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投資は世界水準、成果は世界最下位級----「Pulse of Change」とマーサーGTT2026が突きつける、日本のAI組織ギャップ

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「AIによって生産性が向上した」と回答した日本の従業員は57%。世界平均は81%。

アクセンチュアが2026年8月19日に発表した最新調査「Pulse of Change」のこの一行に、日本企業のAI活用が抱える課題が凝縮されている。しかも、これは投資意欲の話ではない。日本企業のAI投資意欲は、世界とほぼ変わらない水準にある。それでも成果と実感は、世界に大きく後れを取っている。

同じタイミングで、マーサーの「グローバル人材動向調査2026(Global Talent Trends 2026)」も、酷似した構図をグローバル規模で示している。本稿では、両調査を重ねて読み解きながら、なぜこのギャップが生まれるのか、そしてIT投資と人事投資をどう接続すべきかを考えてみたい。

▼ 参考記事
「AIで生産性向上」日本の従業員は57%、世界平均は81% 仕事の満足度でも大差──アクセンチュア調査(ITmedia AI+)

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■ 調査の概要

アクセンチュアの調査は、20カ国・19業種の経営層3,000人と従業員3,000人を対象に、2026年4月から6月にかけて実施された。日本ではそれぞれ100人から回答を得ている。

投資意欲、成果実感、従業員の満足度という複数の軸で、日本と世界の差が測定されている点が特徴だ。単に「AIを導入しているか」ではなく、「その結果、何が起きているか」を問うている。

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■ 投資は世界水準。しかし成果は、大きく劣る

まず、経営層の視点から見た数字を整理したい。

「今後12カ月でAIへの投資を拡大する」と回答した日本の経営層は78%。グローバル平均(82%)と、ほぼ遜色ない水準にある。

しかし、その先の数字が対照的だ。AI活用によって全社的かつ持続的なビジネス成果を「すでに実現できている」と回答した日本の経営層は、わずか13%。グローバル平均(23%)を大きく下回る。

さらに、AI関連の取り組みが経営会議に報告できるレベルの定量的成果を生み出すことに「十分または高い自信がある」と回答した経営層も48%で、グローバル平均(55%)に届いていない。

つまり、日本の経営層の構図はこうだ。投資する意欲は世界並みにある。しかし、その投資が経営会議で語れるレベルの成果を生んでいるという確信を、半数以上が持てていない。そして実際に、全社的な成果を実現できていると言い切れる経営層は、10人に1〜2人にすぎない。

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■ 現場の実感は、さらに厳しい

従業員側の数字は、経営層以上に厳しい。

「AIによって生産性が向上した」と回答した日本の従業員は57%。グローバル平均81%との差は、実に24ポイントに及ぶ。

AIツール導入後に「仕事の満足度が高まった」という回答は48%。グローバル平均(71%)との差は23ポイント。

そして、「AIを使っても生産性に特に変化はない」と回答した日本の従業員は37%。実に3人に1人以上が、AIの効果を実感できていない。

もう一つ、見過ごせないデータがある。自身のスキル習得について「企業によるリスキリングには頼れず、自力で行う必要がある」と考える日本の従業員は50%。グローバル平均(45%)を上回っている。

この数字は重い。世界の従業員よりも、日本の従業員のほうが「会社は自分のスキルアップを支援してくれない」と感じている、ということだ。AI活用が進む局面で、企業からのサポートを最も必要としているはずの時期に、である。

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■ マーサーGTT2026が示す、同じ構図

このアクセンチュア調査とほぼ同時期に実施されたマーサーの「グローバル人材動向調査2026」も、驚くほど似た構図を映し出している。

この調査は2025年9月から10月にかけて実施され、世界16地域・16業界の経営幹部・HRリーダー・投資家・従業員、約12,000人(従業員9,250人、HRリーダー1,650人、経営幹部825人、投資家100人)から回答を得た大規模なものだ。日本からも650人(人事リーダー100人、経営幹部50人、従業員500人)が参加している。

この調査で明らかになったのは、経営幹部の98%が、今後2年間で組織設計の変更を計画しているという事実だ。ほぼ全ての企業が、組織を変えなければならないと認識している。

しかし、その先に大きな落差がある。AIが将来の働き方に果たす役割は否定できないとしながらも、「自社が進化するAI能力に対応できる体制を整えている」と感じている経営幹部は、わずか54%にとどまる。組織を変える必要性は98%が認識していながら、実際に対応できているという自信を持つのは半数強しかいない。

この「認識」と「準備」のギャップは、アクセンチュア調査が示した「投資意欲(78%)」と「成果実感(13%)」のギャップと、構造的に同じものだ。両調査は、異なる調査主体、異なる設問、異なる対象者でありながら、同じ一点----AIへの向き合い方において、意図と実装の間に深い溝があること----を指し示している。

さらにマーサーの調査は、この状況が生まれる背景として、経営幹部の将来展望が悪化していることも指摘している。57%の経営幹部が今後10年間で荒れた、あるいは激動の展望を予想しており、誤情報などの新たなリスクが不安定なリスク環境に複雑さを加えているという。また、81%の経営幹部が、自組織のリーダーが長期戦略と短期業務ニーズの両立に苦戦していると認めている。

つまり、経営環境そのものの不確実性が高まる中で、AIという変数への対応を迫られている。これが、投資はするが実装は追いつかないという構図の、より大きな背景にあるのだろう。

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■ なぜ、日本はより深刻なのか

アクセンチュア調査に話を戻すと、日本のギャップはグローバル平均よりもさらに深い。同社の別の分析(グローバル版Pulse of Change)では、全社規模で持続的なAI効果が出ていると答えたのはグローバルで32%だったのに対し、日本ではわずか13%。この差は、単なる調査誤差では説明できない。

いくつかの構造的な要因が考えられる。

第一に、「導入」と「変革」の混同である。日本企業のAI活用は、しばしば「ツールを導入すること」自体が目的化しがちだ。ライセンスを配布し、利用率を測定し、「〇〇%の社員がAIを利用しています」と報告する。しかしこれは、以前紹介したマッキンゼーの調査が繰り返し指摘してきた通り、成果とは別のものだ。同社の調査では、成功するAI変革は技術投資1に対してプロセス再設計3、能力構築と定着5という「1:3:5」の配分をたどるとされているが、多くの企業はこの配分を逆転させ、技術投資に経営の関心が集中している。

第二に、リスキリングの企業依存度の低さである。「スキル習得は自力で」と考える日本の従業員が世界平均を上回るという事実は、企業側の支援体制の弱さを映している可能性が高い。研修プログラムはあっても、それが実際の業務でAIを使いこなす力に直結していない。

第三に、経営層と現場の断絶である。投資を決めるのは経営層だが、その投資の効果を実感するのは現場である。両者の間に、投資の目的と、それが現場の仕事をどう変えるべきかについての共通理解がなければ、投資は「上から降ってきたツール」として受け止められ、業務に本質的に組み込まれることなく終わる。

以前紹介したReckittの北米CIOの言葉を思い出したい。「テクノロジーソリューションを持ち込んで、業績が上がることを期待するという話ではなかった。それが商業計画のプロセスにどう組み込まれ、意思決定をどう変え、どんな価値を生むのかを示したのだ」。この「示す」というプロセスこそが、日本企業に不足している部分ではないだろうか。

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■ 「AI主導プロセス」企業が示す、逆側の証拠

このギャップの深刻さを裏づける、もう一つのデータを紹介したい。

アクセンチュアが2024年11月に発表した別の調査「生成AIによる企業オペレーションの再創造」では、業務をAI主導のプロセスへと本格的に進化させた企業(日本では2023年の17%から2024年に21%へ増加)が、そうでない企業と比較して、収益成長率は2.5倍、生産性は2.4倍、生成AIの試験導入から本格実装への移行に成功した割合は3.3倍であることが明らかになっている。

このデータが示すのは、AIを本当に業務プロセスへ組み込んだ企業と、そうでない企業の間には、天と地ほどの差があるということだ。今回の2026年調査が示す日本の低い成果実感は、多くの企業が「試験導入」の段階にとどまり、「AI主導プロセスへの本格的な進化」に至っていないことの表れだと考えられる。

▼ 参考
AI主導の業務プロセスを導入した企業は同業他社を上回る業績を達成(アクセンチュア、2024年11月)

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■ 「成長意欲」というもう一つの視点

さらに視点を広げると、この問題は必ずしもAIに固有のものではないという可能性も見えてくる。

Forresterが2023年に実施した日本の職場のウェルビーイング調査では、「仕事における成長意欲が高い」従業員は、日本の労働者のわずか7%にとどまるという結果が出ている。過半数が、職場でのウェルビーイングの低さを実感し、潜在能力をフルに発揮できていないと感じているという。

▼ 参考
2023年 日本の職場におけるウェルビーイング(Forrester Research)

この調査結果とAI活用のギャップを直接的に因果関係で結びつけることはできない。しかし、示唆的ではある。新しい技術やツールがもたらす変化を前向きに受け止め、自ら試行錯誤しながら使いこなしていく力は、職場での成長意欲やウェルビーイングと無縁ではないだろう。AIという技術そのものの前に、それを受け止める土壌----従業員が変化に前向きに向き合える職場環境----が整っているかどうかが、活用度の差として表れている可能性がある。

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■ IT投資と人事投資は、もはや別々に語れない

ここまで見てきたアクセンチュアとマーサー、二つの調査に共通するメッセージを、あえて一言で言うなら「ITの意思決定と、人事の意思決定は、もはや切り分けて考えられない」ということだ。

98%の経営幹部が組織設計の変更を計画し、78%が投資拡大を計画する。この二つの数字は、本来同じ意思決定の中で語られるべきものである。AIへの投資計画と、それを受け止める組織・人材への投資計画は、一体の予算・一体の計画として設計されなければ、今回のような溝を生む。

しかし現実には、多くの企業でIT予算と人事予算は別々の部門が管理し、別々のKPIで評価されている。ITは「導入率」や「ライセンス数」で成果を語り、人事は「研修受講率」や「エンゲージメントスコア」で成果を語る。両者の間に、「この投資の結果、現場の仕事は本当に良くなったのか」という共通の問いが存在しない。

以前紹めたJosh Bersin氏のHR 2030構想でも、人事とITの連携強化・統合、一元的な人材データ基盤の構築が、これからの人事機能の中核的なテーマとして挙げられていた。今回のアクセンチュア調査とマーサー調査が示すギャップは、この統合がいかに急務であるかを、あらためて突きつけている。

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■ 人事にとっての示唆

このデータを踏まえ、人事・組織開発の観点から、企業が取り組むべきことを三点挙げたい。

第一に、投資の内訳を点検することである。AI関連予算のうち、ツール・ライセンス費用が占める割合と、業務プロセスの再設計・研修・定着支援に充てられている割合を、あらためて可視化する。「1:3:5」という比率に照らして、自社がどれだけ偏っているかを直視することが出発点になる。

第二に、リスキリングを「自力で」から「会社として」へ転換することである。50%という数字は、単なる不満の表明ではなく、企業に対する明確な期待の表れでもある。研修の量を増やすだけでなく、実際の業務フローの中にAI活用の学びを組み込む----「業務時間にAIを学び、使い、それが評価される」構造をつくることが重要になる。

第三に、経営層と現場の対話を、成果指標でつなぐことである。経営層が語る「投資」と、現場が実感する「変化」の間に共通言語がなければ、両者は永遠にすれ違う。ログイン数や利用率ではなく、業務の質・スピード・意思決定の速さといった、現場の実感に近い指標で、AI活用の成果を語る必要がある。

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■ おわりに

「AIで生産性が上がった」と答えた日本の従業員は57%。世界平均は81%。この24ポイントの差は、AIという技術そのものの優劣ではない。日本企業が、AIを本当に業務の中に組み込み、人と組織を変革できているかどうかの差である。

投資意欲は世界水準にある。組織を変える必要性への認識も、98%という高さで存在している。つまり、経営の意思決定としては、すでに正しい方向を向いている。問題は、その「意図」が「実装」にまで至っていないという一点に尽きる。

AI活用の本質は、技術の導入ではなく、人と組織の変革にある。私はこの言葉を繰り返し書いてきたが、アクセンチュアとマーサー、性格の異なる二つの調査が同じ結論を指し示しているという事実ほど、それを鮮明に裏づけるものはないと感じている。

投資を止める必要はない。しかし、投資の次に来るべき問い----「この投資は、誰の、どんな仕事を、どう変えるのか」----に、日本企業はまだ十分に答えられていない。24ポイントという数字と、98%対54%という数字は、その未回答の重みを、二つの異なる角度から表しているのだと思う。

▼ 参考文献・リンク
「AIで生産性向上」日本の従業員は57%、世界平均は81%(ITmedia AI+)
AI主導の業務プロセスを導入した企業は同業他社を上回る業績を達成(アクセンチュア)
2023年 日本の職場におけるウェルビーイング(Forrester Research)
・マーサー「グローバル人材動向調査2026(Global Talent Trends 2026)」

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