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企業Twitter開局大作戦 ~ 「最終話 ソーシャルメディアよ,永遠に」

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前話 「第四話 ブログ・コメントを封鎖せよ!」 からの続きです。

  1. 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第一話 Androidタブレットを販売せよ!」
  2. 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第二話 軟式ツイートと最初の難事件」
  3. 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第三話 コンサルタント灰島秀樹」
  4. 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第四話 ブログ・コメントを封鎖せよ!」


リスク管理部長の室井は,おもむろに青島の顔を見てこう言った。

室井  なんだ。また君か。
青島  すいません。なんかいつもこうなっちゃんですよね。でも今回は本当に会社の危機なんです。室井さんの力,かしてください。
室井  皆さん,遅くなりました。当件については和久さんからも相談を受けていたこともあり,リスク管理部としても注目していました。和久さんも呼んでいますので,全員が集まり次第,打ち合わせをはじめましょう。青島君,それまで状況を簡単に説明してくれ。
沖田  青島君は会議に入る必要はないわ。私から説明します。
和久  まあまあ,ここはみんなの力をあわせて解決していこうや。青島が一番現場に近いんだから,彼にも参加してもらって現実感のある対策を打たないと取り返しのつかないことになりかねないだろう。
室井  青島君,まずは現状を説明してくれ。

青島が概要を説明したところで,タブレット設計部の内田とコンサルタント灰島が入室し,会議がはじまった。現状の問題点を共通認識とした後,対策案についての論議がはじまった。

沖田  まず第一に方針が決まるまでブログ・コメントを閉鎖したいと思います。これ以上の書き込みをわざわざ周知させることはないでしょう。Twitterも一時的に閉鎖できないの?
青島  コメントを閉じるのは企業イメージに泥を塗るようなもんです。そのこと自体が格好のバズ材料となって,匿名掲示版やブログに広がっていきますよ。まず必要なことは,即座に正しく現状を伝えることです。
沖田  あなたは黙ってなさい。いつもトラブル巻き起こしてるんだから。灰島さん,意見をください。
灰島  青島さん,コメントに書かれた内容を社長に見せる勇気ある?それを閲覧させているのは君ってことになるよ。読んでみようか。「なんなんだ。このタブレット,最低!」「Twitterとか全く反応しないの無責任すぎるよね。なんのためのアカウントだよ!」「これまでのSMS社のふざけた経緯をブログにしました。ぜひ訪問ください」「社長だせよ!」
内田  まず製造責任部門として深くお詫び申し上げます。さきほど製造メーカーに確認しましたが,同様の現象が他社でも出ているとのこと。一刻も早く回収,対応しないと傷は深まります。ここはユーザー視点に立ち,社をあげて回収し,コストはかかりますが互換性のある旧バッテリーに入れ替えることをお奨めします。
沖田  部長会や取締役会の承認はどうするの!設計部,責任とりなさいよ!それに袴田さん,あんたが青島に乗せられてTwitterなんかはじめるからこんなことになったのよ。責任取ってもらうからね。
袴田  しかし,私は和久さんが...
和久  責任,責任ってうるせぇな。とりゃいいんだろ。取るからあんたは黙っててくれ。
青島  袴田課長,和久さん,すいません。でもTwitter使ってなかったら,このトラブルを芽のうちに発見できませんでした。それにこんなピンチの時こそ,顧客と直接対話できる強みを最大限に発揮すべきです。逃げたらダメなんです。真摯に対応する企業文化を醸成するチャンスじゃないですか!
室井  青島,わかった。どうすればいいんだ。教えてくれ。
青島  室井さん,まずブログとTwitterで正確な情報を流すんです。それも情報が入り次第,リアルタイムで追記して。続いて,大至急対応策を社長に直談判し,告知すべきです。あわせてバッテリー交換の段取りを営業部やカスタマーサポートとも相談して決めておく必要があります。
沖田  あんたは黙ってなさい!今,Webチームにメールをいれ,ブログコメントを閉鎖しました。この後の対応は社長と私,それにプロである灰島さんと相談して方針を決定します。それまで勝手なことはしないで。混乱しているのでここは散会します。
青島  室井さん,聞いてくれ。今,必要なことは隠蔽の技術じゃない。消費者と向き合う勇気と,それを支える強いリーダーシップだ。俺は室井さんの指示に従う。命令してくれ。
灰島  沖田さんからタスクチーム責任者として業務命令が出てるよ。従えないなら辞表だしなよ。
袴田  ....... わっ,わたしの部下をなんだと思ってるんだ。君は黙ってろっ!
和久  台湾メーカーとの交渉については営業法務として全力をあげる。この件は俺が責任を持たせてもらう。(室井に向かってうなづく)
室井  わかりました。青島,開示だ!
(青島,部屋を飛び出す)
内田  私も設計部長と直談判します。和久さん,同席お願いできますか?
和久  わかった。すぐ行こう。
室井  沖田君,この判断は私がリスク管理部長として全責任を持つ。君は部長会に報告するための資料を直ちにまとめ,会を招集してくれ。
沖田  どうなっても知らないわよ。みんな勝手なことばかりして!
室井  では,内田さん,和久さん,よろしくお願いします。袴田さん,営業部で青島のバックアップをお願いします。適時私に報告をください。私はこれから社長に話しに行きます。

企業がソーシャルメディア活用で最も心配することは,炎上に対する懸念だ。しかし「炎上」は偶然の産物ではなく,必然の結果である。そしてそのためにソーシャルメディア活用を恐れることも実はナンセンスである。なぜなら,企業が参加するしないにかかわらず,ユーザー交流の場はいくらでもあり,そちらのほうがはるかにアンコントローラブルだからだ。それよりも,企業と生活者の関係が新しい時代に入ったことを自覚し,生活者と誠実な姿勢で真摯に向きあう社内文化を醸成することが肝要である。

炎上という逆境に際して,顧客と正面から対話することで信頼を回復するとともに,顧客の英知を借りて経営改革を実現した例はいくつもある。

最も有名な事例はデルだろう。彼らは,2005年から2006年にかけて,その品質の問題点からネット上で"DELL HELL"と罵倒を浴び続けた。デル会長は顧客との対話のためにDELLオフィシャルブログを開設したが,それでも集中砲火は収まらない。さらに追い討ちをかけたのが大阪でのノートPC発火事件。この動画がYouTubeを通じて世界中を駆け巡ったことにより,その危機は頂点に達した。しかしデルはひるまず,この事件をオフィシャルブログで率直に謝罪するとともに,リアルタイムに状況や対応策を報告した。これを機にネット上の空気がデルの味方になりはじめる。さらに2007年2月には顧客との関係をさらに前向きなものにするために独自コミュニティ「IDEASTORM」を立ち上げ,その成果として2年間で200件以上(2008年末時点)の製品改善を実現した。

この英断を一貫して支えたのはマイケル・デル会長だ。ブログ開始を決断し,最初から集中砲火を浴びるも,現場に対して「よくやった。ブログが始動されたのをうれしく思う」とメールし,現場の士気を大いに盛り立てた。

現場の思いと,管理層やトップの果断な意思決定が一体となり,はじめてソーシャルメディアは活き始める。顧客-現場-経営層が信頼感で繋がることこそ,ソーシャルメディア導入の秘訣であり,ソーシャルメディアがもたらす最高の資産でもある。

 
青島  雪乃さん,今,室井さんが今回の対策について社長と直談判で話し合ってるから,それまで有志アカウントを最大限に活用しよう。こちらから積極的にクレームを入れているユーザーに直接コンタクトして,お詫びするとともに彼らの気持ちを聞いてあげて。手が足りないと思うから僕も手伝うよ。ポイントは,「トラブルのお詫び」「現状の真摯な報告」「対策内容をリアルタイムに伝える」という開示姿勢の3点セットだかんね。
雪乃
  さすが青島さん,トラブル慣れしていますね!
真下  雪乃さん,僕とすみれさんも応援します!手分けしましょう。僕はブログを書いている人たちにもコンタクトを試みますよ。
すみれ 青島君,ブログのコメント,閉鎖されちゃってるけどどうする?
青島  雪乃さんの方でまずそれに関するお詫びをブログにあげてもらおう。できる限りはやくコメントを復活できるように広報部長に掛け合ってもらえないかな。室井さんが責任持つって言ってるって。
すみれ わかった。復活したらWebチームにもユーザーコンタクトを手伝ってもらうよ。
青島  じゃ,ちょっと今から袴田課長のとこ行って,この件を営業部から関係各位に連絡するようにお願いしてくるね。みなさん,現場の力,見せてやりましょう!
一同  了解!

最後に米国ケーブルテレビ最大手であるコムキャスト社の事例を紹介したい。

彼等はもとより顧客サービスに問題ありとされていた会社だったが,出張サポート社員の居眠り姿がYouTubeで流されたことでネット上をバズが駆け巡り,クレームの声が殺到することになった。それを受けて動いたのはカスタマーサポート部門のエリアソン氏だ。彼はTwitter上にサポート窓口 Comcast Cares を開設するとともに,エリアソン率いる10名のスタッフにもTwitterアカウントを個別に開設させた。彼等は寄せられたクレーム対応のみならず,トラブル顧客を能動的に検索し,先手をうってコンタクトすることで問題解決にあたった。そしてこの応対は,電話対応で頭に来たブロガーをTwitterから救ったことでブログ界の賞賛を浴びることになった。(とてもリアルかつユーモラスに書かれている下記和訳記事をぜひお読みください)
Twitterを使ったカスタマーサービスと評判管理 (Web担当者Forum)

これを機にコムキャストは顧客視点を取り戻していった。昨年10月には,Web2.0サミットにて,コムキャストCEO のブライアン・ロバーツ氏が「Twitterはコムキャストの企業文化を変えた」 と明言し,話題となっている。

Comcastcares

ちなみにこの画像はさきほど保存したもので,彼らの所在地フィラデルフィアでは土曜日の深夜11:40分ごろのものだが,エリアソン氏はまさに分刻みで複数ユーザーへの対応をしていることがわかる。本当にご苦労様と頭の下がるショットだ。

 
 
最終話まで長々とお付き合いいただきありがとうございました。このお話はここでおしまいです。この先,どのような展開になるか,読者のみなさまのお気持ちいかんですが,SMS社のソーシャルメディア活用はずっと続いてゆきます。

企業がソーシャルメディアを避けて通ることはできません。会長がリードしたデル社や,現場がリードしたコムキャスト社のように,形態は異なれど,ソーシャルメディアは数年かけて企業に浸透し,顧客-社員-トップ が深い信頼関係で繋がる新しい時代を醸成してゆくでしょう。

最後に,米国識者によるソーシャルメディアに関する予測をいくつかピックアップして,このシリーズの締めとさせていただきます。

  • ソーシャルメディアは私たちの生活に組み込まれていく
    2009年はソーシャルメディアを学んだ年,2010年はソーシャルメディアをよりうまく活用する年だ。
  • 企業はついにソーシャルメディアが子供やB級スターによる一時的な流行ではないことに気がつくだろう。
  • ソーシャルメディア・マーケティングがブランドにとって成功する戦術として広まるだろう。
  • ブロードキャスト感覚で古いマーケティングを続けている多くのマーケッターは潜在的な顧客から見放されるだろう。
  • 経済は穏やかに回復し,消費者は無条件にプラスになるコンテンツや専門知識をシェアし続けたブランドマーケッターに報いるだろう。
  • ソーシャルメディア・マーケティングには時間がかかるが,多くのCFOはすぐに結果がでないためにそのような手法ををストップするだろう。
  • Fortune500/1000クラスの大企業がソーシャルメディアで数多くのミステイクを犯すだろう。
  • 我々は透明性の時代に入ろうとしている。今までの10年は「獲得」だった。これからの10年は「保持」が重要だ。
  • 大小の差なく,すべてのブランドが絶対的な透明性を求められるだろう。

 
 
【企業Twitter開局シリーズ】

・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第一話 Androidタブレットを販売せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第二話 軟式ツイートと最初の難事件」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第三話 コンサルタント灰島秀樹」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第四話 ブログ・コメントを封鎖せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「最終話 ソーシャルメディアよ,永遠なれ」

 
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