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熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」に参加した② 出口と入口。

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熊本大学公開講座「インストラクショナルデザイン」の報告第2弾です。

IDは、教育活動の”効果”と”効率”と”魅力”を高めるためのシステム的アプローチである、ということはエントリー①で書きました。

で、大事なこと、というか、コアになることは、まず「教育活動(たとえば研修)の”出口”と”入口”」をきちんと明確にする、ということです。

入口 → 教育プロセス(というか成長プロセス) →  出口    

と流れで見た場合、学習者は、「現時点でどういう人か」「どういう人を対象とした学習なのか」を明確にするのが”入口”のお話。

「何がわかっていて、何がわかっていないのか」
「何ができて、何ができないのか」

ここをはっきりさせて、「こういう人がこの教育活動(メンドクサイので今後は簡単に”研修”と書きます。研修が教育活動のすべてではないのですが)の対象者」なのか、研修提供者側も学習者側もわかるようにしておくこと。 これが”入口”での定義です。

たとえば、料理教室で「市販のルーを使った初級者用カレーライスの作り方」を学ぼうというとき、「包丁も使ったことがない」「ジャガイモと人参の違いも判らない」という人が来てしまうと困るかもしれない。

一方で、市販のルーでは飽き足らず、自分でスパイスを混ぜ合わせて凝りに凝ったカレーをすでに作っている人がこの教室に来ても、「ううぅ、こんなこと、とっくに知っている」と思うでしょう。

だから、「市販のルーを使った初級者用カレーライスの作り方」教室では、

「何を知っているか」
”野菜の種類を区別できる”
”包丁を握ったことがあり、野菜などを切ることができる”

「何を知らないか」
”カレーライスは作ったことがない”
”市販ルーでカレーライスを作ったことがない”

という風に学習者の前提を定義することができます。

この”入口”を教室の募集要項に書いておけば、「来るべき人」が来なかったり、「来なくていい人」が来てしまったりということは避けられるはず。(完全に、とは言いませんが)

だいたい、自分でスパイスを混ぜちゃう人が来た場合、料理教室の数時間はとても無駄になってしまうので、その上級者は、もっと上級のクラスで学ぶか、それとも違うことに時間を使ったほうがよい。

(企業の研修でも同じことが言えます)



次は、”出口”です。

この研修を参加し終わった時点で、「どうなっているのか」を明確にするのが”出口”です。

研修をすればすべての問題が解決する、なんてことはありません。
研修で目指すことは「ここです」という線をきちんと明確にします。

「カレー教室」で言えば、
”市販ルーを使って60分以内に一人でカレーライスを作れるようになる”
というのが”出口”ですよー、と定義するわけです。

この初級者用カレー教室では、あくまでも”市販ルー”を使うことができるようになるまでを目指すので、”スパイスを自分で調合する”といったことはできるようになりません。

”入口”と”出口”は、研修の責任範囲というか、取り扱う範囲を明確にすること、なのですね。

研修を提供する側にとっても、「ここからここまでがこの”研修”のカバー範囲、責任範囲です」とスコープを明確にできるというメリットがありますが、学習者にとっても、”入口””出口”の考え方はとても重要になってきます。

受講の前提を「不足」という意味で満たしていない人が参加したら苦しむわけですし、
受講の前提を「過剰」という意味で満たしていない人にとっては時間の無駄になるわけですし。

”出口”を明確に示してくれれば、今の自分の実力と”出口”とのギャップが学習者自身にも理解でき、「もうちょっと勉強しよう」とか「この部分を強化しよう」などと、自分が学ぶべきこと、練習すべきことも自覚できるようになるはずです。



ID(Instructional Design:インストラクショナルデザイン)で、とても大事なキーワード”入口”と”出口”。

研修を企画したり、設計・開発したりする際、この2つをきちんと定義することから始めるのがとても重要です。


もちろん、このIDは「理論」「理屈」ですので、現実はそうもいかないことが多々あります。

「階層研修で、うちの会社の伝統的なイベントでもあるので、前提は異なる社員が一同に会すことになっているんだよね」

とか

「日程的、予算的に、”基礎””応用”という順番で受けられないので、前提条件を満たしていなのは承知の上で、”基礎”をすっとばして”応用”に参加せざるをなかった」

とか。

今回の「ID」の公開講座でも、鈴木克明先生がこんな感じのことをおっしゃっていました。

「IDは理屈です。研修には、”受講者の特徴や与えられた研修環境やリソース”といった制約ももちろんあり、そういう制約がある中で、どうデザインするか、ということを考えるのですよ」

「デザインがないといきあたりばったりになりますが、デザインがあれば、デザインした中から、あれこれ工夫ができる」といったこともおっしゃっていました。

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【「インストラクショナルデザイン」といえば、ガニェさん。この本は、ガニェさんのもとで学んだ鈴木先生が翻訳に携わり、恩返しできた!と思われたとか。 で、すごく難しいです。私も関連個所を必要な時に拾い読みする感じ・・・。でも、ID全体をまとめた本といえばこれが代表的1冊かな。】

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