企業ITの都市計画的デザイン ~ 東京都の道路状況って、どれくらい良いの?悪いの?
先週(2015/12/18(金))、「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)(案)」が、東京都都市整備局より発表されました。東京都の主要道路の新たな整備方針の案で、来年2月まで意見を募集するそうです。道路の整備には、交通の便が良くなるという合理的な側面だけでなく、道路沿線に住む人に影響(場合によっては立ち退き)があるという難しい側面もありますから、様々な意見を含めながら慎重に策定されていくのだと思います。
上記の整備方針を読みながら、そもそも東京都の道路状況って、どれくらい良いの?悪いの?と気になりました。なんとなく悪そうな気はしていましたけど。そうしていたら、整備方針の中に興味深い図を見つけたので引用します。
上記は「世界の主要都市の1時間アクセス圏」という比較図で、定量的な分析結果なので納得感を持ってしまいました。パリ・ロンドン・ニューヨーク・ベルリンといった世界の主要都市と比較して、東京の1時間アクセス圏の面積は半分くらいしかないそうです。Google経路から定量的に算出するという発想も新鮮でした。東京のアクセス圏が狭いのは海に面しているからでは?とも思いますが、こういう定量的な比較を見ていたら、東京は移動する効率の悪い都市なのだなと改めて感じました。
さて、こういった都市計画に私は興味を持っているのですが、それは「企業ITの都市計画的デザイン」という分野を研究しているためです。都市を構成する施設や建物を企業内の個々の情報システムに例えて、往来する人を情報システム間で行き来するデータに例えたとき、都市計画に相当するもの ― 企業ITの全体像のデザイン(エンタープライズ・アーキテクチャともいわれる)を普段は考えています。企業ITの全体像をデザインする手法を「企業ITの都市計画的デザイン」と呼んでいます。
このデザイン手法を使うと、企業内の情報システム間のデータ流通の状況って、どれくらい良いの?悪いの?を見ることができます。都市内で自動車が移動できる範囲を定量的に可視化するのと同じように、企業内で情報システム間をデータが移動できる範囲も定量的に可視化することができます。やることは簡単です。
複数段階でのバッチ連携が組まれている場合、データがいつどこまで到達するかが分かりづらくなることがありますので、上図のように整理します。このような複数段階でのバッチ連携は全業種で見られるものではありませんが、製造業・物流業・通信業といった企業内のバリューチェインが長い業態に見られる情報システムの特徴です。
データが移動する時間を定量化したことで、初めて見えてくる感想もあると思います。例えば、図の上段の例1では3段階のバッチ処理が動いていて、AシステムのデータがCシステムに到達するまでに最短30分、最長11時間30分を要しています。ここで、図の下段の例2のように最長36時間と1日(24時間)を超えているものが見つかると、現場でも「え?そんなデータ連携があるの?」なんて驚かれることもあります。実際の企業の情報システムの連携がメッシュのように張り巡らされていますし、最短時間と最長時間といった複雑な要素もありますから、意外と正確に把握されていないことが多い数値です。ですから、定量化してみると何かしらの発見があります。
東京都都市整備局に都市計画道路を整備するミッションがあるように、企業の情報システム部門にはデータ連携を整備してデータの流通を促進させるミッションがあるべきだと思います。ただ、そのデータ連携を整備する前に、まずは現状のどれくらい良いの?悪いの?を定量的に可視化できると、社内で納得感を得やすいと思います。そんなお役に立てられればと思って、今日の可視化手法を紹介しました。
【参考文献】
図「世界の主要都市の1時間アクセス圏」の出展
(1) 比較図は第1章のp.12にあります。
出展:東京都都市整備局ホームページ「出展東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画)(案)」(http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/kiban/tokyo/pdf/iken_03.pdf)より
(2) 孫引きになってしまうので、国土交通省のページも付しておきます。同じ図です。
出典:国土交通省ホームページ「今後の高速道路のあり方中間とりまとめ」(高速道路のあり方検討有識者委員会)(http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/hw_arikata/chu_matome2/02.pdf)より