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「生保」というと最近は「生活保護」の略称だったりしますが、こちらは「生命保険」です。保険会社(メーカー)、代理店(販社)だと言いづらいこと、言えないことを、分かりやすく書いていきたいと思います。新規加入や見直しの際にご参考にして頂ければ幸いです。また、取り上げて欲しいテーマがあればリクエストしてみて下さい。可能な限りお答えしていきます。

なぜ大手国内生保は「定期付き終身」に回帰したのか?

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おととしから昨年あたりにかけて、ニッセイ以外の大手国内生保はこれまで約10年以上に渡って販売してきた「アカウント型」もしくは「ファンド型」の商品の積極販売をやめて、以前に社会問題になった「定期付き終身」に主力商品を戻しました。
(ニッセイは頑なに「定期付き終身」がすっと主力商品です)

「定期付き終身」とは「定期保険特約付き終身保険」の略称で、しくみとしては主契約の終身保険(一生涯の死亡保障で貯蓄性あり)に特約の定期保険(一定期間の死亡保障や入院保障などで掛け捨て)が乗っかっています。

一時期「定期付き終身の悲劇」と銘打ち、一部の保険評論家やFPなどが騒いでいたことがありました。
一応主契約は「終身保険」ということで「貯蓄性がありますよ」と保険加入当初説明を受けたが、保険料の多くは実際には掛け捨て分に回ってしまうことと、特約の定期保険が終了するとわずかな終身保険の死亡保険金しかないことが大げさに喧伝されておりました。

例えば、主契約の終身保険200万円、特約の定期保険3800万円で特約の定期保険が60歳までだとすると、当初に死亡保障は4000万円であるが、60歳を過ぎると主契約の終身保険の200万円だけとなり、解約してもわずかな解約返戻金しかない、というのが問題でした。

しかし、こんなことは当たり前の話しで、売る側がいいことしか言わず、買う側もいいことしかインプットせず「話が違う」となっただけの話しです。

問題の本質は、何回もこのブログで取り上げているように「更新型」の存在で、更新ごとに保険料が大幅にアップするためそのまま継続がほぼ不可能な構造により、悪名高き「転換」を誘発するしくみになっていることです。

今から十数年前に、この「定期付き終身の悲劇」やら「転換」の悪い評判が立ち始めたため、大手国内生保の優秀な「商品企画部」のエリートたちは考えました。

「定期付き終身でなければいいんじゃね」「アメリカにはファンド型の保険があるよね」「更新型はまだ使えるよな」などと小賢しく考えて二十世紀の最後に「アカウント型」や「ファンド型」の新商品を華々しく発売しました。
(アメリカのファンド型とは似て非なるものです)

概要は終身保険の変わりに「アカウント」や「ファンド」というバーチャル終身保険(将来終身保険にもできるが現状ではお金の塊)で、その上に「更新型」の掛け捨てタイプの定期保険や入院特約などが乗っかっている形です。

つまりは「定期付き終身」の「終身」が「アカウント」や「ファンド」に変わっただけで本質的にはほとんど変わっていません。

それが第一生命の「堂々人生」、明治安田生命の「ライフアカウントL.A」、住友生命の「ライブワン」などです。

当時かなり売れたように言われていましたが、そのほとんでは既契約の「転換」です。
「堂々人生」がはじめた「保険料はいただきません」を、田中麗奈がリボンの騎士になって叫んでいたのをご記憶の方がいらっしゃると思いますが、このような「よさそうに見える新しい特約」を餌に既契約をどんどん「転換」していったのです。

バブル期に契約した生命保険の予定利率は5.5%~6.0%ですが、1999年ごろの予定利率は2.0%程度です。(現在は1.5%~1.65%)

貯蓄性がある終身保険で考えると、長期間年利6%確定の定期預金を、知らぬ間に年利2%に変えてしまったようなもんです。
(正確には「予定利率」は「利回り」ではありませんが、概念としては同じと思っていいです)

本当の「エリートたち」のも目的は、既契約の「予定利率」を下げることだったのです。
「更新すると保険料が上がりますよ。その前に下取りして一番新しい特約が付けられる商品に変えましょう。保険料はほとんど変わらないでできますからね」というセールストークでまんまと大量の既契約の予定利率を引き下げることに成功したようです。

そして十年余りが過ぎて、「アカウント型」「ファンド型」は姿を消しつつあります。
理由としては、目新さがなくなったことと、未だに分かりづらいイメージがあることが考えれます。

前回触れた「不払い問題」で分かりづらい商品や特約は風当たりが強くなりそうなので、そろそれ潮時と思ったのかもしれません。

この十年余りで過去の予定利率が高い「お宝保険」を回収したことで、大手国内生保の逆ザヤ(運用利回りよりお客様に提供する利回りの方が高い状態)はかなり軽減され、発売当時インパクトがあった「アカウント型」「ファンド型」の役目は終わったのでしょう。

それで従来の「定期付き終身」に回帰しているわけです。
しかし、相変わらず特約はテンコ盛りの「更新型」で、根本的は構造上の問題点は全く善されていません。
未だに「医療(入院)保障は80歳まで」「介護などの特約は65歳まで」と外資、カタカナ、損保系が終身やもっと高齢になるまでをカバーするサービスがデフォルトなところに対抗できていません。

「逆ザヤ」が解消されたのだから、もっとマシなもの出せばいいのに、と本気で思ってしまします。
正直、ニッポン人の消費者の生命保険リテラシーが極めて低いことを「エリート」たちはお見通しでやっているとしか思えません。

もし、本気で大手国内生保の「定期付き終身」回帰で、他社と商品力で競争できると考えているとしたら、ホンマもんの大馬鹿ですから。

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