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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

第3話:イソノじゃなくなっちゃうの?

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ずーっと前、テレビアニメ・サザエさんを観ていたら、「ワカメもいつかは苗字が変わっちゃうんだから」「えー、イソノじゃなくなっちゃうのぉ?」といったせりふが出てきたことがあった。

「妙なことを言うなぁ」と思ったので、何年も経っているのによく覚えている。

結婚したからといって女性の苗字が変わるとは限らない。
婚姻届には、婚姻後の姓を書く欄があって、夫または妻の姓のいずれかを選ぶようになっている。
でも、サザエさんでは、「ワカメちゃんは、結婚したら、夫の姓を名乗るのだから」と言っていた。

まあ、元々、サザエさんは、昭和の香りを残した漫画なので、苗字のことだけでなく、全体的に、「今の時代、それはないかも」という設定やせりふが多いのは致し方ない。

たとえば、サザエさんちの茶の間では、大人だけが座布団を敷いて座っている。これは、平成になっても今のところ、変わっていない。カツオ以下、子供達は全員、茶の間の畳(だと思う)に直接、正座しているのだ。興味があれば、日曜日に確認してみてほしい。

おっと、話が少々脱線したので、苗字の話に戻る。



先日、同僚の女性が「無事、入籍しました」と報告してくれた。夫となった男性の方も知っているので、ごく普通に「苗字はどちらになったの?」と尋ねた。

彼女もその質問にさして驚くことなく、「相手の名前にしました。仕事では旧姓を続けますが」と教えてくれた。



そのやり取りで思い出したのは、イシイさんのことだ。

もう二十年くらい前のこと。

「結婚したら、男性か女性の苗字のどっちかを選ぶんだよねぇ」と、女性数人とお弁当を食べながら話していた。

偶然、脇を通りかかったのは、三十歳半ばのイシイさんだ。

「え? 今、なんて言った?」と会話に加わってきた。
「だから、結婚する時に苗字って選ぶんですよ」
「そうなの? 男の名前に決まっているんじゃないの?」
「そんなことないですよ。選ぶんです。ただ、多くの人が男性の苗字を選ぶだけです」
「そうなんだ…。知らなかった…。どうしよう?」

急に顔が曇り、考え込んでしまったイシイさん。
「どうしよう?って、何がですか?」と尋ねると、「もしかすると、うちの奥さん、自分の名前を選んだと思っているかも知れない…」と言うのだ。

イシイさんは、イシイさんという女性と結婚したんだそうだ。てっきり、自分の名前に妻が合わせてくれたと思い込んでいた。

しかし、「婚姻届時に選択する」という話を聞き、妻は妻で、自分の名前を選んだつもりでいるのでは?と心配になってしまった。

聞いていた私たち女性陣は、「イシイとイシイなんだから、別にどっちでもいいじゃないですか」と半ば呆れて言うと、「それじゃダメだ」ときっぱり。

「どうしよう。妻は自分の名前にオレが合わせたと思っているかも…」とまるで「男のコケン」に関わるとでも言うように、不安げな様子。

「こんなことはしていられない。今日は、早く帰って、妻に確認しよう!」と肩を落として、とぼとぼと自席に戻っていった。その日、イシイさんは、本当に早い時間に退社した。

次の日以降、苗字の話は二度と出なかった。「結論がなんだったのか」私たちも気にはなったが、誰も聞くこともしなかった。



イシイさんに苗字の件を問われた奥様の答えは、「夫の苗字を選んだ」でも、「自分の苗字に夫も合わせてくれた」でもなかったのではないか。

もしかすると、奥様はこう答えたのかも知れない。

「あら、私たち、最初から夫婦別姓じゃないの」

そんな想像をして、ひとりクククと笑ってしまった。

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日経BPストアから出ていた『コミュニケーションのびっくり箱』、販売停止に伴い、1話ずつ公開しています。元は携帯メールに配信されるサービスとして週刊連載していたものです。連載当時と順番を変更しています。

○初出:2009年8月5日配信

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