナルなデータを、普通の人がつくれるようになるかという問題は根が深く、今後、3Dプリンターの普及の最大のネックになることは明白です。今、東京メイカーは、その方策をカーネギーメロン大学と一緒に考えていこうとしています。

2)3Dプリンターで何を作るか?
 誰と作るか?
そうして、もう一つ重要なことは、「何を作るか?」ということです。
私は、昨年、1年間かけて、井関利明先生(慶応義塾大学名誉教授)と一緒に、『思考』という本を書きました。

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 その中で、戦後の日本のビジネス・パラダイムを、3つのカーブで示しています。
第1カーブは、戦後の焼け野原から、テレビや、自動車、冷蔵庫などモノが初めて出現したときです。その時点では、消費者と供給者は明確に別れており、供給者が、勝手に「これでいいだろう」と考えた新製品を発売すれば、購買欲旺盛な消費者が、飢えたようにそれを買いました。

第2カーブは、1985年くらいから始まります。POSシステムなどで、どのような消費者が、何を欲しがっているかを、供給者が少し見えるようになりました、少しずつ、供給者は消費者に合わせた製品を開発するようになりました。

第3カーブは2000年以降です。もはや、モノは市場に溢れ、贅沢品を除き、必要なモノは、すべて満たされた時代になっています。買うものは生活必需品のみで、欲しいと思うモノはなくなってきています。ネットワークで瞬時に情報は共有され、新製品もアッという間に飽きられてしまう時代です。第3カーブは、もはや消費者はいません。いるのは、冷静に買うものを厳しく選ベル目を持った生活者です。そんな時代に、供給サイドだけで「消費者は何が欲しいのか?」などと考えても、消費者はいないのですから、生活者が欲しい製品は考え出せない時代なのです。
これからは、需要サイドと供給サイドが一体となって交わることで、新しい価値の発想と製品・サービスの発想が生まれます。

私たち東京メイカーは、3DCAD技術も、3Dプリンター技術も、日本で最も知っているグループだと思っています。
そこで、湧いてきたのが、3Dデータはどうやって作るのか?それを使って、何が欲しいのか?との二つの疑問でした。それは、ちょうど、「思考」の最終原稿を書いている時期でした。 家庭に3Dプリンターが入るとしたら、「何が欲しいのか?」。その主語は、生活者です。
 私たちは、3DCAD(1983年頃)や3Dプリンターが始まった1990年頃から、第一線でその技術を使ってきたプロフェッショナルです。消費者のいない第3カーブにおいて、第1カーブからの長年プロフェッショナルな供給者として暮らしてきた私たちだけの独りよがり、生活者は何が欲しいかと考えても答えは出ないと思いました。

 じゃあ、誰と一体に交われば、新しい価値や製品・サービスが生まれるだろうと、考えました。私たちの結論は、それを一緒に考えるには、日本の最先端の文化を作り出していくような敏感な生活者たちが集まってくる中野ブロードウェイが最高の「場」だと考えたのです。


“「あッ!3Dプリンター屋だッ!!」東京メイカー×ストーンスープ”ってお店

 そこで、昨年の8月から、中野ブロードウェイに下見に行き、空き店舗が出えるのを待っていました。昨年末に、地下1階の魚屋さんの店舗が空いたので、即、契約しました。中野ブロードウェイのメインは2階3階です。地下1階は、食料品売り場が大半です。地下は、3Dプリンターを置く場所としては不向きです。

しかし、昨年8月の時点で、世界第3位のEMSである金宝社が、500ドルを切るマシンを発売することが報道されていましたので、私たちは、家庭にパーソナル・3Dプリンターが入る日は、一段と早くんると焦っていました。( http://www.ys-consulting.com.tw/news/45562.html )
1日でも早く、「生活者は何を欲しいのか?」を知りたくて、今年2月3日に、地下1階の元魚屋さんがあった場所に、“「あッ!3Dプリンター屋だ!!」 東京メイカー×ストーンスープ“という長い名前のお店を出したのです。

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お店には、保有していた5機種のパーソナル・3Dプリンターと、自分たちで考えたi Phoneケース(3000円)と、フリスク・ケース、ミンティア・ケース(各1000円)の3種類の商品(写真下)を並べてみました。

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 開店してからの2ヶ月間で分かったことは、ほとんどの人が、テレビなどで「パーソナル3Dプリンター」のことを知ってはいますが、本物が動いているのを見たことがある人は、皆無に近いことです。だから、毎日のように、お客さまは、「あッ!3Dプリンターだッ!!」と、お店の名前どおりの歓声をあげて入ってこられます。



日本で最も敏感な生活者と一緒に「何を作るか」を創りだす

 パーソナル・3Dプリンターは、この世に発売されたばかりの電子レンジと同じようなものです。電子レンジが初めて発売されたとき、まだ動くところを見たことのがない人に、「あなたなら、電子レンジでどんな料理を作りますか?」と聞いているのと同じでした。
3Dプリンターがどんなものか見たこともないのに、「3Dプリンターで何を作りたいですか?どんなサービスが生まれるとおもいますか?」と聞かれても、なんのイマジネーションも湧かないと思います。私たちも含めて、誰も、何が生まれるのかの答えは持っていません。
だから、これから、生活者であるお客様に、動いている3Dプリンターを見ていただき、試しに作っていただき、まず、パーソナル・3Dプリンターとは何かを知っていただくことが大切だと思っています。その後、お互いに、一緒になって、「何を作ると互いにオモシロいのか」を試していくしか、新しい生活スタイルを創りだす方法はないと思いました。この、「互いにオモシロい」ということも、一つの重要なカギだと思っています。出店している私たちもオモシロくないと、こんなことは続かないと思います。


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お客様と供給者という関係ではなく、「何かオモシロいことを一緒に考えだそうヨ」という仲間の関係で考え出せたらいいな、と思っています。


中野はオリジナルが好き
 2月に始めたばかりですが、3月の1ヶ月間の売上を見ると、こちらが用意した3種類ケースの売上は全体の25%でした。残りの75%は、お客様が持ち込まれる、オリジナルなアイデアや、2次元のデータや、3Dデータをプリントアウトすることでした。いわゆる、その人だけの一点ものです。自分で作ったキャラクターであったり、自分たちだけのロゴマークであったり、さまざまです。
プリントアウトされてできあがったモノを取りに来られたときは、どなたも、こちらが驚くほど喜ばれます。

オリジナルなデータを
プリントアウトするのは1時間980円です。実はこれは破格です。この値段では、誰も儲からないと思います。とにかく、3Dプリンターを、少しでも多くの人に使ってみてもらって意見を伺うことが、私たちの目的です。

まずは、キーホルダーから
 パーソナル・3Dプリンターという新しい世界は、どうも「こちらが考えたモノを生産することで、対価をもらう」という、これまでの「ものづくり」の常識的なフィールドとは、ちょっと違うところにあるように感じています。
 皆さん、自分だけのオリジナルなものには、お金を出す・・・。

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 これは、サッカーが大好きな方から依頼されたキーホルダーです。「鞠中毒」と書いてあります。サッカー中毒のことだそうです。今年、ワールドカップが開催されるブラジル・カラーにちなんで、緑と黄色で作られました。4月に全国からメンバーが集まるので、皆さんにプレゼントするために、同じものを10個作られました。そのお金は、個人が出されました。世界に10個。メンバーだけが持っているオリジナルです。

アップルが量産を否定した
 アメリカではiPhoneにケースをしている人はほとんどいないそうです。そのまま、薄くてカッコいいデザインが好きなのでしょう。
日本では、ほとんどの人が、iPhoneにケースをしています。落としたときの保護もあるでしょうが、日本人は、iPhoneのカッコいいデザインを隠して、自分なりのオリジナルなiPhoneにしたいのではないかと思います。
何故、カッコいい、iPhoneのデザインを隠したがるのでしょうか。

 iPhoneの筐体(きれいなアルミの外側)は切削加工で生産されています。だから、あれだけの綺麗さと精度が保てるのです。アップル以外の、スマホの筐体は、全て金型を使って大量生産されています。
アップルがiPhone4で、金型生産から、一気に切削加工に切り替えることができたのは、技術の進化だけではなく、アップルが生産設備を持っていないかったことが大きいと思います。

アップルの製品は、大半が中国のEMSで生産されています。委託生産ですから、生産設備は、当然、EMSが資本を出して買ったものです。アップルは生産設備にはまったく自己資本を出していないのです。自らが生産設備を持っていないから、ある日突然、生産は切削加工に切り替えると宣言できるのです。それでも、アップルの製品を作り続けたいと思うEMSは、もはや使わなくなる金型生産設備や、プラスチック成型設備を保有しているにも関わらず、アップルが切削加工に切り替えると言った瞬間に、自らの資本で大量の工作機械を買って、新しいiPhoneを生産を準備する必要があるのです。

対照的に、サムソンは金型部門も生産部門も、内部に持っています。まだ償却が終わっていない生産設備と、そこで働く大量な人員を内部に抱えています。だから、サムソンは、アップルのように、突然、切削加工に切り替えた製品は発売できないのです。したがって、相変わらず、昔ながらの金型で大量生産をしているのです。金型で同じものを大量生産するサムソン。機械加工で1個ずつ切削加工をして究極の大量生産をするアップル。




 しかし、私は、アップルはやりすぎたと思っています。金型で生産すると、タイ焼きのように同じ形状のモノしか生産できません。それが、T型フォードから始まった大量生産の概念です。しかし、アップルのように1個ずつ切削加工で生産できると言うことは、1個1個の筐体の形を少しくらい変えても、加工時間をほとんど変えることなく生産できることを意味します。加工時間が変わらなければ、コストもほとんど変わりません。アップルは、量産を切削加工に切り替えたことで、実は、iPhoneの形を少しずつ変えても、生産することが可能になることを示したのです。1個1個違った形の、あなただけのiPhoneを量産することが実現できる時代が来ていることを、生活者に、暗に知らせてしまったのです。


 そこまでいっても、アップルは、切削加工で“同じ形状のiPhone”を量産し続けています。アップルのPC、MACも切削加工で量産されています。MAC Airなどすごくカッコいい、もはや究極の形をしていると思います。
しかし、目の肥えたユーザーは、いくらカッコよくても、他の人も同じ、カッコいいモノを持っていることを嫌います。日本のユーザーの中には、最近、MACにシールを貼っている人を多く見かけます。まるで、MACのカッコいいデザインを、あえて汚すかのように、大してカッコよくないシールを貼って、自分らしさを出しています。

このような傾向を見ていると、私は、アップルが、切削加工で究極の量産を始めたことは、大量生産の終末を意味していると思えてなりません。世界で最も目の肥えた日本人ユーザーは、アップルの製品を見て、もう大量生産されたモノは欲しくないと、敏感に感じ始めたのだと思います。その思いが、iPhoneケースや、MACへのシールに最初に現れきたのだと思います。




結局、カッコよくなくてもオリジナル1点ものが好き
 これは、私のiPhoneです。東京メーカーの毛利君に、3Dプリンターで、表も裏も全て隠してしまうフル・カバーのケースを作ってもらいました。

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 アップルのデザインが出ているのは、液晶画面とボタンと、カメラ、マイク、スピーカーなど外部とのインターフェースが必要な機能の部分だけです。アップルの究極のデザインを否定するために、単に真四角にして、角を尖らせただけのシンプルなデザインにしました。これを中野ブロードウェイで見せると、すぐに売ってくれと言われます。工業デザインの美しさは重要だと思います。しかし、贅沢品ではなく、安くて、しかも身近で、自分のパーソナリティーを表現するモノは、工業デザインの美しさより、自分のオリジナリティを出したいと思うのではないでしょうか。
3Dプリンターの助けを借りて、自分の好きなデザインなりモノを作ることがでいます。それが、あまりカッコよくなくても、その人にとっては十分カッコイイのだと思います。

「忍ペンまん丸」
 これは、「忍ペンまん丸」と言うキャラクターだそうです。

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 建築学科の女子大生の方が、幼稚園の頃に流行ったキャラクターだそうですが、今では、グッズを売っていないので、自分でノートの表紙に絵を描いたそうです。その絵をスキャンして、3Dデータを造り、iPhoneケースの中に埋め込んで、青と黒の2色で3Dプリントしたものです。これから、自分で、鼻の黄色や、鉢巻の赤色をペイントして仕上げるそうです。世界に唯一、自分だけのオリジナルです。彼女にとっては、何をも代えがたいiPhoneケースです。最高の笑顔で持って帰られました。


VW BUS
これは、VWのBUSと言う、古いワンボックスのクルマのカギの裏表です。

 

 クルマ・マニアのお客様ですが、お子さんが生まれたので、「大き目のクルマを買わなきゃいけない」ということになったそうです。そこで、1970年に生産されたVWのBUSを買って帰ってそうです。奥様、「なに、この古い車は」と怒られたそうです。
「イヤァ~、言われたとおり、大きめで、荷物が積めて、ワンボックスで、200万円以下という条件は全て満たしているんだけどぉ・・・」

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 BUSはかなり古い車です。もらったキーは金属むき出しのスペアキーしかなかったそうです。「何か、特別なキーにしてくれないかと」と相談にこられたのです。それで、東京メイカーが、デザインをして、データを作って、プリントアウトしたのが、上のキーです。表にVWのマーク、裏にはBUSと書かれています。世界に一つのキーです。

 

キーを作っている1週間ほどの間に、オレンジのストラップを買ったそうです。そこで、黒をオレンジに変えて欲しいと、もう一個、スペアキーを持ってこられました。「じゃあ、VWの文字の色は何にしましょう?」と会話は弾みます。


「きもクロZ」
 
 これは、「きもクロZ」というグループがテレビに出てから、1週間もしないうちの、自分でデータを作って持ってこられて、東京メイカーでプリントしたモノです。

 

 最初は、一瞬、「先端の人たちを求めて中野に来たが、これを作るのかぁ・・・」とも思いました。
しかし、プリントアウトしてから、お客様が取りにこられるまでショーウィンドに飾っていたら、それを見た人の中には、「オッ!きもクロがもうあるよ!! 早いぃ」って、通り過ぎる人が時々います。「なるほどな、これをスゴイッ!」って言えないようでは、ここの人たちの仲間として話はできないんだなと思い直し、今では、それらを全て認められるよう心がけています。

パーソナル・3Dプリンターが引き起こすイノベーション
 『思考』にも書きましたが、イノベーションとは技術革新のことではありません。生活革新、すなわち、生活のスタイルに変革を起こすことです。ウォークマンも、以前から確立されていたテープレコーダーの技術を使って、単に小型化しただけでした。しかし、個人が音楽を持ち歩けるようにしたことで、生活スタイルが変わったことがイノベーションでした。

その意味では、3Dプリンターも、技術的には30年も前からありました。しかし、それらは数千万円もしていて、工場の中だけで使われていた機械でした。ところが、2009年に基本特許が切れて、家庭に入るほど小型化されました。そうして、ジェネリック薬品のように、1/500ほど価格は下がり、7万円クラスの機械まで発売されました。サイズも、価格も、個人が、自宅でも所有できるようなパーソナルになったことが、個人の生活革新、すなわち本当の意味でのイノベーションを、これから起こすのだと思います。

生活の革新は、ほんの少しですが起き始めています。 お客様から「あッ!3Dプリンター屋だッ!!」に、1枚の歯が欠けた歯車が送られてきました。

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 温水洗浄便座のノズルを出し入れする歯車が一か所折れて、電動ノズルが動かなくなったそうです。メーカーに連絡すると、一式セット交換と言われ、修理に数万円かかると言われたそうです。たった1枚の歯車が欠けただけなのにです。
 お客様から、3Dプリンターでこの歯車を作ってくれないかと頼まれました。でも、私たちは、歯車を作ったことはありませんでした。「やってみましょう。できなければ御代要りません」と引き受けました。
まず、共同出店しているストーンスープの浦元社長に歯車を送りました。浦元社長は、アイフォンで歯車の写真を撮り、3DCADで歯形をトレースしました。歯数を数え、ノギスで外径などを測定して、送られてきた歯車に似せた3Dデータを作りました。

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 浦元社長は、「所詮、インボリュート曲線で描いても、3Dプリンターでは、その精度はトレースできないでしょう。だったら、写真で撮った歯形くらいの精度で十分だと思いました」と言っています。
東京メイカーの毛利くんが、3Dプリンターで歯車を造形しました。下の写真の、左の青い方が3Dプリンター製です。写真でも分かりますが、浦元社長に言ったとおり、ちょっと歯形は綺麗じゃないかもしれません。

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歯車は2つ作りました。一つは綺麗に磨き、もう一つは3Dプリントしたままの歯車を、お客さまに送りました。 お客さまに確認していただいたら、どちらも、音も静かで、スムースに動いたそうです。

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 歯車の樹脂の原価は50円もしません。歯形の精度が合っていないから、歯車がまた欠けるかもしれません。そうすれば、またすぐプリントアウトすればいいと思っていました。しかし、3週間経っても連絡がありません。まだ、動いているのでしょう。仮に1ヶ月でまた欠けるとしても、毎月作れば、1年で600円です。数万円でセット交換をするよりも、7万円で3Dプリンターを買った方が良いと思いませんか。来年になれば、3万円になるでしょう。各家庭にミシンがあるように、3Dプリンターも一家に一台の時代が来ると思いませんか?


中野ブロードウェイから3Dプリンターの生活革新を生む
 今の若者は、クルマもテレビも持たない人が増えて聞いています。確かに給与は増えていないので購買意欲もないのでしょうが、それ以上に量産のモノというジャンルの中に、欲しくなるようなモノが本当に少ないのだと思います。

中野にいると、3Dプリンターで作った自分だけのオリジナルなモノには、お金を出す人が出てきています。

 かつては、10日間も泊り込みでお店の前に行列を作って、「まだ誰も持っていない量産品を、誰よりも先に手に入れる」ことに価値がありました。3週間もすると、周りの誰もが持っているのにも関わらず、誰よりも早く、一番に欲しかったのです。
しかし、ここで示したのはごく一部の例ですが、中野ブロードウェイに来る人たちを見ていると、『誰も持っていないモノ』、『誰も持てないモノ』、『人が喜んでくれるモノ』、『人が笑ってくれるもの』を、誰よりも早くに、価値が移ってきているように感じています。

 2月にお店を始めて以来、製品を買ってくれたお客様の性別・年齢・職業、それに加えて、「何を」、「何のために作りたかった」を、すべて記録しています。今後、これらのデータを基に、「3Dプリンターが社会に与える影響」を、大学と協働で研究していこうとしています。そうすることで、まず、サブカルとして現れてくる、生活革新の傾向はわかってくると思います。それは、やがてメイン・カルチャーへと成長していくと思います。

中野ブロードウェイには、日本の最先端の文化を作り出していくような敏感な人たちが来ます。
パーソナル・3Dプリンターを使って、中野ブロードウェイから、どんなカルチャーを生み出してくれるか、それを世界に発信できればと、私たちも、楽しく参加させていただいています。

 東京メイカーでは、6万9800円-ダビンチ発売記念として、ダビンチに限り、3Dプリンター1時間、ワンコイン(500円)にしました。東京メイカーが、お金をいただくということは、ダビンチは使えるということです。大いに使っていただいて、何ができるかを考えていただければとの思いです。

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 その500円の、第一号のお客様は、中野にもキャンパスがある明治大学の学生さんでした。鉄道マニアで、フリーの3次元CADを使って自分で作った精度の高い電車のデータを持ち込んでこられました。ダビンチでプリントアウトした車両は。ピッタリとベースにはまって、こんなに嬉しそうです。松浦鉄道 MR600型と言う車両だそうで、まだメーカーから鉄道模型は発売されてないそうです。3時間で1500円いただきました。電車のマイナー・チェンジで窓の数が変わっただけでも、誰よりも早く、その模型を作りたくなるそうです。次の時代が来ていると感じます。


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