【読後感想】IT産業再生の針路--破壊的イノベーションの時代へ
元日経システムプロバイダ(現ソリューションビジネス)編集長の田中克己氏が上梓された、前作「IT産業崩壊の危機」の続編ともいえる書籍のご紹介です。
前作は、国内のIT市場の危機について、多方面の取材から結論付けていて、率直に申し上げてやはり暗澹たる気持ちに陥ったところもありましたが、今回はそうした危機を乗り越えるために、企業はどのようなディレクション(針路)をとるのか、が焦点となっています。つまり、新刊「IT産業再生の針路」は、希望の書ということです。
といっても油断してはいけません。冒頭の数章は、現状把握のために、相応に刺激的な内容となっています。IT付加価値の源泉の変化や、人材育成への課題など、田中氏独自の視点から、IT業界を取り巻く根本的な課題への指摘が行われています。
ちょっと深読み&我田引水をさせていただくと、オラクルが何年も前から提唱している新時代の潮流としての「ネットワーク・コンピューティング」(シン・クライアント)や「ソフトウェア・アズ・ア・サービス」(SaaS)に関連するような話題も盛り込まれています。すなわち、時代の変化は確実に起きていて、その変化への対応は重要課題。そのための投資や計画、パートナーシップが急務であるとも。
インドをはじめ、海外のSI企業との協業を加速化させる日本企業に関する事例は、学び多き章でした。単にコストが安いからだけではなく、仕事が的確で早く、予算と納期計画を立て易いプロジェクト推進など、長きに渡って議論されている、不十分な要件定義とFit Gapプロセスに国内企業がどう取り組むべきか。仕事の効率化と収益構造のイノベーションにどう取り組むべきかという指摘がなされています。
ジャーナリストらしく、内容のほとんどが取材に基づいているので、定性的な要素が多い。その分、読みやすく、数時間あれば読破できるでしょう。ITを産業として捉え、現状を短時間に、大局的に理解するためには必読の書ではないでしょうか。