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企業Twitter開局大作戦 ~ 「第三話 コンサルタント灰島秀樹」

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前話 「第二話 軟式ツイートと最初の難事件」 からの続きです
   
     
青島たちがはじめたTwitter有志アカウントを正式に企業アカウントにする件は,部門を横断するタスクチームを創設する必要があるため,部長会での決議事項となった。報告主はタスクチーム・リーダーに選任された広告宣伝部,沖田次長。彼女はまず一週間分の日次レポートをもとにまとめた報告書で各部長に説明した。
   
沖田   以上が,Twitterアカウントの現状です。何かご意見はありますか?
営業部長 そもそも競合他社の情報を当社から流すなんて信じられないな。敵に塩を送るようなもんじゃないか。なに好き勝手させてるんだ。袴田君。
袴田   はい。誠に申し訳ありません。和久さんから強く推薦されたもので。
広告部長 SMS社が軟式企業として認知されることは,当社の堅実なイメージを著しく傷つけるんじゃないか?既存顧客からクレームがでなければいいが。
人事部長 仕事じゃなくてお遊びになってるじゃないか。柏木君は英語もネットも堪能な才女なのに,これじゃ宝の持ち腐れだな。
袴田   はっ,大変申し訳ありません。管理不行き届きでした。
情報部長 ちなみにTwitterは基本的に社内閲覧不可としているので,閲覧等が必要な社員は都度申請をよろしく。それとこの件に関しては情報システム部門は一切関知しておりませんので,皆さんもその点の認識よろしくお願いします。
管理部長 でもさすが沖田君だ。この管理シートは実にわかりやすいね。これなら我々も彼らが無茶しないか常にチェックできる。少し安心したよ。
沖田   ありがとうございます。皆様にいただいたご意見はごもっともだと存じます。現在広告宣伝部で業務委託している大手Web制作会社に,コスト付加なしでアドバイザー・コンサルタントとして就任してもらえるよう依頼済みです。この部長会でいただいた貴重なご意見もしっかり盛り込み,3日後にもう一度基本方針を提案いたしますので,その際にご承認いただければと思います。いかがでしょうか?
社長室長 このプロジェクトは社長肝いりで失敗が許されないものなんだ。くれぐれも慎重にやってくれよ。
沖田   ありがとうございます。まずは体制の立て直しから入ります。また運用効果測定も適時実施してゆきたいと思います。今後もよろしくお願いいたします。
 

■企業Twitterアカウント,管理志向で殺さないための4原則

Twiiterを使い慣れた人なら誰でも直感的にわかることを,未経験者,特に古い体質を持った管理層には理解できない。どのような点を特に気をつけるべきか記載しておこう。貴社におけるTwitter開設会議の際には,この内容をプリントアウトして会議参加者に配布してほしい。

・まずTwitterに触れるべし
Twitterの運用や意思決定に関係する人間は,必ずTwitterに触れて文化を体感すべきだ。会議前にはアカウント情報も交換し,それぞれがどの程度Twiiterを理解しているかも把握しておくことが好ましい。(Twitterは入り込まないと本質を理解できないので) Wikipediaで概要を読んだだけの人物が発言する内容は,失敗の素になる種を多く含んでいる。

・現場にできる限り権限を委譲する
基本方針を共有したら,できる限り現場に権限を委譲する。ソーシャルメディアの本質を知らない人間が意思決定する,ないし意思決定が遅れることこそ諸悪の根源だ。共有すべき基本情報は,返信方針,禁止事項,社内規定への遵守など(詳しくは第一話へ) また権限譲渡にともない,社内報告はできるだけシンプルにする。

・運用においては透明性を徹底する
自社に偏った情報,問題の隠蔽,批判への無視や無関心などは厳禁。個々の担当者が情報を共有しながら,高い透明性を持って運用すること。これは柔らかツイートを売りとする軟式企業アカウントでも同様,「表現は柔らかく,運用は毅然と透明性を持って」が重要だ。多くの管理職は逆で,「表現はお堅く,運用はずるく」という発想が多い。

・企業視点よりユーザー視点を重視
ソーシャルメディアはまず最初に貢献ありきが鉄則だ。なぜなら集まってくれるユーザー自体がコンテンツであり,それがなければすべてがはじまらないからだ。企業メリットを先行させ,ユーザーに好感をもたれない運用をするぐらいなら利用しない方が良い。ただし競合企業はこの先,必ずソーシャルメディアを活用してくるだろうことを忘れてはいけない。

                                   
沖田はさっそく灰島秀樹をコンサルタントとして招き,部長会での意見を含めた形で検討を開始した。灰島いわく,現アカウントは企業幹部が目指すものと全く方向性が異なるため,新しいアカウントを立ち上げ,現フォロワーをそちらに誘導すべきだとのこと。さらに沖田は社長との直談判でキャンペーン用の追加予算を獲得し,大規模なフォロワー獲得に向けた準備をしはじめた。体制も大胆に見直す方針を固め,沖田直属の現Web運用チームが担当し,効率化を図るためツイート内容も見直す。ただしブログは手間がかかるので当面雪乃に担当させ,効果測定の結果次第で移行を検討することとした。豪腕の沖田は,わずか3日でこれらの方針をまとめ,部長会の承認も得た上で,第二回目のタスクチーム会議で灰島から新構想を発表させた。
   
沖田  公式アカウントに関する関する基本方針を発表します。今までのやり方はゼロベースで見直し,新体制で運用することで部長会から承認を得ました。アドバイザーの灰島氏から説明します。では灰島さん。
灰島  どうも,灰島です。みなさん,今まで運用ご苦労様。これから新しい体制に移行するから協力してね。新しいアカウントはビジネス重視。つまり儲かるってこと。基本方針はこんな感じだよ。よく勉強してね。

1.新アカウントを開設し,既存フォロワーに通知するよ。有志アカウントを削除すると不自然だから残すけど,製品情報やブログ更新などは新アカウントから配信するからね。
   
2.フォロワー獲得キャンペーンをするよ。フォロワーがプラス1000人になる都度,その1000人から抽選で1人に特別賞でSMSタブレット,100人にiTunesクーポン1000円をプレゼント。バナー広告だとフォロワー1人あたり平均約1000円だけど,これなら200円以下,1/5のコストだよ。しかもiTunes利用者は君たちの好きなアーリーアダプターばっかりだよね。キャンペーン告知は沖田さんの人脈で主要媒体に記事を出すから,みんな知ることになるよ。ってことは特賞のAndroidタブレットも自動的に露出されて認知度上がるよね。目標は1ヶ月で3万人,その分の予算は確保済みだよ。
   
3.ツイートは我々の方でキッチリ管理しながら運用するから心配いらないよ。内容はキャンペーンや製品情報が中心だね。軟式もいいけど儲からないよね。ブログはわりと好評なんで今までの方針どおり続けるよ。でも販売が目的だから,1記事ごとに売る商品を想定して,耳障りのいいインタビューに仕上げて,徹底的にコマースサイトに誘導するからね。でもそのあたりは雪乃さんの原案をこちらで加工しちゃってからアップするから大丈夫だよ。
   
4.ここから先は我々内部の話だけど,ROI測定もキッチリやるからね。まずはシンプルに,(1)投資は「フォロワー獲得費用+アカウント運用人件費」 (2)効果は「販売した商品の粗利益」として,3ヶ月以内に黒字化するように人件費をコントロールするからね。
   
灰島  はい。だいたい以上です。わかったかな。ということで,今日で一端このタスクチームは解散しますので。今までお疲れ様でした。

Twitterのフォロワー獲得キャンペーンで最も有名なのは,俳優アシュトン・カッチャー氏 (@aplusk) とCNN (@CNN) のTwitter史上初の100万人フォロワー獲得競争だ。カッチャー氏は「先に100万人に到達したらCNN創業者テッド・ターナー氏自宅をピンポンダッシュをする」と宣言しCNNに挑戦状をたたきつけると,CNNも彼の挑戦を受け,同局看板番組ホストのラリー・キング氏がコメントした。「カッチャー君,冗談はよしてくれ。CNNがどれだけ巨大なメディアかわかっているのかい。君の敵ではないよ,CNNは」 これにカッチャー氏は対抗。アフリカにマラリア対策にあたっている慈善団体に勝ったら1万セット,負けても1千セットの蚊帳(10万ドル相当)を寄付するほか,登録した100万人全員にテレビゲーム「Guitar Hero」を配布することを公約する。さらにこの話を聞きつけたEAは「100万人目は新作ゲームに出演させる」とヒートアップし,カッチャー氏が僅かの差で勝利を収めた。(ピンポンダッシュは警備上困難だったので,ターナー氏にちなんだ名前の飲食店にの前で約9600個の菓子を配布した)

                                           
【100万人達成の瞬間をおさめた実況中継】

またテクノロジー系を除く企業で最速100万人を達成したのは米国食品小売大手のホールフーズ・マーケット社 (@WholeFoods) だ。こちらもやはりキャンペーン含みで,Twitterに利用できるクーポンを発行したり「100万人フォロワー・コンテスト」を実施して,約1年という短期間で100万人を実現した。

【参考記事】
加熱するマイクロブログ「Twitter」ブーム (2009/4/30)

Twitterに限らず,ソーシャルメディアの効果測定は2010年の大きなテーマであり,様々な提言がされている。が,現時点では複雑な指標よりも,シンプルな効果測定をおすすめしたい。ただし効果測定は企業視点の指標に過ぎず,前述した通り,ユーザーの積極的な参加なしでは成立しないソーシャルメディアにおいて短期利益追求型は長期的に見て逆効果になることを念頭において運用する必要があるといえよう。

【参考記事】
効果測定を怠らないTwitterこそが勝ち残る(ITmedia, 2009/11/10)

 
会議を終えた勉強会メンバーは一様に意気消沈していた。苦労してはじめたTwitterアカウントが注目されはじめたとたんに運用チームからはずされ,その上ユーザーのことは何も考えず商業主義,拡大主義に走る方針を聞かされたからだ。

真下  なんなんだよ。あの灰島って。外部なのに敬語も使わないで,まるでいいとこどりじゃないですか!
青島
  すみれさん,なんなんすか,あの灰島って男?
すみれ 今うちがWeb系を外注している大手制作会社で一番の切れ者プロデューサー。SMSタブレットのコマースサイトも担当してもらっている。拝金主義の嫌味なとっちゃん坊やだけど,短期間で確実に設けさせる凄腕は業界でも結構有名。たぶん今回の件も裏でも成功報酬の話がすすんでるはず。
真下  でも悔しいけど感心する点もありましたね。キャンペーンとか。予算も確保したようだし,沖田女史は相当やり手ですね。
すみれ あの人は大手広告代理店出身で,メディアとの人脈が半端じゃないの。テレビも使う気かも知れない。いけ好かない女だけど。
雪乃  私,なんだか気が抜けちゃって...
青島  でも,我々のアカウントを閉鎖しろとまでは言ってなかったよね。あの意味のない日次報告からも開放されるみたいだし,せっかく雪乃さんのツイートにファンがこれだけ集まっているんだから,我々は草の根で継続しましょうよ。フォローしてくれたユーザーのためにも。
すみれ そうね。私,新しい運用チームに友達いるから,のちのち揉めないようにうまく話しとくね。集客にプラスになるはずだし,ユーザーもいるから当面続けるので仲良くやりましょうって。どうせ沖田女史はTwitter見ないしね。
青島  すみれさん,ありがとう。俺たちの仕事を理解してくれる人,きっと現れるよね。
雪乃  青島さん,私,今まで以上にこのアカウントでがんばります!すごく愛着があるんです。
真下  会社のことを想って始めたのに,こんな形で切られるなんて凄く悔しいですよね。絶対見返してやりましょうよ。ねっ,雪乃さん,がんばりましょう!
青島  みなさん,現場には現場のやり方があるってことを見せてやりましょう!

次回に続く)

 
【企業Twitter開局シリーズ】
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第一話 Androidタブレットを販売せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第二話 軟式ツイートと最初の難事件」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第三話 コンサルタント灰島秀樹」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第四話 ブログ・コメントを封鎖せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「最終話 ソーシャルメディアよ,永遠なれ」

 
【in the looop 2009年 アクセス・トップ7記事のご紹介】

1位 Google Phone"Nexus One" ネット上のバズを総まとめ (12/13) 
2位 mixi,モバゲー,iPhone 徹底比較 「どのアプリが一番儲かるか?」 (12/01) 
3位 個人が印税35%の電子書籍を出版できる時代 - Amazon Kindleの衝撃 (12/30) 
4位 【速報】昨日からネットで大騒ぎ "PhotoSketch"が凄い件 (10/07) 
5位 【2009年11月最新版】直近決算発表に基づくmixi,モバゲー,GREEの業績比較 (11/12) 
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7位 Googleは20%ルールによってイノベーションのジレンマを回避している (12/21)   

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最新の筆者著書です。 『Twitterマーケティング 消費者との絆が深まるつぶやきのルール』

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