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iPhoneとSekai Cameraが牽引した,AR市場の爆発的な成長予測

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「Sekai Camera」の 衝撃的なデビュー 以来,AR(拡張現実,Augmented reality) への期待が一気に高まっている。

このARという言葉自体は1990年にボーイングのTom Caudell氏が発案(航空機の保守技術者向けの技術情報提供方法として)したものだと言われている。

VR(仮想現実,Vertual Reality)と混同しがちだが,実は対をなす概念だ。VRはサイバースペースが舞台となるのに対して,ARは現実の環境に電子情報(アノテーションと呼ばれる)を合成付与するものだ。

「20世紀少年」の 「ともだちランド」 がVRなのに対して,ARの代表格は2008年度の日本SF大賞を受賞した 「電脳コイル」 だ。202X年の日本を舞台にしたストーリーで,キーとなるのが「電脳メガネ」,子供たちの間で大流行しているウェアラブル・コンビュータだ。このネットと常時接続されている「オバケが見える魔法のメガネ」をかけると現実の街並みにバーチャルなペットなどがあらわれる。ちなみにiPhone3GS用ARゲーム 「Mosquitoes」 などはかなり近い線までいって面白い。

さて,このARのテクノロジーとしての成熟度を,ガートナー社が毎年発表している「テクノロジーのハイプサイクル」で見てみよう。

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ガートナー、1,650のテクノロジの成熟度を評価したハイプ・サイクル・スペシャル・レポートを発行 (2009/9/8)

表現もユニークだが,2009年のARは「過度の期待が集まるピーク期」の直前。おそらく 「Sekai Camera」 の大ヒットでついにピーク期に入ったというタイミングだろう。ちなみにハイプ・サイクルを市場・投資・企業採用の観点から見た次表も,今後のAR技術の成長を示唆しているようで実に興味深い。

Pr2009090801_img02_large

この図でいうと,ARはまさに「マスメディアでのハイプ(過剰宣伝)が始まる」タイミングだ。

さらに意外なのだが,このハイプサイクル調査が開始された2005年の時点からほとんどARはほぼ同じステイタスにいたことだ。2005年のハイプサイクルは次の通り。

2005

つまり,もう4年もの間,期待感はあるものの爆発寸前でとまっていたテクノロジーなのだ。そしてそれを後押ししたのは,間違いなく日本発の「電脳コイル」,さらに「Sekai Camera」の登場だ。

またハードウェアの視点で見ると,このARを実現するためには「カメラ」「GPS」「ブロードバンド接続」「傾斜センサー」「デジタルコンパス」の5点セットが必要であり,その代表格は今年6月に発売になったiPhone3GS。その他,Android機やNokia N97なども対応している。

ここからが本題だが,このAR技術はビジネスとしてどのくらいのポテンシャルを持っているのだろうか?
興味深いレポートが英国調査会社Juniper research社から発表されて話題になっている。

 Mobile Augmented Reality Forecasts, Applications & Opportunity Appraisal 2009-2014 (2009/11/26)

同リサーチによると,「モバイルAR市場」は2010年までは2億円(2m$)の規模にとどまるが,対応するスマートフォンの普及により2014年には650億円(732m$)になるだろうと予測している。

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レポートでは,位置情報と連携したゲームや情報サービス,商品広告などを有望分野とし,全7分野がピックアップされている。

・ Location-based Search
・ Games
・ Lifestyle & Healthcare
・ Education & Reference
・ Multimedia & Entertainment
・ Social Networking
・ Enterprise

また課金形態としては,ダウンロード販売以外に,広告,フリーミアム型サービス(基本無料でオプションが有料)となると予測している。この販売形態はまさに書籍「フリー」で紹介されている3つのビジネスモデルだ。興味ある方はこちらの記事を参照してほしい。

ビジネスパーソン必読の名著「フリー」に学ぶ,無料からお金を生み出す具体的な戦略とは? (2009/11/23)

ちなみに 米国ABIresearch社の調査 はもう少し堅実で,2014年で310億円(350m$)と見込んでいる。が,いずれにせよ極めて高い成長性が見込まれていることは間違いない。

その背景には爆発的な増加が予想されているスマートフォンの存在がある。例えば,米国ガートナー社調査では2012年には全世界で契約数5.2億台に成長すると予想しており,その時点のシェアは次図の通り。(単位は百万台)

iPhone vs Android vs SymbianOS。モバイル三国志の現状と未来予測 (2009/10/22)

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5.2億台(累積台数。2012年の時点ではそのうち多くはAR対応機だろう)ということは,2012年の時点で先進国ではキャズム(クリティカル・マス,16%)を超えている計算になる。スマートフォンやAR技術はネットワーク外部性(利用者が増えるほど利用者の利便性が増す特性)が働くため,キラーコンテンツが開発されれば成熟ラインまで一気に普及がすすみ,巨大な市場になる可能性は高いだろう。

またプラットフォームとしてのハードウェアもスマートフォン以外に広がるだろう。間違いなく対応しそうなのがポータブル型ゲーム専用機とタブレットだ。デジカメや電子書籍リーダーにも広がるかも知れない。またキラーコンテンツ次第では「電脳メガネ」を地でいくウェアラブル・コンピュータがヒットする可能性もあろだろう。

はたしてこの予測はハイプ(過剰期待)か否か。

それはARのアプリケーション次第だろう。しかしアプリケーション・プラットフォームのオープン化とそれにともなう世界中のデベロッパー参戦により,コンテンツ開発の量やスピードは3年前のそれとは比較にならないほど進化している。

「電脳コイル」の設定は202X年だったが,「電脳メガネ」の普及は意外と早く201X年になるような気がしてきた。

【参考記事】
ゲーム業界を襲う世界的な激震。ソーシャルゲーム急成長のインパクト (2009/11/19)
2009年Q3スマートフォン出荷台数は4300万台。iPhoneの順位と出荷トレンドは? (2009/11/8)
Googleが創業わずか3年足らずのAdMobを約670億円という巨額で買収した理由 (2009/11/10)
世界中から注目が集まる,日本携帯サイトのビジネスモデル (2009/10/23)
iPhoneが出版業界を救う。電子書籍がGameに続くキラーアプリに (2009/11/4)


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