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夏目房之介の「で?」

李先生の講習会が始まった

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八戒さんのブログにも報告されてますが、李先生の講習会がすでに2回ありました。
http://d.hatena.ne.jp/nomurahideto/

毎回思うのだけど、5年過ぎているのに、いまだに講習会に出るたびにビックリするような発見があったり、進化があったりする。それも、やってみればたしかにずっといわれてきたことだったり、凄くシンプルなことだったりするんだけど、李先生の講習会でしか起きないことだったりする。
今回、まず驚いたのは、ただ単純に、起勢のときに前に伸ばした腕の指先を揃えたまま捻って、そのまま維持して龍形の姿勢をとるっていう、それだけのことで円の中心に向かって両肩が平行になるという、じつに単純な指摘だった。これをやると全然負荷が違ってしまい、とくに背中の張りが凄く出るのだ。ここんとこは、多分練功度によると思うのだけど、その度合によっては効果が大きいことが実感できるはずだ。
李先生はこれを「手の中正を保つ」と表現したが、なるほど、手の中正を保つことが、そのまま胴体と腰の中正に連絡するんである。きついけど、充実感がまるで違う。

そして、この背中の張りを維持して単換掌などの掌法を行うと、これまたまるで違うレベルの負荷がかかる。とくに僕の場合、単換掌の動作を終えて龍形に戻るときに「やれやれ」という感じで力が抜けてしまうのだが、それはダメだと指摘された。それが僕の注意すべきところだと。注意にしたがって、単換掌のすべての動作を、背中の張りを作ることを意識しつつ行うと、これはもう確かに全部が全部しんどくて、一瞬も気の緩むところがないような掌法なのだ。
李先生は「単換掌がいちばん大変で、双換掌のほうが楽だ」といってたけど、少しわかる気がする。二日目に双換掌をやったけど、しんどいとはいうものの、両手を逆方向に向けて広げて伸ばす形があるので、そこで起こる背中の脱開は気持ちいいのだ。馬貴八卦ではストレッチを行わないが、要するにこういう動作をきちんとやれば自然とストレッチになっているはずなのだろう。

今回の冒頭で李先生は「八卦掌にはじつに多くの掌法、動作がある。それらを学び練習することが重要だ。なぜなら、それらを行うことで、じつはたった一つのこと、中正を学び、気血をさかんにすることができるからだ」というようなことを話された。正直、僕はあんまりにも多くの種類の掌法や変化をいちいちおぼえることに興味がなくて、いくつかの掌法の基本と走圏と易筋さえできれば(あと、せいぜい88式ね)、それをずっとやっていたいのだ。が、李先生的にはそれではダメで、おそらく進化や深化が止まってしまうのかもしれない。
李先生はまた「これまでの講習会では下半身を中心に注意してきたが、今回は上半身を中心に行う」といった。練功の進んだ人達にとって、これは新しい段階を示唆するものなのかもしれない。でも、どのみち僕は形を習った最初は全然力も入らないし、ただ形だけおぼえるのがやっとなので、ゆっくりゆっくりそこに充実を感じるまで牛歩で進むしかないわけで、やっぱり多くをおぼえられないけどね。

「動きだけをなぞるのは簡単だが、中正を保って行わなければ意味がない。そうでなければ気血を巡らし養うことができないし、そうでなければ人間の本質的な生命力につながる運動にならない」というような(やや意訳だけど)李先生の言葉は、それだけ聞くとかなり抽象化されているんだけど、じつはこの「中正」という状態のミもフタもないような具体性に支えられている。また「この動きは実戦ではどう使うのかなどといったことを考えてはいけない」ということも、今回強調されている。これは要するに人間の生命のありように対する、一種の基礎デッサンのような練習なのかもしれない。人間が元気に生きるための最低限の絵が描ける技術の開発なのだ。

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