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夏目房之介の「で?」

エマニュエル・ギベール『アランの戦争』

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http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-6349.html

すでに漫棚通信さんで紹介され、しかもギベールの技法の映像まで紹介されているので、これ以上いうこともないという感じなのだが、しかしこれは傑作だと思う。

一人の、普通の米国の青年が兵士になって第二次大戦の末期欧州戦線に行き、さまざまな体験をして米国に帰り、やがて再び欧州に戻ってくる。そんなアランが69歳のとき、30歳のギベールと出会い、取材してBDにした作品。アランは米国と欧州で出会った人々を事細かに思い出し、情景や自分たちの心理を描写してゆく。それはまるで海岸に打ち寄せられた白骨のように冷静に客観的に語られていて、ギベールの静かで奥行きのある余白を持った、すばらしく味わいのある絵でたどられる。人間の描写もさることながら、風景の絵がまたとてもいい。静かに人の人生が感じられる傑作である。

それとは別に、兵士生活のさまざまな様子を知るにつけ、こんな軍隊に日本軍が勝てるわけがない、という印象がやってくる。また、のちの東西冷戦を予告する米国の戦略によって、相当いい加減な作戦にも翻弄されているところも面白い。歴史の一こまとなった時代を読むという点でもおすすめです。

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