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Windows Webマガ編集長の独り言。だからどうした?

システム管理のベストプラクティス

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円周角は中心角の1/2である。

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誰もが知っている円周角の定理だ。なかには頭の中でたちまち証明できる数学的センスの優れた人もいるのだろうが、私はといえば、うーん、えーと、ここに補助線を引くとこうなって…、ああなるほど! といった具合に、納得がいくまでかなり時間がかってしまう。

定理のよいところは、一度証明されてしまえば、次からは、いちいち「うーん」とうならなくても、先人の知恵をステップにして上に登れることだ。証明のこと考えずに、「円周角は中心角の1/2」ということを覚えておき、それを使えばよい。

機会あって、昨今のソフトウェア開発事情について勉強した。ソフト開発の領域は、先人の経験と知恵がさまざまな分野とレベルでフレームワークとして定理化されており、それをステップに前進を続けていると改めて実感した。

20年ほど前、化学出身で、入社1年そこそこのひよっこでしかない私を上司は呼び出し、Cコンパイラのメンテナンス担当者に任命した。UNIXベースのオフコンだった。そのシステム上で動くほとんどのソフトウェアをコンパイルする要の言語処理系である。コンパイラ理論に触れたのはそのときが初めてだった。エイホとウルマンの『コンパイラ』を読んで、コンパイラ理論の完成度の高さに感嘆を覚えた。今でも、コンパイラ理論は最も完成されたソフトウェア領域の1つであろうと思う。

それから20年。ソフト開発の領域では、オブジェクト指向プログラミング、OOA(Object Oriented Analysys)、DOA(Data Oriented Approach)といった構造化設計手法、RUP(Rational Unified Process)やアジャイルなどの開発プロセス、UMLなどの上流モデリング、デザイン・パターンなどなど、大規模化、複雑化するソフト開発を抽象化、カプセル化し、ソフト開発の生産性を向上するためのベスト・プラクティスが着々と体系化、フレームワーク化されつつある。先の円周角の定理と同じく、完成されたプラクティスは、ソフト開発の創造性をより高いレベルで発揮するための土台として機能している。

一方の情報システム管理者(ITプロ)の領域はどうだろうか。果たしてこの領域でも、ベストプラクティスは体系化されているだろうか? 残念ながら答えはノーである。

システム管理を支援してくれるツールはたくさんあるし、以前に比べれば情報も多い。しかし何というか、それらはあまりに断片的で、前出のソフト開発領域のレベルと比較すると、とてもプラクティスの体系化とは呼べない気がする。多くのシステム管理者は、怠慢や不勉強の結果ではなく、必然として、モグラ叩きに毎日神経をすり減らし、とても大きな潜在リスクを抱えながら、それが現実のものとならないことを運まかせにしているように見える。

いうまでもなく、ソフト開発とシステムの運用管理は、情報システムのライフサイクルとして陸続きになっている。ソフト開発がどれだけ進歩しても、それを運用する技術が未熟では、結局のところエンドユーザーはその利益に浴せないか、利益に見合わないリスクを背負い込むことになる。

混沌とした情報システム管理が体系化、フレームワーク化されることは、ITが進歩するために越えなければならない次の大きなハードルの1つだろうと思う。

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