オルタナティブ・ブログ > 野石龍平の人事/ITコンサル徒然日記 >

人事領域(上流/elearing/ERP)コンサルでの人材開発/人事の一歩先の動向を考えます!

国家公務員にも「人材流動性」の時代がやってきた 〜スキルベース組織の、その先を考える〜

»

人事院が「国家公務員スキル一覧」を公表しました。

https://www.jinji.go.jp/content/000017378.pdf

一見すると、「国家公務員に必要なスキルを整理した資料」という印象を受けます。しかし私は、この資料の本質はそこではないと感じました。これは、日本で最も人材流動性が低いと言われてきた世界が、「スキルの可視化」と「スキルのポータビリティ」を前提とした時代へ動き始めた象徴ではないでしょうか。

────────────────────
国家公務員にも「市場価値」という考え方が入り始めた。これまで国家公務員は、終身雇用を前提とした代表的なキャリアでした。組織の中で経験を積み、異動を重ねながら専門性を高めていく。そのため、個人のスキルを体系的に整理し、可視化する必要性はそれほど高くありませんでした。

しかし今回のスキル一覧は、「この人は何ができるのか」を共通言語で表現することを目的としています。これは育成だけではなく、人材配置、キャリア形成、そして将来的な人材流動性まで見据えた基盤とも言えます。「所属」で評価される時代から、「保有するスキル」で評価される時代へ。公務員という最も流動性が低かった世界にも、その変化が及び始めたことに大きな意味を感じます。

────────────────────
世界では「ジョブ」から「スキル」へ

この流れは公務員だけではありません。

LinkedIn、Microsoft、Workdayなど世界のHRテクノロジー企業は、人材マネジメントの中心をジョブからスキルへ移し始めています。採用、配置、育成、異動、評価、報酬までをスキルデータでつなぐ「スキルベース組織」は、今や世界的な潮流です。

一方、日本企業でも同様の議論が加速しています。マーサージャパンとアビームコンサルティングは、人材ポートフォリオマネジメントをテーマに、スキルを起点とした人材マネジメントへの転換の必要性を提言しています。

https://mercer.seminarone.com/ml_20250529/event

こうした動きの背景には、「会社に長く勤める人材を管理する」のではなく、「市場価値を持つ人材をどう惹きつけ、活躍してもらうか」という発想への転換があります。

────────────────────
スキルベース組織はゴールではない

一方で、私はスキルベース組織も"ゴール"ではないと考えています。実は、マーサージャパンで同じチームや江口智彬さんも『日本の人事部』のインタビューで、「スキルは一要素に過ぎない」と語っています。

https://jinjibu.jp/article/detl/tieup/3964/

記事では、スキルだけではなく、

・コンピテンシー(行動特性)
・パーソナリティ
・働き方やキャリア志向

まで含めて初めて、人材を最適配置できると説明されています。

私はこの考え方に非常に共感しています。生成AIによって知識やスキルが急速に補完される時代には、「何ができるか」だけでは、人材の価値を説明しきれません。最後に差が生まれるのは、

どんな価値観を持ち、どんな環境で力を発揮し、どんな人と協働すると最も成果が出るのか。

つまり、パーソナリティです。

私は、スキルベース組織 → パーソナリティベース組織という流れで、人材マネジメントは進化していくと考えています。

────────────────────
人材流動性が高まる時代だからこそ

人材が一つの会社や組織に留まり続けることを前提としない時代だからこそ、企業や組織は「辞めさせない」ことだけを目的にするのではなく、「ここで働くことで市場価値が高まる」と思ってもらえる環境をつくることが重要になります。

今回の国家公務員スキル一覧は、公務員という最も流動性が低かった世界においても、その考え方が広がり始めたことを示す象徴的な取り組みなのではないでしょうか。

────────────────────
おわりに

私はこれまで、「ジョブベースからスキルベースへ」という流れを発信してきました。
そして今は、そのさらに先を考えるタイミングに来ていると感じています。
ジョブベースからスキルベースへ。

スキルベースからパーソナリティベースへ。
AIがスキルを補完する時代だからこそ、人事が最後に向き合うべき対象は、「何ができるか」ではなく、「どんな人なのか」。

国家公務員のスキル一覧は、一見すると地味な制度改正に見えるかもしれません。しかしその背景には、日本の人材マネジメントが「所属」から「市場価値」、そして「個人」へと軸足を移し始めた大きな変化があります。

私は、この流れは民間企業にも確実に広がり、人的資本経営の次の競争力は、「パーソナリティを理解し、人と組織を最適につなぐ力」になると考えています。

Comment(0)