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夏目房之介の「で?」

小林まこと『青春少年マガジン1978~1983』

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もちろん僕は小林まことが大好きである。『1・2の三四郎』の垢抜けないけど無理押しなギャグセンスが大好きで、あきらかな手抜きがまた好きで、その後、絵もセンスもどんどん良くなるにつれ、驚くほど洗練されて、無理押しギャグも手抜きもともに高度な「間」になって、あの顔面の崩壊する唇のギャグもジム・キャリーばりの芸になっていった過程が大好きだ。

その小林まことが『青春少年マガジン1978~1983』(講談社)を出した。マガジン50周年記念企画で、小林の11歳頃からの作品紹介やデビュー作『格闘三兄弟』再録、没ネームなどが収録されている。小林まことファンのみならず、マンガやマンガ編集やマンガ史に興味のある向きは必読の内容である。

週刊誌マンガ家の過酷な日々が「笑い」とともに展開される部分は、よくある回想マンガなのだが(いや、それにしても、あの手抜きは一人で週刊マンガを描いていたからなのか! 恐ろしい)、初代担当や、のちに「モーニング」を創刊し、小林に『ワッツ・マイケル』を描かせる名編集者・栗原良幸氏が登場し、そのやりとりが再現されるあたりが興味深い。

・・・・で、じつは回想マンガとして凄いのは、ここから先だ。
デビュー後仲良くなった小野新二、大和田夏希との交友が描かれ、次第にそれぞれ追い込まれてゆく心理状態が描かれる。小林自身、ビルから飛び降りる気持ちを手摺を握り締めて耐える場面があり、あとの二人は自死と肝臓で相次いで亡くなるのだ。
本当に週刊マンガ誌の現場って過酷で死屍累々なのだな、と思わせ、ここで初めて本の帯にあった〈ボロボロ泣きながら描きました〉という言葉が、ありきたりのものじゃなかったことに気づくのである。ここまで描いた回想マンガを、しかもマガジン本誌に連載するというのは、ちょっと前なら考えられない気がする。どんな業界でも、急速に売れてゆく産業市場の現場とは、多分こんな風に過酷なものなのだろう。

必読である!

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