生命保険とコンプライアンス VOL.2
前回、保険業界の憲法ともいうべき「保険業法」に基ずくコンプライアンスを取り上げましたが、今回はその肝心な部分のお話しです。
「お客様を騙して保険を売ってはいけませんよ」と業法の一、四、六、七条で高らかに謳っています。
こんなことはどの業界でも当たり前のことですが、時と場合によっては逸脱してしまうことがあります。
特に生命保険においては、売る側も買う側も「分かりづらい」構造になっているとされているので、"騙す"意思が売る側になくても結果的に"騙す"と同じになるケースが大量に存在します。
なぜこんなことになってしまうのか問題点を3つにまとめます。
1、売る側(保険会社、代理店)の無知と倫理観の低さ
2、買う側(保険契約者、被保険者)の無知
3、監督者(金融庁)の認識の低さ
1と2については、これまで書いており今後も問題提起をしていきますが、今回取り上げたいのは3です。
保険業法の番人たる金融庁がかなり「ユルふん」というか認識が低いのが問題です。
と言いますか、現場を全く知らないとしか思えません。
法律や刑罰があっても、取り締まる警察がだらしなければ犯罪は減りません。
それと同じでいくら「コンプラ、コンプラ」と叫んだところで、監督官庁である金融庁が間抜けだと"結果的に"騙されてしまう消費者があとを絶たないのが現状です。
誤解を恐れずに言わせていただければ、長期間詐欺にあって不当な負担を強いられいていても気付かずに、幸せにすべてが終わってしまう方が日本人の過半数以上を占めるのです。
数年前になりますが、数十社を扱う大手代理店がバイイングパワーがあるとかつてのダイエーのように勘違いして、自前のOEM商品(メーカーに製造委託して自社で独占販売する商品。保険業界ではかなり画期的ではあった)を開発して拡販していました。
しかし、商品はかなり頓珍漢なもので売れませんでしたので、全社員に自爆(自分や家族が保険料自己負担で数字をつくるために保険加入すること)命令が出るという有様でした。
それだけでは株主や供給元の保険会社にも顔向けできる数字ができなかったらしく、不当に他社の優位性のある商品を勧めずに自社商品を拡販する旨の「業務命令」が出されました。
これは明らかにコンプライアンス違反であろう、と感じて私は上記について金融庁に問合せをしました。
すると担当である金融庁の官僚様は、
「それは代理店さんの裁量の範囲内のことなので問題になりません」
とあっさり言われたのです。
つまり金融庁の官僚様は、保険の種類が同じならそれほど変わるものじゃない、細かいことなどどうせ分からないんだからそんなことで目くじらを立てるな、と仰っていたのです。
お話したのは所謂「木っ端役人」の方であったと思いますが、認識はビフォー1996(規制緩和前)であり、恣意的に保険商品を勧めることに関しては問題なしとのことでした。
保険業法で謳う「騙して販売してはいけません」というのは、七(前回参照)で提示しているように、あるかないか不確定な配当などが、確実に何年後かに必ずあるとは言ってはいけません、と個別の商品についての嘘はいけないと言っているだけなのです。
(実際にバブルの時の配当率は高く、このまま行けば30年後には解約返戻金が○倍になります、と明確に表示している生命保険設計書は存在して大きな問題になりました)
更新型で10年後には保険料が上がることを告げなかったり、早期の解約については貯蓄型の保険商品であっても解約返戻金がほとんどないこと知らせなかったりすることはいけません、と言ったことが保険業法第300条の「騙してはいけません」の内容です。
ですから複数扱う代理店が、手数料の違いやその他の都合でお客様に不利な商品を売ろうが何しようが、個別の商品自体の説明をきちんとすればOKなのです。
消費者サイドから考えて、全然OKではないですよね。
監督官庁として、代理店が恣意的に保険商品を販売することを取り締まるのはコストがかかることは想像できますが、やる気がないのか、できないのか定かでありません。
ただ、結果としては保険業法第300条の条文は立派ですが、実際はかなり「ユルふん」なのです。
上記の大手代理店の「自爆」した社員には、福利厚生名目で保険料の一部が補填されたとの噂がありましたが、不当に契約させられたお客様については何の補填もないことは言うまでもありません。
生命保険加入について騙されないためには、自分の身は自分で守るしかないのです。
余談ですが、上記の大手代理店OEM商品は大失敗に終わったためか沿革にも記述がなく、引受先の保険会社もつぶれてしまって跡形もなくなっています。
社員を自爆させて、コンプラ違反ぎりぎりまでやって頑張っていましたが、その後は株価は全盛期の10分の1まで暴落してしまい、大きく戦略を変更(拡大路線→縮小均衡)を余儀なくされたようです。
「しごとにん」に商品開発を任せていただければもっとマシなもの、いやポテンヒットぐらいのものは出せたと思います。