電子カルテって誰のもの? もう一度考えてみた
昨日、全国在宅療養支援診療所連絡会の全国大会がありまして、基調講演がUstreamで中継されていたので、自宅で聴講させていただきました。
医療業界って、そもそも閉鎖的というイメージがあったのですが、症例やユースケースを議論する講演やディスカッションの内容まで公開で中継されることは、驚きであるとともに素晴らしい試みだと思います。
特別講演[世界の在宅医療〜イギリスGP,オランダ,ドイツSAPV各国の事情〜]
※残念ながら録画はないようなので、今見ても何も見れないのですが...
■世界の電子カルテの普及率比較
私は2年ほど前から医療介護の分野でのサイボウズのクラウドの普及啓蒙に取り組んでいます。
正確には、サイボウズ普及に取り組む以前に情報共有とIT化の啓蒙といったほうが正しいかもです。
2013年における日本の病院向け電子カルテ普及率は約31.0%、大病院ではほぼ普及しているものの中小規模ではまだまだです。
※国内電子カルテ市場は2018年に2000億円規模、シード・プランニングが予測(日経デジタル ヘルス)
この講演で示された各国の話では、イギリスでは電子カルテの普及率が95%というのに正直驚きました。
調べてみると、世界ではこういう感じらしいです。
電子カルテ導入率(2012年-2009比較調査)
1位 ノルウェー 2012年98%(2009年97%) 1%増
1位 オランダ 2012年98%(2009年99%) 1%減
3位 英国 2012年97%(2009年96%) 1%減
3位 ニュージーランド 2012年97%(2009年97%)増減0%
5位 オーストラリア 2012年92%(2009年95%) 3%減
6位 ドイツ 2012年82%(2009年72%) 10%増
7位 米国 2012年69%(2009年46%) 22%増
8位 フランス 2012年67%(2009年68%) 1%減
9位 カナダ 2012年56%(2009年37%) 19%増
10位 スイス 2012年41%(2009年未調査)参考;日本 2011年22%(2008年14%) 8%増
※九州医事研究会ブログ より (元データは、ブルームバーグの出典)
医療の現場に入り込んでゆくと電子カルテよりもっと大切な問題がたくさんあることも知るのですが、それにしても低すぎますね。
導入しない理由として、病院向けのアンケート調査では「必要性を感じない」「導入したいが費用がかかる」「導入するには時期尚早」などが上がっているようです。
病院がお金をかけてシステム導入するのですから、病院が導入しない理由としてこれらをあげるのは経営の観点から当然なのですが、では電子カルテは誰のためのものなのでしょうか?
■電子カルテで得をするのは誰なのか?
基本的にITシステムにかぎらず設備投資というものは直接間接の別はあれ受益者負担です。
医療は基本は患者のためにあるものですから、まわりまわって患者の利益にならなければ導入する意味はないでしょう。
たぶん日本のお医者さんが電子カルテの導入になかなか意欲的にならないのは、自分のところで治療する患者さんに必要だとは思えない、という感じに思っているのかと想像できます。
しかし、電子カルテ(に限らず患者さんのデータの共有)には、本来さまざまな効果が期待されています。
■患者にとって
1.自分の治療データがどこに行っても見ることができる。
2.生まれてから今までのデータが蓄積され、無駄な検査が減るし、正確な治療が期待できる
3.データが蓄積されるので成人病防止や健康管理に役立つ
4.意識のない場合や遠隔地で倒れた場合でも、治療する人が過去データを見れる
■医師にとって
1.アレルギーなどの有無や見逃しやすい既往症などが引き継がれるのでミスが減る
2.検索や統計処理が簡単になるので、診断の精度が上がる
3.(慣れれば)効率化でき、利益があがる
■地域(行政)にとって
1.伝染病などの際に、現状を瞬間で把握できる
2.予防の活動の成果を可視化できる
3.データの解析が簡単にできるので、医療費の偏りや予防による医療費の削減が期待できる
まだほかにもありますが、とりあえず思いつくところを上げてみました。
こうやって見るとお医者さんの利益は比較的に高くはないですね。
となると、むしろ大きな利益を得られるはずの患者自身が健康保険で毎月100円位の「電子カルテ料」をオプションで払い、このオプションが有効の場合は、お医者さんは電子カルテで記入して患者さんが見える状態にしないといけないルールにしたほうが普及が早いのかもしれません。(導入してない病院には行かない)
それか、医療費の最適化の恩恵を享受する行政が行政地区全体での地域電子カルテを準備するとか。
どっちの方法をとっても、現状より普及は促進しそうな気がします。
■情報共有とか流通ができない電子カルテってどうなのよ?
が、ここで一番問題に思うのは、上記のメリットを享受するにはデータが病院間や地域で共有されていることが前提ですが、電子カルテの普及率以前にそこが全くできてない現状です。
ちなみに普及率95%超えのイギリスでは電子カルテは2種類で9割以上のシェアとなっており、
両方のデータは相互に互換性があるそうです。
そうなれば、患者は引っ越しをしても生まれてからのデータを持ち歩けます。
意識がなくなっても、どこか遠くで病に倒れても、身分証明書があれば医師の適切な処置と、場合によっては希望する人生の終わり方まで受けられるでしょう。
行政は、統計情報を予防や医療行政に役立てて、病院間や医師間での治療の偏りを適切なものにしたり、行動特性と疾病の関連を調べて予防策などを打つことで、民生費の適正な支出に取り組むことができます。
データのやり取りができない電子カルテを(しかも高い価格で)お医者さんだけの負担で入れさせようとしても、それはなかなか進まないのではないかなと思います。
もちろん患者さん本意の治療を追求し、多職種連携や地域包括を見越した活動をされている意欲あるお医者さんの中には、診療所の規模であっても電子カルテを使っているところはたくさんあります。
電子カルテというと素人目には患者情報を関係者で共有ということを普通は思い浮かべるのですが、実はカルテは医師だけがみるもので、請求と投薬の処方のための閲覧を除いては意外に医師以外の関係者は見ません。
患者本位を考えての情報共有であれば、当然に看護師、薬剤師、栄養士、はたまた理学療法士(リハビリ)やケアマネージャーなどとも共有して、患者さんが望む治療計画や生活目標に沿ったチーム医療をしたほうがいいということになります。
が、現在の電子カルテは、その関係者間での情報共有すら難しいのが実情で、価格が高く、請求と管理の効率化でスケールメリットがでる大病院以外の普及率が低くなるのはまあ当然の結果ともいえるかと思います。
医療業界用のサービスではなく、自分で作り込み(もしくは誰かに頼んで作り込み)しないと使えないサイボウズのサービスを医療カルテとして使っていただいている事例などが登場したのは、そういった「地域」で「患者本位」に「情報共有」できるものが世間になかったからだと思います。
電子カルテとは何だ?というそもそもな議論もあるかとは思いますが、下記の動画に出てくるサイボウズ(kintone)で構築した電子カルテの活用法が、思い切り手前味噌ですが、本来あるべき使い方ではないかと思うのです。
※この動画は昨日のUstreamの基調講演公開を担当された福井のオレンジホームケアクリニックさんでの活用の様子です。